第30話 偽りの自分①

ギギィッ!


私に攻撃をしてくるリベリオットを必死に傘で殴りつける。

ゴスッという鈍い音と液体なのか、固体なのかよく分からない感触が私の手に伝わってくる。

気持ち悪い感触だ。

私は弓矢の扱いは慣れている方だが、殴るタイプの武器は全然慣れていない。

それもあってか異様なまでに体力を無駄に使っている気がしてくる。


「はぁ…はぁ…ぐっ…」


攻撃をしようとするも、私の体力はあまり残っておらず立つ事がやっとだ。

傘を杖代わりにして必死に傘を握り、リベリオットを倒さなければ…と頭の中ではそう思っても体が言う事を聞かない。

自分の荒い呼吸と額から流れてくる汗が尋常じゃない。


(何か…!何か倒す方法があるはず…!)


リベリオットは私の姿を見て嘲笑うかの様な鳴き声をあげる。

それがとにかく腹が立つ。


(影がない…。そうか!)


私はリベリオットの足元を見てある事に気が付いた。

それは、彼らの足元には影がないのだ。

そして、仙台駅内は影だらけでリベリオットは繋がっている影を沼に住み着く魚の様に利用して移動している。


ならば、私自身が影のない所へ移動すればいいのだ。


それと、不思議な事に私の影を利用すれば私なんてすぐ倒せるはずなのに、なぜか彼らは私の影を使おうとはしない。

なので、私が明るく、影の少ない所に移動すれば彼らから距離を離すことができる。

距離を取るとなると、場所は一箇所しか無かった。

それは、外だ。


私はリベリオットの隙を見て外へと走った。


「はぁ…!はぁ…!ぐっ…!」


攻撃をなんとか交わしながら全力で走ったからか予想以上に呼吸が荒くなる。

やはり狙い通り、リベリオットは私の影を使って追ってこようとはしなかった。


「やった…。逃げれ…え…?」


私は呼吸を整え、駅の中にいるリベリオットを見るが、そこにはリベリオットどころか駅すらなくただの真っ白な空間が広がっていた。

何かがおかしいと再び思った私は辺りを見渡すが、数秒前に見ていた景色は一気に消え、真っ白な空間だけが広がる。


「何…これ…?」


突然の事に私は理解が出来なかった。

武器代わりに持っていた傘はいつのまにか無くなっている為、この空間で敵が出てきたら私は倒されるしかないのだ。


あなたは…仲間を信じる…?


「…!?誰…?誰なの!?」


突然脳内に聞こえてくる謎の声。

女の声なのは分かるが、どこか普通じゃない感じが少し感じる。


ギリリ…


何かをロープで縛り付ける音が空間内に響き渡る。


ドサッ!


ロープの音を突き止めようと思いながら辺りを見渡していた私の目の前に、首にロープがキツく縛り付けられた女性がまるで首吊り自殺をしていた途中でロープが切れて地面に叩きつけられたかの様に落ちてきた。


なんとなくだが、その女性は服装と顔、髪型を見た感じアレゲニーで私の事をこの空間に転送させた女性と同じに思えた。


「あの…」


「う…うあぁ…」


私はどうなるか分からないが、女性に声をかけてみた。

女性は首が絞まっているからか、掠れた声で私に何か言おうとしている。


「話せ…ます…?」


「う…うん…」


警戒しながら私は女性に再び話しかける。

女性は頷く様に私に返答すると、首に巻き付いてるロープを長い爪でガリガリと引っ掻きだした。

キツくしまっているからだろうか、ロープが彼女の首に食い込んでいて何か伝えたいが、とても苦しくて話せる状況じゃないようだ。


何か聞き出せるかもしれない…と思った私は、彼女の背後に周り、ロープの結び目を見つけるとロープを解こうとした。

かなりキツく縛られているからだろうか、解こうとするだけでも彼女の首が何度も絞まり、苦しそうな声が聞こえてくる。


「…かっ…あ………が…………っく……」


「我慢して……よし!解けた!」


「っはああああああ!………がっ!げほっ!げほっ!」


「ゆっくり…ゆっくり深呼吸して…」


彼女はどれぐらいの時間ロープで縛られていたのか分からないが、ロープを外し呼吸が出来るようになったがすぐにむせ始め、今にも吐きそうな感じで咳をしだした。


私は優しく声をかけながら彼女の背中を摩り、呼吸を整えさせる。


「っはー!すー!はー…すー…はー…」


彼女の深呼吸は最初、涙を浮かべながら涎が地面に垂れ落ち、パニックを起こしたのかと言わんばかりの荒々しい呼吸で口で深呼吸をしていたが、少しずつ落ち着いてきたようで鼻で深呼吸できるようになった。


「…落ち着いた?」


「あ…ありがとう……」


「ねぇ…。あなたって、私の事をこの空間に転送させたあの子?」


「う…うん…」


私は彼女にそう尋ねると彼女はこくりと頷きながら返答した。

やはりアレゲニーで私の事をこの空間に転送させた女性だが、一つ違う事がある。

それは、雰囲気が真逆な事だ。

アレゲニーの時の女性は自信満々な感じだったが、こっちの方は自信なさげで不安そうな様子だ。

なんか違和感を感じてしまう。


「なんか、アレゲニーの時と感じ違うね…?」


「うん…。本当の私はこっちで…アレゲニーのは私が作った私だから…」


「作った…?」


「うん…。実は私…極度の人見知りで…コンビニで買い物とかも無理だったんだ…。あっ…ごめんなさい…。私の名前……由佳…。前沢由佳って…いうの…」


「由佳…。由佳ちゃんっていうんだ…」


「うん…。あなたの……名前…は……?」


「冴島結衣。結衣って呼んで」


「分かった…えへへ…」


私は由佳に名前を教えると、名前を聞いた由佳はなぜか嬉しそうにしていた。


「…そういえば由佳ちゃん。さっき言ってた「私が作った私」ってどういう事?」


「………。」


「あっ…っと…。話したくないんなら…」


「ううん…お…教えて…あげる…。どういう事か…」


由佳は「私が作った私」と言った理由を話しだした。

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