第24話 新たな敵

私たちは、マリン達の言葉を頼りに「レオフレート・ファミリー」のメンバーが向かった方向へと車を走らせた。

何時間走ったかは分からないが、かなりの距離を走ったと思う。

時折休憩を挟んではいたが、太ももが少し痺れ、腰が痛い。

それでも辺りは林や草原が広がり、町や建物が一切見えない。

町にたどり着くにはまだ走らなきゃ駄目なようだ…。


それから朝日が沈み、私たちはやっと町へとたどり着いた。

町の名前は「リプール町」。

町とは言うが、今まで訪れた町と比べると全然都会だ。

街灯の下にある時計を眺めると針は17時半を指している。

私達はマリン達のいた町から8時間半も移動していたのだ。

そりゃあ腰が痛くなる。

そして、この世界はかなり広いなぁ…と私は思った。


「んんー…疲れた…」


ロゼッタが体を伸ばしながら言う。


「今日はどこかで宿取って、晩ご飯食べて終わりにしようか。皆んなはそれでいい?」


「それでいいです…」


私はロゼッタの言葉を聞き、そう返答した。

マーガレットやサーニャは特に何も言わないが、表情を見るに凄くぐったりしてる。

特にマーガレットは何か言う体力すらなさげだった。

私のいた世界なら大半の道路が舗装されているが、この世界は町を抜けたら舗装路は完全に終わり、砂利道と化す。

ガタガタな道を一人で8時間半も運転していたマーガレットには頭が上がらない。

それと同時に、私はなぜマーガレットがずっと一人で運転をしているのか気になった。


私達は宿近くの売店で晩飯を買い、部屋で食べる事にした。

皆んな疲れているからか、口数がすごく少ない。


「あの、ロゼッタさん」


「ん?どうしたの?」


「どうしてマーガレットさんがずっと運転してるんですか?流石にこれじゃあ…」


「うーんとね…私も車の運転は出来るんだけど、マーガレットが頑なに運転させてくれないんだよね…。何故か…」


「運転させてくれない?」


私はロゼッタの言葉を聞き、不思議に思った。

だが、その理由はすぐに分かった。


「んなもん簡単だよ。普通の人は扱えねぇからだ」


車の所有者であるマーガレットは一言そう言った。


「扱えないって…?」


「あの車、私がかなりいじったから元のと全然別もんなんだよ。外見はあんまりわかんねぇだろうけど、エンジンやら足回りやらをかなりいじったから慣れてねぇと無理だ」


私達はマーガレットの話を聞き、へーっと言った。

今では慣れてしまったが、ロゼッタ達と初めて会った時は排気音がうるさいなぁ…と思っていたが、その理由が何となく分かった気がする。


そして、疲れがピークに達し、頭がおそらく回っていないマーガレットは自身の車の事を話し始めた。


元々普通車だったものをチューニングエンジンに載せ替え、その後さらにマーガレットがエンジンに手を入れ、マフラーは自作…などかなり手が入れられている。


アクセルを半分踏んだだけでとてつもない加速をし、限界まで踏むとあまりのパワーに空転を起こし、前に進まない。

さらにあまりの加速にハンドルを持っていかれ、慣れてないと制御不能になるというかなり恐ろしい事になってる。


廃材などを使った為、お金はあまりかかっていないらしいが、とにかく愛情がこもってる。

慣れてない人に運転させて壊されたらたまったもんじゃない。

話を聞いただけでもマーガレットが自分以外に、頑なに運転させない理由がわかる。


とりあえず今日は休んで明日行動する事にした。



そして次の日

私達は昨日しようとした「レオフレート・ファミリー」の調査に向け、私達は町を探索した。


リプール町はそれほど広くない為、マーガレットの車なしで一回り出来る。

ロゼッタの魔法を使って調べたりするのかなと思っていたが、魔法を少しでも使ってしまい、それでばれて逃げられたら意味がない。

どういった敵だかわからないため魔法は非常時以外使わないらしい。


公園、図書館前、大通りなど一通り歩くがそれらしいものは見当たらない。

