第28話 不思議な少女

建物の影から姿を現した少女は私の顔を見ながらニコニコと笑っていた。

少女の格好はこの世界に不釣り合いな服装で、元いた世界でも浮く感じだ。

気のせいだろうか、私は彼女の事を見た事がある気がする…。


「ねぇねぇ、聞いてる?」


「…っは…ごめん…。」


「もー!やっぱり聞いてなかった!…まあいいや、だって仲良い人と喧嘩した後だから仕方ないね」


彼女はそう言うと、パーカーのポケットからスマホを取り出し、私とロゼッタが揉めている様子の動画を見せ始めた。


「…っ!?」


私は撮影されていた事にも驚いているが、彼女がスマホを持ち、平然と使いこなしている事にも驚いた。

という事は、彼女はこの世界の人間ではない。

レオフレート・ファミリーのメンバーだと言う事だ。

何をしてくるか分からない為、私は彼女の事を警戒した。


「ふーん…警戒してる感じだねー。大丈夫だよー。私はあなたを殺したりしない。グロに耐性ないからねー」


「…。」


「…って言ってもダメか…。じゃあ、クイズターイム。多分だけど、これ(スマホ)のバッテリーはどうしてるんだ?って思った?」


「…。」


「答えて」


彼女は私に話しかけてくるが、私はそれを無視した。

すると、彼女はそれに少しイラついたのか笑いながらであるが、私に返答するよう圧をかける形で言ってきた。

変に気分を害さないようにと私は「はい」と一言だけ返答する。


「だよねー、じゃあなんでだと思う?あと敬語やめて?」


「わ…分からない…」


「それはー、私が充電器をパーカーのポケットに入れていたからでしたー」


彼女はそう言うと、パーカーのポケットから充電器に刺さったケーブルをするすると取り出した。


「へ…へぇ…」


「…あら、意外と反応が薄い。…まあいいや、これを見て何か分かった事ない?」


「わかったこと…?」


「うん、私達は元の世界で死ぬ寸前に持っていた持ち物が消えたりしないでそのままこの世界に持ち込めるって事。…まあ、この世界にネットなんてないからスマホなんて撮影するかオフラインゲーしかできないゲーム機になっちゃうんだけどね…」


彼女はそう言うと、持っていたスマホと充電器をパーカーのポケットにしまう。

私はこの世界に来た時、スマホはもちろん持ち物なんて一切無かった。

どういった形で死んだのかは分からないが、持ち物は全て元の世界にあるのだろう。


「…じゃあ、あなたはどういう風に死んだの…?」


私は彼女に聞いてよかったのか分からないが少し気になった為質問した。

すると、彼女はキョトンとし、パーカーをガバッと乳首が見えるギリギリまでたくし上げ、自分の胸元を見せた。

そこには、胸の下に深々と何かが刺された跡が生々しく残されていた。

そして、パーカーをたくし上げてる右腕には包帯が巻かれている。


「え…これって…」


「うん、刺されたの。ストーカーに」


「…ストー…カーに?」


「私、元の世界で配信者してて結構なファンがいたんだ。それもあってテレビに出たりしていたんだけど、人気になるにつれてストーカーが付いて来る様になったんだ。この右腕の包帯はそのストレスから解放する為のリスカ」


そう言い、彼女は右腕に巻いてある包帯を解き始めた。

彼女の腕には無数のリスカ痕が生々しく残されていて、見てるだけで自分の右腕に違和感を感じ始める。

そして、私が彼女を見た事があると思った理由も分かった。


「…そしてね、配信で彼氏が出来たって言ったの。その次の日にストーカーが私の玄関前に立っていて、彼氏の家に行こうとしていた私を廊下に押し倒して、玄関の鍵を閉めて、私の両腕を縛って動けなくしたの。…その後何されたと思う?」


「…分からない…」


「無理矢理レイプされたんだ。最初は胸を揉まれながら無理矢理キスされて、ストーカーがズボンを脱いで勃起した汚くて臭いアレを私の口の中に入れて精液を出して、次に下に…」


「…うっ」


私は彼女の話の気持ち悪さと生々しさに吐き気を催した。

あまりにも気持ち悪い。

それを何食わぬ顔で話す彼女が恐ろしく感じる。

死因なんて聞くんじゃなかったと強く思った。


「あらあら、大丈夫?」


「ごめん…。想像したくないのに…勝手に…」


「…まあその後ストーカーに刃向かったから刺されてこうなったんだけどね。これが真実だから。受け入れるしかないね。…そんな事よりも、私はあなたにある事を提案しに来たの」


「提案…?」


「そう、提案。私達の仲間になってよ」


彼女は私に笑顔でそう言った。

そして、彼女は私が返答するのを遮るかのように話を続ける。


「それ…」


「だってさー、あんただって元の世界に戻りたいでしょ?私だってあんな終わり方したんなら戻ってやり直したいよ…。けど、あの魔法使いの事信用できる?」


「そ…それは…」


彼女は私に笑顔で詰め寄りながら話す。

彼女の言っていた魔法使いとはロゼッタの事だろう。

ロゼッタの事を信じたい気持ちもあるが、また同じ事になったらどうしよう…とロゼッタに疑いの目を向けようとしている自分もいる。


だが、人は間違いを犯してしまう生き物だ。

それに、ロゼッタに命をを救われたし、様々な事を教えてくれた。

それを今更裏切る事なんて出来ない。


「…で?どうする?私達と組む?」


「…ごめん。それは出来ない。今初めて会った人を信用しろなんて無理。だから、私はロゼッタを信用する」


「…ふーん。そう」


私は彼女にそう伝えると、彼女はスマホをポチポチと触りながら態度を変え冷たく返答した。


「まあ、知ってたんだけどね」


タン…


ドクン…!


彼女が一言私に言い、スマホの画面をタップすると、突然私の脳裏に電流が走った様な衝撃が来る。


(なに…こ……れ……。か……ら…だ……が…)


「あー……。だ………い……の……。まっ………って……ね」


どんどん体が重くなっていき、耳が塞がれた様に聞こえなくなり始めてくる。

彼女が私に何か言っているようだが、声がギーギーと不快な電子的なノイズのかかったような曇り声に聞こえて解読出来ない。

自分の荒くなった呼吸もノイズ混じりで聞こえてくる。

そして、視界が真っ赤になっていくと、私の意識がなくなり地面に倒れた。





「はぁ…はぁ…くそ…。ユイ…どこ行った…」


結衣を探しに家を出たマーガレットが息を整える為、立ち止まる。

マーガレットはアレゲニーに幼少期の頃から住んでいる為、この町の恐ろしさを一番知っている。

それもあってか考えたくない事が嫌なほど思い浮かんでしまう。


「…ぁあー!くそ!」


マーガレットは忘れようとボリボリと頭を掻きむしる。

ふと前方を見ると、街灯に照らされた脚が見え、マーガレットはそれを凝視した。

その人影はどう見ても結衣だった。


「いた…。おいユ…イ…?」


マーガレットは結衣に声を掛けると結衣はマーガレットの方を見るが、数分前の結衣と違い、目は赤くマーガレットの事を睨みつけていた。

そして、結衣は何も言わずにマーガレットへと矢を狙い始めた。


「さあって…結衣ちゃんはどんな風にしてくれるのかな…?」


結衣とマーガレットの事を眺められる位置の屋上で、少女はスマホでゲームをしながら退屈げにそう言った。

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