第25話 狂った男

「どうも皆さん、あなた方は私たちのしようとしている事を止めようと考えていらっしゃるのでしょ?」


黒のスーツを着た男は笑顔でそう言う。

なんとなくだが、喋り方に演説みを感じる。


「あなたはレオフレート・ファミリーの一員なの!?」


ロゼッタは黒のスーツを着た男に問いかける。

すると男はさらに笑いながら説明を始めた。


「ええ…もちろん。そして、あなたたちが聞きたいと思っている「私は何者か?」、「目的」…すべて教えてあげましょう!私の名は「鳳条宗久!レオフレート・ファミリーナンバー3、この世界を変える指導者だ!」


私は彼の名前を聞き、驚いた。

この世界で私以外の日本人の名前。

この世界に日本人のような名前が変わった名前となると、この男はこの世界の人物ではない。

初めてこの世界の住人ではない人と会った。

正直こんな場面で、こんな人と出会いたくなかったと思う。


「くく…私の名前を聞いて驚いたでしょ?そこのお嬢さん?」


鳳条宗久はそう言うと、私の事を指さした。


「おいユイ!何か知ってるのか!?」


「う…うん…知ってる…」


マーガレットは私に問いただす。

私はこの男を知っている。

正確に知ってるというわけではないが、元いた世界でふと目に入った生中継のニュースで彼の名を知った。


「鳳条宗久」。

彼は2021年の春、国家を変えようと国会議事堂へと角材や火炎瓶など様々な武器を持った集団を引き連れ、突入し占拠した。

集団は暴徒化し、警察が用意したバリケードをぶち破り、警察へ暴行など過激なことを繰り返した。

その現場は生中継され、嫌でも目に入る状態だった。

主催である鳳条宗久はそれを利用し、国会議事堂の正門の上で拡声器を使いながら演説をした。

数分後、警察が突入し、取り押さえようとするが、彼はその時笑いながら小刀で自身の腹部を勢いよく刺し、切腹した。

生中継はそこで強制終了されたが、ショッキングな瞬間と、彼の狂ったような笑い声が脳裏に焼き付いていた。


そんな男とこんな世界で、こんな形で出会うなんて最悪でしかない。

逃げ出したい…。


「ふふ…。あなたがそんなに怯えてるって事はそれだけ影響力があった…という事ですね。そりゃあそうでしょう!あの時のテレビ局!新聞社!ネット!全てが私へと向けられましたからねぇ!はっははははは!」


鳳条宗久は自分がやった事を誇らしげに、狂気に満ちた笑い声を上げながら話し出す。

その後、日本が変わったとかは無かったがニュースは一週間以上同じ内容、週刊誌は彼の経緯などを掲載、他にも色々あるが一時期日本全体が鳳条宗久一色になったとは言える。

ロゼッタやマーガレット、サーニャは理解出来ていないようだが、反応を見るに説明する必要ないだろう。

おそらく狂気に満ちたあの笑顔で別の意味でやばいやつだって感じ取っていると思う。


「…はぁ…。ところで、あなた達は私達レオフレート・ファミリーの邪魔をしに来たんですよね?ホント困るんですよ…。そういうの…。魔法使い二人、銃使い一人、一般人一人と、私ただの一般人…こんなの不利じゃないですか…全く…」


「そんな事言っても遅いぞ。さっきの見事な変身を見たらお前を一般人なんて言えるわけねぇ」


やれやれという感じで鳳条宗久は話すと、マーガレットは少し馬鹿にしたような感じで返答する。


「そうですね…。元一般人ですからね…」


鳳条宗久はそう一言言い、黒い残像のように移動するとマーガレットの目の前に立ち、拳を振り上げる。

行動が読めたのか、それか彼の動きが遅いからかは分からないが、マーガレットは涼しい顔で避け、彼の腹部へと鋭い拳をいれ、距離を離すとおまけに足で彼の事を蹴り飛ばす。


「ガハッ…!」


マーガレットの拳が重かったのか、鳳条宗久は殴られると口から唾液か胃液か分からない液体を出し、腹部を抑える。

こんな事を言ってしまってはあれだが、今までの旅の中で遭遇した敵と比べるとすごく弱い気がする。

私は無理だと思うが、魔法が使えないマーガレット一人で対処出来そうな気がしてしまう。


「ふふ…なかなかお強い…」


「強いって…まだ軽い方だが…」


「…そうですか…あなたとは前世で会いたかったものです…」


鳳条宗久はマーガレットの言葉を聞き、睨むような顔でマーガレットを見た。


「…まあいいでしょう。私はレオフレート・ファミリーの中でも最弱ですし、グレッタさんが残した薬を様々なところに売りつける事しかできない。あなた方はその情報を聞きつけて私達を探しにきたんでしょ?」


ふらふらと少しずつ鳳条宗久は私達から数歩距離を離していき、ピタっと止まると胸元からライターと新品のタバコを取り出し、私達にそう言った。


「じゃあ、あなたが…マリンちゃん達の村長を…!どこにやったの!?」


「…ふぅー…そんな声を荒げないでください。マリンが誰だかは分かりませんが…じゃあ、本当かどうかはあなた方が考えるとして、さっき魔法で吹き飛ばしたカラス達がそうだったらどうします?こういう風に」


「っ…!?」


鳳条宗久は私達にそう言うと、吸っていたタバコを手品の様にカラスへと変え、バサバサと上空へと飛ばした。

もし彼がマリン達の村を訪れ、動物以外全員をカラスに変えるとなれば、やり方までは推測出来ないが一晩で村人がいなくなる事が可能だ。

そして、彼の人間性を考えると村人だったカラスを攻撃や盾がわりに使う事が平気でやりかねない。


「そして、私は触れたものを人に変える事も出来ます…こういう風に」


鳳条宗久はタバコの箱を開け、中身と箱を自分の前にばら撒き、指をパチンと音を立てる。

すると、地面に落ちた中身と箱から黒い影が現れ、人の形を作ると武装した集団、私が元いた世界で見たような光景が目の前に広がった。

あるものは角材、あるものはバッドや鉄パイプ、あるものは刃物など、集団は殺気立っており、恐ろしさを強く感じる。


「…やれ」


おおおおおおおーっ!!!


集団は鳳条宗久の合図を元に、私達へと攻撃を仕掛けてきた。


「…なあ、ロゼッタ。こいつらは殺しても文句言わねぇか?」


「うん、今回は特例ね」


それを見たマーガレットは銃を手に取り、ロゼッタに問うと、ロゼッタは普段通りに返答した。

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