第31話 偽りの自分②

「さっさと死ねよキモオタぁ!」


2018年、私「前沢由佳」はオタクで人と話す事がとにかく苦手だからという意味の分からない理由でクラスメイトにいじめられていた。

親や教師に相談すれば?と思うかもしれないが、それすらも出来ず、耐えればいい…卒業すれば終わる…と我慢し続けてきた。

だが、頭の中ではそう思っていても体が言う事聞いてくれなくなっていき、私はとうとう不登校になった。


これで解放される…と思いたいが、そうはいかなかった。


「私が…。私が人と話すのが…オタクじゃなかったら…」


今度は今の自分を嫌いになり始めたのだ。

学校を自主退学したが、遠くにいる両親に心配かけないようにと秘密にしていた。

両親は今頃楽しい学校生活を送っていると思っているだろう。

そう言った事すら伝えられない、家族であっても何かを言えない自分がとにかく嫌で仕方なかった。


バイトをする気力すら起きなかった私は、一人暮らしのアパートで常にカーテンを閉め切ったまま寝ているという無駄な時間を過ごしていた。


それから数ヶ月後、私はスマホを死んだ魚のような目で習慣になりつつある「楽に死ねる方法」を検索し、眺めているとある動画が目に入った。


「わたしー、配信者になる前はブラック企業のOLでー、あまりのブラックさに鬱病になったんすよー」


それは、ある配信者の人生の話だった。

この人はOL時代にパワハラやセクハラで鬱病になったが、今は楽しそうにしている。

私の中で、その人のようになりたい、これなら自分を変えられるかもしれないと思った。


「こ…こんにちはー…。き…今日から配信を…始めます…ゆっ…ゆか…でーす…」


試しにやってはみたが、正直言って最初の配信はとても酷いものだった。

話すのなんて数ヶ月以上してないからかみかみだし声は小さい、表情はガチガチに硬く笑顔が出来ない(出来たとしても引き攣っているような感じ)。

数分間はコメントも何もなく、やっぱり私には無理だ…。と強く実感しやめようかなと思った。


ピコンッ!


初めまして!緊張しているのかな?


「…っ!」


通知音が聞こえ、スマホを見てみると一つのコメントがあった。

不思議だが、このコメントがとにかく嬉しかった。


最初はこの人だけだったが、何度か回数を重ねていくうちに、どんどん視聴者数が増えていき、数ヶ月後には一つの配信に視聴者数だけで一万人以上いる事が普通になり、スパチャもどんどん来るようになっていた。



「えー!ここむずすぎるー…」


それから一年以上が経ち、配信だけで生活が出来るぐらいにまでなったある日のゲーム配信中、私はちらっとコメント欄を確認した。


キャラ作ってるだろ


それは、一つのコメントだった。

私の事を初めて見たからそう言ったのだと思う。

普段なら批判や煽りのコメントは全くと言っていいほど気にしなかったが、このコメントだけは変に引っかかった。

ゲーム配信後もずっとだ。


配信を始めてから私の性格は一気に変わった。

オタクなのは変わりないが、人と話す事は平気どころか自分から話しかけれるし、明るくなった。

それは良いのだが、あの性格は配信のために無理してやったものだ。

だが、それにどんどん侵食されていき、自分の事を苦しめているような気分もしなくはない。


(前までの暗いのが自分?配信で明るくしているのが自分?本当の自分は……どれ…?)


そうして考えていくうちに、だんだんと本当の自分は何なのか分からなくなり始め、いつの日か感情のコントロールが出来なくなっていた。


由佳の話を聞いた私(結衣)はなるほど…と思った。


「なるほど…。この由佳ちゃんが本当ので、アレゲニーのは作ったもの…?て事かな?」


「う…うん…。それで…、結衣にお願い…なんだけど…いい…?」


「うん、何?」


「私を…殺して…」


「え…?殺すって…」


「あの私は今暴走していて…私自身で制御出来ないの…。それに…このままじゃ…結衣は…マーガレット…さん?も…死んじゃう…」


「…えっと…。ちょっと聞きたいんだけど…。由佳ちゃんは本当にそれでいいの?」


私は由佳の言葉を聞き、そう返答した。

由佳を殺すという事は、彼女は不幸なまま死ぬという事だ。

私の優しさが出てしまっているからだろうか、ロゼッタに負担をかけてしまうが、お願いして、感情をコントロール出来る様にしてもらえれば、私と一緒にもとの世界へ戻れるかもしれない。


「うん…いいの…。だって…それが、私に対する罰だもん…」


由佳は笑顔でそう言った。

それを聞いた私は心が痛くなり、由佳から目を背ける。

すると、由佳は私の両手の上に手を置いた。

彼女は笑顔のままだが、手は震えていた。

やはり一度亡くなっているとはいえ、再び死ぬのは怖いのだろう。

だが、彼女のお願いを受け入れないのは更に彼女を苦しめる事になってしまう。

私は辛い気持ちを押し殺しながら、彼女の首元を両手で掴む。


「私…生きてた頃に…結衣と会って友達になりたかったなぁ…」


「…馬鹿…!」


由佳は涙を流し、笑顔のままそう言った。

私はそれを見てとても辛くなり、涙を流しながら震えた声でそう言うと彼女の首を強く握り絞め始める。


彼女の苦しそうな声が耳元に入ってくるが、顔を見る事は出来なかった。

いや、彼女の苦しんでる顔を見たくなかった。


「か…ぁ……。ぁ……ぐっ………!は………」


「…っ!」


「ゆ……い……あ……りが……と………」


由佳は私にそう言い残し、力尽きた。

彼女の声が聞こえなくなった事に気がついた私は彼女の首元から手を離した。

本当にこれで良かったのかどうかは分からないが、考えている間も無く、私は強い光に覆われ、気を失った。

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