第32話 仲直り
「…イ…!目覚ませ……!」
マーガレットの必死な叫び声が聞こえてくる。
徐々に体の感覚が戻り始める…。
「…っ!」
私は元の体に戻る事ができ、ガクッと力が抜けた感覚に陥り、マーガレットに体を預けるように倒れる。
「ユイ…!大丈夫か…!?意識取り戻したのか!?」
「は…はい…」
私の事を強く心配していたからだろうか、マーガレットは汗だくで、気のせいだろうか涙目になっているような気がした。
「くっ…。戻れ…た…のか……」
前沢由佳は私達の姿を見て、少しイラついたようにボソッと言うと、意識を失ったかのようにして倒れた。
「あの…マーガレットさん…」
「…っ!」
バチン!
謝ろうと思った私だったが、マーガレットの名前を呼んですぐに彼女にビンタされた。
マーガレットの表情は涙目で、険しかった。
「馬鹿野郎…!この町の事なんも知らねぇくせに勝手に飛び出しやがって!…もし私が見つける前に死んでたりしたらどうすんだ!?」
「そ…それは…」
「お前は元の世界に戻れねぇし…私達は悲しむが…一番悲しむのはロゼッタだろうが!」
「…っ…!」
私は普段の冷静さを無くしたマーガレットの表情と言葉に何も言い返せなかった。
マーガレットがこんなにも感情を爆発させて言うという事は、私のした事は馬鹿みたいな事だったのだろう。
そんな馬鹿な事のせいで、元の世界に戻る事が出来なくなったり、ロゼッタ達を悲しませていた可能性の方が高い。
「…ごめんなさい…」
「…はぁ…。まあ、ユイが無事だったんなら良かった…。それより、あいつどうする…?」
私は声を震わせながらマーガレットに謝った。
それを見たマーガレットはため息をついた後、由佳をどうするか私に質問した。
「由佳ちゃんは…。ねぇ、由佳ちゃんをマーガレットの家に連れてっていい?」
私達のすぐ隣で目を開けたまま倒れている由佳の瞼を指で閉じさせながら、私はマーガレットにそう言った。
「え…。うん、まあいいけど…」
「ごめんなさい、こんなわがまま言っちゃって…」
「ううん、いいさ。この町で死体になっても楽に成仏出来ねぇしな…んっしょ…」
マーガレットは私のわがままを少し戸惑いながらも聞いてくれた。
そして、マーガレットは由佳の遺体を背中に背良い、私達はマーガレットの家へと向かった。
なんとなくだが、私はマーガレットの「この町で死体になっても楽に成仏出来ねぇ」と言う言葉が少し気になった。
それから数分後
私達はマーガレットの家にたどり着き、部屋の中へと入った。
由佳の遺体はマーガレットとサーニャがどうにかすると言い、二人は二階へと上がった。
そして、一階には私とロゼッタだけになってしまった。
「…。」
「…。」
二人の間に重い空気が立ち込める。
私もロゼッタも謝りたいのは山々だが、どちらも言い出しづらさを感じていた。
「あ…あの…ロゼッタ…。ごめんなさい…」
「い…いや…!私の方こそ黙っててごめんなさい…」
私が謝ると、ロゼッタも続けて謝った。
「あのさ…、これ言い訳に聞こえちゃうかも知れないけど…。ロバートの依頼前からユイちゃんが死んでたのは知ってた。…でも、今伝えたらユイちゃんの望みは儚く崩れてしまうと思ってたの…。だから、何とか戻れる方法が無いかなって色々探してたら…ああなったの…」
ロゼッタは言葉を詰まらせながらそう伝えた。
おそらくだが、ロゼッタの言う「ああなった」は鳳条宗久に私は死んでると告げられた時だろう。
ロゼッタはその前から、他の依頼の証拠などを探しながらも私の事をどうにかして元の世界に戻れるようにする方法を必死に探していたと思う。
今思い返してみると、私と出会ってからロゼッタはあくびをする回数が増えたし、マーガレットの車の中で不意に寝ている時があった。
寝る間も惜しんで方法を探していたのだろう。
「うん…。私も…ロゼッタの言葉を最後まで聞かずに飛び出しちゃってごめんなさい…」
「ううん、大丈夫だよ…。だから私、明日は時間が欲しいの」
私は再びロゼッタに謝ると、ロゼッタはいきなりそう返答した。
「時間…?」
「うん。明日丸一日…いや、半日使ってユイちゃんの戻る方法を探し出す。何か分かったらすぐに伝える。それでどう?」
「…うん。いいですけど、だからって無理はしないでくださいね?」
私はロゼッタの言葉を聞き、そう返答した。
ロゼッタの行動は嬉しいが、それで体調を崩されたら意味がない。
だが、ロゼッタはそうしたいと言っている事だし、私は止めなかった。
「…そういえばさ、さっきマーガレットが背負ってきた子って誰?」
ロゼッタは話題を変え、由佳ちゃんの事について聞き始めた。
そういえば説明していなかったなと思った私は、ロゼッタに由佳ちゃんとの出来事を話した。
「…そうだったんだ。かわいそうに…」
「だけど、あのまま遺体を放っておくわけにもいかないですし、マーガレットもそれに賛成したから連れてきたって事です」
「なるほどね…。ふと思ったんだけど…ユカちゃんも一緒に戻せたりしないかな…?」
「え…?」
「いや、多分彼女は望んでないだろうけど、あんな終わり方はかわいそうだから、何か方法はないかなって思ってさ…。出来るか分からないけど、明日考えてみるよ!」
ロゼッタは私にそう言った。
由佳ちゃんは望んでいるかと言われれば望んではいないだろうけど、私も出来るのであれば幸せな人生で終わって欲しいと思う。
ロゼッタに負担をかけてしまうが、彼女がやる気なら止める必要はないだろう。
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