第五章「二人の関係」

第33話 アレゲニー町散策①

私と由佳ちゃんの出来事から数時間経った次の日。


今日はロゼッタが責任を取りたいからと言う理由で、私とマーガレットは一日休暇という扱いになった。


由佳ちゃんはどうなったかというと、マーガレットの提案により、墓地に埋めるのではなくサーニャの手で鉱石へと変えてもらい私が持つ事にした。

ゲームとかでたまにある形見のようなものだろう。


ロゼッタとサーニャは私を元の世界に戻るための方法を探し出すため、私はマーガレットにアレゲニーの町を案内してほしいと提案した。

マーガレットは最初乗り気ではなかったが、あれも進めたいからと言い、仕方なさげに町を案内してくれた。


「さて、ユイ。私らは家を出たわけだが、二つ守って欲しい事がある」


「守って欲しい事…?」


「ああ、一つは「何か見ても気に留めない」、二つ目は「私から絶対離れない」。この二つは絶対守れ。分かったか?」


「はい…分かりました」


「うしっ、じゃあ最初は腹ごしらえに行くか」


マーガレットはそう言い、スタスタと歩き始めた。

私はマーガレットの言う事を聞くようについて行った。

最初はどういう事なんだろうと思ったが、マーガレットがそう言うと言う事は、何か重要な理由があるのだろう。



私達はマーガレットの家から数分歩き、大通りだと思われる場所にたどり着いた。


時刻はおそらく八時半。

昨日の暗い時間に町を見たから気付かなかったが、この町は荒れたところはそのままで、街灯、時計、石畳、建物などボロボロだったり、煤で黒ずんでいる。

ボロボロになった石畳の間から雑草が生え、その間にゴミや吸い殻が平気で落ちている。

そして、昨日も思った事だがとにかく空気が悪い。

ちらっと上空を見上げるが、朝日は薄らとしか見えず、工場の無数の高い煙突から出る黒い排ガスが空を覆っていた。

通りの活気はあるが、住民の雰囲気が悪く感じる。


「なあー!いいだろー?一個ぐらい」


「うるせぇ!金ねぇんなら帰んな!」


私はそんな事を考えながらマーガレットについて歩くと、軽食屋の店主だと思われる人と、服がボロボロでいかにもホームレスといった感じの人が揉めていた。


「おっすおやじ!」


「おおー!マーガレットじゃねぇか!最近来ねぇと思ってたけど何してたんだよ!」


マーガレットはホームレスの男の前に割り込むようにして、軽食屋の店主と話し始めた。

話を聞く感じ、二人は顔馴染みなんだろう。


「おいアマ!何割り込んでんだよ!」


ホームレスの男はマーガレットにそう言うが、マーガレットと店主は完全に無視した。


「…っおい!聞こえねぇのか!!…っ!」


バンッ!


痺れを切らしたホームレスの男はマーガレットに殴りかかろうとしたが、マーガレットは男の方へ銃を向け、いたって「普通」に発砲した。

ホームレスの男は痛みでもがきながら地面に倒れるが、マーガレットと店主はお構いなしに会話を続け、マーガレットは店主から紙袋を受け取った。

私はその光景に言葉を失った。


「久しぶりだから今日はおまけしといたからな!」


「ありがとうおやじ!よし、ユイ行くぞ」


「…あっ…はっはい…」


用事が済んだマーガレットは、私を噴水のある広場へと案内した。

そこは、とても広い広場で、噴水の上にはこの町の偉い人なのだろうか銅像が立っている。

おかしいところをあげるとすれば、銅像は鳥の糞まみれで頭や肩は白くなり、噴水からは水は出ていないし溜まった水はゴミがぷかぷかと浮かび、下水のような臭いがする。

それもあるからだろうか、噴水の周りにあるベンチには誰も座っていなかった。


マーガレットは紙袋の中からホットドッグを取り出し、私に渡した。

ホットドッグの味はと言うと、正直言って美味しくない。

ソーセージやパンは味がしないし、パンに至ってはスポンジにかぶりついているような感覚になる。

マスタードとケチャップの味しかしないし、それすらもかなりキツめな感じのする味だ。

軽食屋のメニュー欄をちらっと見たからホットドッグの値段は分かるが、これで680円は高過ぎると思う。


「どうだ?うまいか?」


「…いえ…。正直…全然…美味しくないです…」


「ははっ…だよな…」


マーガレットの問いに私は正直に答えると、マーガレットは笑いながらそう返答した。


「…あっ!ごめんなさい…奢ってもらったのに…」


「いや、大丈夫。私も不味いと思ってるから」


「そ…そうなんですか…」


「ああ、これを美味いって食う奴いたら見てみたいよ」


マーガレットはそう言うと、ホットドッグにかぶりついた。


「あの、マーガレットさん…。こんな事聞いていいですか?」


「ん?なんだ?」


「この町って、これが普通なんですか…?」


私は、マーガレットに朝からずっと思っていた事を話した。

町が汚いし整備されていないのはもちろん、銃を発砲しても近くにいた住人は何とも思っていない様子だし、それどころか警察すら現れない。


噴水へ向かう途中の路地にちらっと目をやると、孤児かホームレスかは分からないが、次の日には死にそうな人が座っていたり、限界がきた人が倒れていたりと目を背けたくなるような光景が時折あった。


私はそれがとにかく気になって仕方なかった。


「普通…か…。まあ、この町「では」普通だな…」


「この町…では…?」


「…ああ、この町の大半はクズや出来損ないばっかでな…犯罪や人が死ぬ事なんて日常茶飯事なんだよ。まあ、それがそうなったのも…私が生まれるかなり前の事のせいなんだけどな…。そん時に誰か一人でもこれはいけない、変えようと思ったやつがいればこの町は変わったかも知れない。だが、その時には誰もいなかったからこの町はこうなったんだよ…」


マーガレットはアレゲニーの事について分かる範囲で話し始めた。


時は100年以上前、元々アレゲニーと隣町のインシュバートという町は繋がっており、一つの巨大な町だったが格差による争いが起き、一つの町は間にある山を境に分断された。


その時に、インシュバートには善良な市民、アレゲニーにはそれ以外の市民が多くいた事から、アレゲニーにいた善良な市民はインシュバートへ、それ以外はインシュバートからアレゲニーへと移り住む流れが生まれた。


インシュバートは町の財力を活かして何とか対応する事が出来たが、少ない財力の割に町の面積が広く住人の多いアレゲニーの行政機関はパンクし、修繕など何も出来なくなった。

そして、「割れ窓理論」の最悪なケースに陥ったのが現在のアレゲニーなのだろう。


マーガレットの話を聞き、そりゃあこうなるわ…と私は納得した。

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