第四章「偽りの自分」

第27話 喧嘩

リプール町から数時間車を走らせ、私達は目的地「アレゲニー町」へとたどり着いた。


マーガレットやロゼッタが言っていた通り、この町は今まで訪れた町よりも広く、五階建ての建物が大半だ。

元いた世界でいうと、イギリスっぽい感じがする。

だが、違うと思う事は多々ある。

それは、街灯の暗さ(たまに壊れたのもある)、人は多いのに何故か活気がない、ガスと油の臭い、ゴミは普通に散乱とあげるとキリがないレベルで違う。

時間的に真っ暗な為、明るい時に見るともっと酷いのだろう。

たしかにこの町は住む場所じゃないと思う。


車を数分走らせ、私達はマーガレットの自宅へとたどり着いた。


「ロゼッタさん、少し二人きりで話したいんですけど…」


私は車を降りるとロゼッタの元へ近寄り、そう言った。

ロゼッタは「うんいいよ」とだけ言い、マーガレットとサーニャも察したのか何も言わずに家へと入ると私達を一階のリビングに案内し、二人は二階へと上がった。


「それで、話って…あの事だよね…」


私達はソファに座ると、ロゼッタから話を始めた。

ロゼッタは私が彼女に何を聞きたかったのか分かっているらしい。


「はい…。あれって本当なんですか?」


「あれって…ユイちゃんが死んでるって事?」


「はい」


「…うん…。本当の事…」


やはり、私は死んでいる様だ。

本音を言うと、私は少し「死んでたら…」と考えた時がある。

だが、その考えは頭の片隅にしまっていた。

死んでたとなると、私はこの世界にいる事しか出来ない。戻る事は出来ない。

ロゼッタ達の行動を見て、私は元いた世界へ戻れたら正直にやりたい事を両親に伝えたり、私のせいでギクシャクし、溝が深まったままの友情関係を修復したいと考えてた。

それが全て出来ないと言う事に絶望と苛立ちを感じる。

その事にも腹は立っているが、一番はそれではない。


「じゃあ、なんでその事をずっと隠してたんですか?」


それは、ロゼッタがずっと隠していた事だ。

友人や家族にだって隠し事はある。それは当たり前だ。

だが、ロゼッタは私と出会ってすぐの頃「戻れる様になったら教える」と私に話していた。


「それは……ユイちゃんを悲しませたくなかったから…」


「悲しませたくなかったって…いつから分かってたんですか…?」


「……ロバートの…依頼を受ける前から…」


「ロバートの…前からって…っ!かなり月日経ってるじゃん!なんでその時言わなかったの!?」


私はロゼッタの言葉を聞き、怒りのあまりさっきまでの敬語を忘れ、怒鳴り散らすようにロゼッタに問い詰める。


「さっき言ったように…」


「さっき言ったようにって、私を悲しませたくなかったから!?あの時言ってもらった方がまだ良かったよ!ロゼッタに帰れるようにするって言われた時、希望を持てたよ!だからどんな辛い事も耐えてきた!時々救えなかったり、残酷な場面に参りかける時もあったけど…そのうち戻れるって思えば耐える事ができた…!なのに…!」


正直、私は我慢の限界だった。

戻れないと分かれば割り切る事は出来たが、戻れる可能性があったからその時のために耐え続けた。

人が死ぬ光景、虐待、見たくないと思えてくるほど見てきた。

その光景をこれから先、死ぬまで見続けなければならないと考えると嫌になってくる。

ロゼッタ達と離れたとしても、この世界で生きていける気がしない。

誰かに殺されるなら自殺した方がマシだ。

耐えられない…。


私の怒鳴り声を聞いたマーガレットとサーニャが心配そうに一階へと降りてきた。


「ユイ…一旦落ち着けって…」


「…っ!」


「あっ…!おい!ユイっ…!…マジかよ……」


マーガレットが私を宥めようとするも、私はロゼッタが何も言わないで黙り込んでいる事にさらに苛立ち、マーガレットの家を飛び出した。

マーガレットは私の事を見て呆れた様に頭をポリポリとかき、ロゼッタの方を見る。

サーニャは項垂れているロゼッタの隣に座り、ロゼッタの背中を優しく撫でる。


「マーガレット、今の時間のアレゲニーってユイちゃん一人で大丈夫なの?」


「いや、何時でもダメだが…今の時間は特にダメだ…。悪りぃ、ロゼッタの事を頼むわ…!」


「うん」


マーガレットはそう言うと家を飛び出すように出て結衣の捜索へと向かった。


「…はぁ…またやっちゃった…」


サーニャは再びロゼッタの事を宥めると、ロゼッタは声を震わせながら一言そう言った。


「またって…?」


「前にも似たような事があって…。それで喧嘩した後、何年も会えなくなっちゃって…。伝えなきゃ…って思うと悲しませたらどうしよう…困らせたらどうしよう…って思っちゃって…」


「うん…そうだね…。ロゼッタは優しすぎるからね…」






「…っ!…っ!」


私はどこに向かっているかはさっぱり分からないが、とにかく走り続けた。

何分走ったのだろう…。

どれぐらい走ったか分からないが、他の町なら町の外に出てもおかしくない距離だと思うのに、アレゲニーはまだまだ町が続いてる。

油とガス、たまにゴミ、生臭い臭いなど不快になる臭いのするとんでもなく広い町だと思い知らされる。


「…はぁ…はぁ…。息…苦しい…」


走り疲れた為、立ち止まって息を整えようとするも、とにかく空気が悪い。

喉に刺さる感覚がする。

下の排水溝からネズミの鳴き声が聞こえてくる。

大通りだと思われる場所を見ても暗くて歩きたくない。

時間が経つにつれて冷静にになったからだろうか、ロゼッタに悪い事したな…と思えてきて、自分が嫌になってくる。

私が死んでるなんて頭の中にはあった事だ。

なのに、それを受け入れず常に逃げ、ロゼッタに八つ当たりのような形で怒ってしまった。

謝りたいのは山々だが、マーガレットの家にどうやって戻ればいいか全然分からない。

今までの町なら高い建物なんてそうそう無かったがアレゲニーは全ての建物が高く目印になりそうなものなんてない。

まるで東京ビル群の路地裏に取り残された感覚だ。


「…はぁ…。どうしよう…」


「ねぇねぇ、そこの君」


途方に暮れていると建物の影から声が聞こえ、私と同い年ぐらいの少女がヒョコッと姿を現した。

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