第36話 真実②
それから数分後、私とマーガレットはロゼッタ達のいる旧宅へとたどり着き、部屋の中へと入った。
「あっ!お帰りユイちゃん!」
「戻りました」
ロゼッタは私達の事を明るく向かい入れる。
最初は気のせいだと思っていたが、意識してロゼッタの顔を見ると確かに目元が母親に似ている。
少しずつピースがはまっていく様な感覚になる。
「ん?私の顔に何か付いてる?」
「いえ、特に何も…って何なんですか?その紙?」
私はロゼッタの顔を見た後、私の姉かどうか聞こうかと思ったが、ロゼッタの前に置かれている書く場所が無くなるまで英文がびっしりと殴り書きされている紙が目に入った。
「ああ、これ?これは、ユイちゃんをどうやって戻すかを考えた紙。やっと答えが見つかったんだ!」
「…本当ですか!?」
私はロゼッタの話を聞き、嬉しくなった。
そして、紙の隣を見るとペン先が少し曲がり乱雑に置かれた万年筆が転がっていた。
おそらくだが、ロゼッタはかなり力を入れて書き上げたのだろう。
だが、喜んでいるのも束の間ロゼッタは真剣な口調で話を続ける。
「…けど、ユイちゃんにはどうしてこの世界に来るようになったかを知らなきゃだめだね」
「どうしてって事は…あれですか…?」
「…そう、ユイちゃんが考えている通り、今からユイちゃんの死因を見てもらう。二人だけで」
ロゼッタは真剣な顔で私にそう告げた。
確かに、この世界で出会った由佳ちゃんとかは死因を知っていたが、私はそれが分からない。
知らなくてもいい事なのだろうけど、知りたいという複雑な感情になる。
「…分かりました。覚悟は出来てます」
私は感情を押し殺し、ロゼッタにそう伝えた。
もし私が「嫌だ」と拒否をしても、問答無用で見せてくるのだろうし、見てもらうと言うという事は、そこに何かヒントがあるからなのだろう。
ロゼッタは私の言葉を聞くと、私の肩の上に手を置き魔法を唱えた。
景色は闇に吸い込まれるように暗くなり、体に気持ち悪さを感じ始める。
「…ユイ……ユイ」
「…っ!」
私は背後から聞こえてくるロゼッタの呼ぶ声に気付き、目を覚ました。
目の前の景色はマーガレットの家の中ではなく、夜空で蒸し暑い私のいた世界の住宅街だった。
戻ってこれたのか…と懐かしさに一瞬嬉しさを感じたが、空を見ると異様な数のヘリコプターが飛び、何台もの救急車が走り抜けていく。
そして、踏み切りの方へ目をやると人混みが出来ていた。
「何が…起きてるの…?」
「…行ってみよう」
異様な光景に恐怖心を感じた私はロゼッタに質問をするが、ロゼッタは真剣な顔で一言そう言うと踏み切りの方へと歩いて行った。
人を掻き分け、線路内へと立ち入ると、この異様な光景の原因がすぐに分かった。
「危険なので近づかないでください!!」
部外者が入らない様必死に声を上げている警察、脱線し横倒しになった列車の中へと入り救助をする消防隊員、線路脇で助け出された乗客の手当をしている救急隊員など、辺りは騒然としていた。
そして、奥の方には車両と車両が正面衝突したのだろうか、踏み潰した空き缶の様にぐしゃぐしゃに変わり果てた車両があった。
「…え…?な…なに…が…起き…てるの…?」
「…っユイちゃん!触っちゃだめ!」
訳が分からなくなった私は、何を思ったのかロゼッタの制止する声が聞こえているのに横転した車両に手を触れてしまった。
ゾクッ…!
車両に触れたと同時に、強烈な悪寒と、脳内に突然車両内が停電になり、強烈な轟音の後窓ガラスが割れ、自分の体が投げ飛ばされたかの様に浮く光景がノイズの様に無理矢理入り込む。
そして、全身に謎の強烈な違和感を感じ、気持ち悪くなる。
(なにこれ!寒い!全身が痛い!凄く痛い!助けて!お願い!)
「はあ…!はあ…!うっおええぇ!」
私は全身に走る気持ち悪い感覚に押し潰され、吐いてしまった。
吐き終えると苦痛だった全身にあった強い衝撃は一気に消えた。
「大丈夫?」
「は…はい…。ごめんなさい…。注意を無視して触っちゃって…っ!」
私の事を心配したロゼッタが倒れそうになっている私を支えながらそう言った。
私はロゼッタに謝る為に顔を上げると、ぐしゃぐしゃになった車両から担架に載せられて運ばれてく自分の遺体が目に入ってしまった。
担架に載せられた私は、制服が血だらけのボロボロで、垂れ下がった右腕は骨が折れ、指もあらぬ方向へと曲がってぐったりとしていた。
あれを見る限り、私は即死だったのだろう。
「…ユイ……ユイ」
「…っ!」
私はロゼッタの呼ぶ声に目を覚ました。
辺りを見渡すと、マーガレットの家の中に戻っており、私の死因を見せる時間は終わったのだろう。
「ユイちゃん…今は大丈夫?」
「はい…。けど、私って…列車事故で即死だったんですね…」
「そう…みたい…。ごめんね、五分だけだったけどかなり辛いものを見せちゃったね…。でも、あれを回避すればいいの」
「回避…?」
「うん。…だけど生き返らせる事は出来ないから、時間をユイちゃんが生きてる時間まで巻き戻して、ユイちゃん自身が運命を変えれる行動を取る。そうすれば、ユイちゃんが列車事故に巻き込まれずに生きていられるの」
「本当ですか!?」
「うん…けど、そうすると記憶も巻き戻されちゃうから私達と会った記憶は全て消えるの…」
ロゼッタは真剣な顔でそう言った。
私が元の世界に戻る…いや、運命を変えるという事はロゼッタ、サーニャ、マーガレット、途中で別れたミーナとの思い出が全て元の世界の記憶に上書きされ、無くなるという事なのだ。
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