第23話 小さな廃村のレストラン②

私達はなんとか食事を済ませ、会計しようと思った。


コトッ


「マリンに出せって言われたから、これサービス」


メリは無表情で私達に紅茶をサービスした。マリンというのはおそらく金髪のウェイトレスの名前だろう。


私は紅茶を一口飲む。味はこだわりとかは感じない至って普通の紅茶だ。

私達に紅茶をサービスし終えたメリはカウンターに肘を付きながら椅子に座り、私達の事を眺めてくる。

客である私達がいるのにそれはどうなんだ…と思ってしまうが、私達以外客が来る様子が全くないし、ロゼッタやそういったものを一番気にしそうなマーガレットが何も言わないから別にいいかと自分に言い聞かせる。


「あの…この町っていつもこんなに人気がないんですか…?」


私はメリにゴーストタウンでこの店にしか人(メリ達は獣人だが一応人っていう扱いにしておく)がいない事に違和感を感じ質問した。


「うん、5ヶ月ぐらい前に突然みんな消えた」


メリは表情を変えずに壁に掛けられてるカレンダーを見ながら言った。

カレンダーには何かの目印だろうか、今日の日付である5/24まで赤い斜線が引かれている。


「消えたって、どれくらいで?」


話を聞いたロゼッタが続けて質問する。


「分からないけど、朝になって目を覚ましたら主人はいなくなってた。そのかわり、私達はこの姿になってた」


くるくるとカウンターに置かれている塩の小瓶を指でなぞりながら、メリはそう言った。

となると住民が消える前まで、メリ達はこの町の住人のペットだったという事だろう。


「それより前はあたしはあまり詳しくないけど、町長の元ペットだったマリンだったら分かると思うよ。呼ぶ?」


「うん、お願い」


「わかった、ちょっと待ってて。様子見てくる」


メリはそう言い、厨房へと消えていった。

数分後、食器を洗い終えたマリンとキラスがやってきてマリンは礼儀正しくすらっと立ち、キラスはカウンターの椅子に座った。


マリンの話によると、5ヶ月以上前彼女は村長の家で飼われていたらしい。

その時は普通の犬の姿で、時間も遅かったからかうとうとしていたという。

村長はというと、夕方に来た二人組と何やら別室で打ち合わせをしていたらしい。


「ふざけた事を言うな!もう村から出てってくれ!」


突然、村長の怒鳴り声が聞こえマリンは何事かと目を覚まし、少し不安になる。


(どうしたんだろう…?)


「そうですか…。それは残念です。では、今回の話は無かったことにしましょう」


「ああ!二度と来ないでくれ!」


二人組は村長の態度を物ともせず、冷静に返答し村長の家を出ると、村長は扉を強く閉め、鍵を閉めた。


マリンは不安になり、村長の脚に顔をすりすりすると村長は優しく撫でてくれた。


「驚かせてすまなかったな…。もう寝よう…」


その言葉が村長の最後の言葉だった…。


「……。」


マリンの話を聞き、私、ロゼッタ、マーガレット、サーニャの言葉が無くなる。


おそらくだが、その二人組が何か知っているだろうと思った。


「それで私がこの姿になった後、あの時の事が気になってご主人様の書斎を調べてみたら…これが出てきたんです」


マリンはそう言うと、ポケットの中に入れていた名刺を渡してきた。


「レオフレート…ファミリー…」


名刺には「レオフレート・ファミリー」とだけ書かれており、名前は書かれていなかった。

そして、その組織名はロゼッタが渡したリストにも書かれていた。


「…となると、ここを探ると何か分かるかも…。マリンさん、ありがとう!」


「いえ、役に立てれたんなら私も嬉しいです」


ロゼッタの言葉を聞き、マリンはニコッと笑う。


客が来ないとはいえ、マリン達の店に一時間以上いてしまったため私達は会計をし店を出る事にした。

値段は四人で2000円。

一人500円と考えるととてつもなく破格で経営がちゃんと成り立っているのか不安になる。

…とは言ったものの、私はこの世界の物価がいまいちよく分からない。

500円が高いのかも安いのかもさっぱり分からない。

やはりこの世界の事を色々勉強しなければならないようだ。


私達はマーガレットの車に乗り込み、発進させる。

車のミラーを見るとキラスは笑顔で尻尾と手を振りながら「また来てねー!」という元気な声が聞こえてくる。

この世界にずっといられるのなら、また来たいものだ。




とある小さな町のビルの一室。

薄い部屋の中で椅子に縛り付けられ、口を塞がれながら怯えてている男とそれを気にしない小柄な女性がいた。


「くくっ…可愛いなぁ…」


小柄な女性は、一人でぶつぶつと言いながら小さなゴキブリを手の平に歩かせ遊んでいた。


「…戻ったぞ」


ゴキブリで遊んでいると、ドアが開き、ロングコートを羽織った金髪の女性が部屋に入ってきた。


「あっ!ルナ!お帰り!」


小柄な女性は、金髪の女性の事を「ルナ」と名乗り、手の平で遊んでいたゴキブリをパシッと潰さないように握り、彼女に抱き着こうとするが拒否られてしまう。


「うぜぇからやめろ…。それより、あの金持ち終わったぞ」


「えぇー?あの金持ちって?」


「ロバートだよ。あのくそきもいデブ。…まあ、あいつは死のうがどうなろうがいいが、そいつを終わらせた奴らが厄介なんだ」


「厄介?」


小柄な女性は手の平で遊んでいたゴキブリを自分の口の中へ帆を理投げ、ボリボリと音を立てながらお菓子を食うように食べた。


「ああ、ロゼッタって覚えてるか?あいつらがやったらしい。私らの元に来るのも時間の問題だな」


「ふーん…」


小柄な女性はそう返事をすると、口の中に含んでいたゴキブリを飲み込む。


「なんだ、意外とあっさりとした反応だな」


「うん、だってそいつらが来たらこうすればいいだけじゃん」


そう言うと小柄な女性は腰に隠していた銃を取り出し、まるで当たり前かのように椅子に縛り付けられていた男の額目掛けて発砲した。

男の頭からは血が飛び散り、壁に血と一緒に脳みその肉が付着する。


「ね?ルナ」


「ああ…。そうだな…。エマ」


ルナは小柄な女性の事を「エマ」と名乗り、笑顔で返答した。

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