ただ、一つ違和感って言えばいいのか分からないが、気になることがある。


「あのロゼッタさん…。この町…カラス多くないですか…?」


私は、ロゼッタに気になっていた事を小声で言った

それはカラスの量だ。

普通の町なら、路地に入ったりすればカラスを見なくて済んだりする。

だが、この町はどこに行こうとカラスが2羽以上必ずいる。

こう考えたくないが、常に監視されてるような気もしてくる。

普通ならそんなこと考えないが、この世界は普通が通用しない。そう考えてしまうもの無理ない。


「うん…。私も気になってたの…。けど魔力はあまり感じないし、変に反応したらどうなるか分からないから普通にしてよ…」


「…はい」


ロゼッタは私に小声で伝えた。


ロゼッタやサーニャは魔法使いなので、普通の魔法使いが発する魔力を感じ取れるのだろう。

それをいちいち気にしていたらキリがない。

それに魔法を使えないとなると、そうするしかない。

私たちは通りを抜け、左側の路地へ入ろうとする。


「くくく…気づいてるのなら私を殺しにくればいいのに…」


(え…?)


私はある異変を感じ、ぴたっと足を止める。

私の勘違いでなければ、背後ににいるカラスが低い男性の声で喋った気がする。

くるっと振り返り、ロゼッタの忠告を破りカラスの方を見るが、後ろを見ても誰もいない。

考えたくないが、カラスが喋ったと考えるしかない。

そして、なぜかカラスは私のことをジッと見続けていて、ロゼッタ達には一切目を向けていない。

数秒しかたってないはずなのに恐怖で数時間経ってる感覚になる。


「おーい、ユイー?置いてくぞー?」


私はマーガレットに呼ばれてカラスから目を離す。

ロゼッタ達の様子を見る感じ、カラスの声は私にしか聞こえていないようだ。


「えっ…あ…あの…」


ビュゥ…ッ!


「…っ!?」


私がマーガレットにカラスの声が聞こえるか質問しようとすると、カラスは私の元へすさまじい速さで飛んできた。

カラスは、私のことをくちばしで殺してこようと思っているかのように必要以上についばんでくる。

くちばしは刺さりはしないものの、ガァーガァーと死にガラスのような鳴き声をあげながら羽が当たってとにかく痛い。


「うわッ…!いった…!」


「ユイ…っ!!」


異変を感じたマーガレットが私の元へと駆け寄り、カラスを追い払おうとするが全然離れようとせず、どんどん集まってきてマーガレットにも襲い掛かり始める。


「くっそっっ!こいつ全然離れようとしねぇ…!」


一羽追い払えばもう一羽、さらにもう一羽とどんどん集まり、キリがなくとにかくしつこい。

ロゼッタとサーニャが魔法を使い、必死にカラスたちを蹴散らそうとするが追いつかない。


「二人ともっ!動かないでっ…!」


ロゼッタは私たちにそういうと、カラスに向け魔法を放つ。


ガァー!ガァー!


私たちの周りを飛び交っていたカラスは死にそうな声で地面や壁にたたきつけられたり、ばたっと倒れる。

ほとんどが私たちから離れていったりその場で息絶えるが、一羽だけ私たちから少し距離置くと地面に止まりじっと私たちのことを見続ける。


「くく…やはり私の狙い通りですね」


カラスがそう言うと、周りにいたカラスやカラスの死骸は黒い煤になり一羽のカラスに集まっていく。

おそらくだが、さっきのカラスの声はロゼッタ達にも聞こえているようだ。

黒い煤は人の形を作り出すように一か所に集まるとはじけるように姿を消した。


「くく…こんにちは。皆さん」


そこには黒のスーツで黒のネクタイを締め、白の手袋をはめ、髪はツーブロックでワックスか何かで固めてる感じだ。

ティアドロップ型のサングラスをかけているがその目つきは鋭く、心なしか笑っているような感じがする。

顔に威圧感がないはずなのにすごく怖い…。平気で人を殺しそうな狂気じみたオーラを強く感じる…。

関わったらまずいと私は強く感じた。

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