第44話 覚悟

リフマルスという街にあるビルの前にて。


私もアリスさんに続いてビルの中に入ろうという気持ちはあるが、なぜか脚が動こうとしない。

なぜなら、私たちが来たからロゼッタ達が助かるとは限らないし、あのロゼッタを倒してしまうほど強いのがこのビルの中にいるのだ。

とにかく怖い…。

ロゼッタに時間を戻して生きるチャンスを貰えたのに、また自分が死んでチャンスを水の泡にしてしまうのではないかという気持ちと、本能的な恐怖心が脚を動かさないようにしているのだろう。


「結衣…?大丈夫?」


「はい…大丈夫…です…」


アリスさんが私の事を見て心配そうに声をかけるが、私は震えた声で返答してしまった。

心配かけたくないのに…と心の中で思う。


「…アリスさんは怖くないんですか…?」


「怖くないって…そんなわけないよ。すごく怖い」


「そうなんですか…?けど…」


「…怖いよ。でもね、私は私の事を救ってくれたロゼッタ達を失う事の方が凄く怖い…」


私は震えた感じでアリスさんに質問してしまったが、アリスさんは優しく返答してくれた。


…そうか。アリスさんも怖いんだ…。

いや、こんな場面で怖がらない方がおかしい。

だけど、アリスさんはその気持ちを押し殺し、私を不安させないようにしている。

それに、私達の、ロゼッタ達の未来を守ろうとしているのだ。アリスさんは私以上に覚悟を決めている。

私が救いたいと言ったはずなのに今の私はなんなんだ…!


私は自分の気持ちが甘かったと思い、気持ちを引き締めアリスさんと共にビルの中へと入った。


ビルの中は恐ろしいほど静かで、街の音しか聞こえない。

慎重に一階の部屋を見て回るが、誰もいない。

私達は二階、三階と少しずつ上がっていき、同じ事を続けていく。


「…待って」


「…!?」


二階、三階とも異常が無かった為、さらに上へと上がろうとするとアリスさんはピタッと階段の途中で止まり、私に止まるよう促す。


「どうし…」


「…しっ…!……やっぱりだ…」


「やっぱりって…?」


「…最初私の気のせいかなと思ったんだけどさ…。階数上がる毎に環境音が異様に静かになってる気がしない…?」


アリスさんは私にそう言った。

階数上がる毎に環境音が徐々に小さくなる事は普通だと思うが、アリスさんの言い方と行動を見るに、おかしいレベルで静かになっているようだ。


「…一回確認なんだけど、ここの建物って外で見た時何階建てだった…?」


「確か…よんか…あれ…?」


私はアリスさんの質問にそう返答しようとしたが、アリスさんが感じている疑問の意味がなんとなく分かった気がした。

私達が今いるのは三階と四階を結ぶ階段の途中。

だが、耳に入ってくる環境音はそれより上の階、10階以上で聞いているような感覚だ。


「…やっと気づいた…?」


「…はい」


「…とりあえず進もうか…」


アリスさんはそう言い、四階へと上がる。

私もアリスさんについて行くように四階へと上がる。


「……!…………!」


すると、階段登ってすぐの部屋から誰かの声が聞こえた。

扉は閉まっており、内容はよく聞こえなかったが、部屋の中に誰かいるようだ。


「………。………………」


アリスさんは扉に耳を当て、中の様子を確認してみると中に少女と声の低い女性の二人がいる事が分かった。


「…………?………… !」


「………………。」





「そこにいるのは誰だ?」


「…っ!?結衣ちゃん!離れっ…!!」


ギィイイイイイイイイン!


突然聞こえた低音の女性の声の後、アリスさんが危険を察知し叫びながら扉から離れようとすると、突然扉からチェンソーの刃が木屑を撒き散らしながら現れ、扉を真っ二つに切ると、おそらく低音の声の女性は凄まじい亀裂の入った扉を思いっきり蹴飛ばした。


「そんなとこでコソコソ何やってんだ?お前ら」


チェンソーを持った女は、私達の事を見て冷たい目でそう言った。


私は彼女を見て(この人が…ロゼッタさん達を…)と確信した。

なぜなら、女性の容姿は髪は黒のロングヘアーで眼は赤く、上下黒の服を着て、足首ぐらいの長さのブーツを履いている。

それは比較的普通だが、おかしい箇所も何点かある。


一つは身長。身長は私やアリスさんより高く、おそらく180は超えている。そして、二つ目は彼女の持っているチェンソーだ。


普通なら扉を切る時、それなりの時間が必要なはずだが、彼女のチェンソーはハサミでコピー用紙を乱雑に切ったかのようなスピードで扉を切った。

ガイドバーが異様に長い上に、男性でも片手で持つのが厳しそうな重量のチェンソーを彼女は片手で持って私達の事を見ている。


そして、三つ目は彼女の背後に椅子に拘束されている少女だ。

少女の目元を切りつけるように入っている傷口からはどす黒い色の血が流れており、「いたい…お父さま…」という悲痛の叫びに近い声が聞こえてくる。

これはチェンソーの女がやったのだろう。


現段階でチェンソーの女がどういった能力を持っているかは分からないが、ロゼッタ達を倒した相手かもしれないと私とアリスさんは強く感じた。

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