Magical Reve ~Dreams and Newlife~
柏木桜
始まり
第1話 始まり
ギリギリギリ…
弓を引く手に力が入る。
パスッ!
放たれた矢は的をかすめ、壁に当たった。
違う…私はちゃんと的を狙った…。
先月の大会前は的の真ん中を確実に射る事が出来る腕前だったが、弓道大会の張り詰めた空気に負け、思ったような成績を出せず惨敗。
それ以来正確に矢を射抜く事が出来なくなってしまった。
「…はぁ…」
私は深く溜息をつく。
「「結衣」ー部活終わりだけど帰らないのー?」
「もうちょっと練習するから…」
私「冴島結衣」は部員の言葉に返答だけして再び弓を引く。
自分一人だけの空間。集中していると風の音だけが聞こえる。
「…いっつ…!」
パスッ!
突然指に痛みを感じた為、構えていた矢はぶれてしまい虚しく的より手前の地面に刺さった。
痛みを感じた左手親指を見ると絆創膏のガーゼ部分から血が滲み出ていた。
「…なんで…なんでなの…」
悔しさのあまり私は泣きそうになりながら刺さっている矢を回収し再び弓を引こうとするが目が涙でかすみ的が見えない。
「…はぁ…もういいや…」
弓を引くのをやめ、片付けをし制服に着替え武道場の鍵を閉めた。
どうしてこんなにも弓道が上手くいかなくなったのかがわからない。スランプか、はたまた私自身の実力不足か…。とにかく悔しさだけが募る。
校庭には誰もおらず薄暗い。スマホで時間を見ると18時半を超えていた。
俯きながらトボトボと学校の最寄駅へ向かうと電車が遅れているのか発車時間を15分以上過ぎている電車があり私は電車に乗り込みボックス席の窓際に座った。
二、三分程経つと電車は発車し窓の外を流れてく夜景を眺めながら耳にイヤホンを付け、好きなアーティストの曲を聴き気持ちをリフレッシュさせる。
「ふあぁー…」
毎日のように練習していた疲れが出たのか大きなあくびが出る。目蓋が重い…どんどん意識が遠のいていく…。
…おーい…大丈夫かー…
暗闇から誰かが私を呼んでる…。
「う…ん…あれ…?」
意識が少しずつ戻ってきた私はゆっくりと目を開くと青空と白い雲が目に入り心地よい風の音と鳥のさえずりが聞こえた。
「おっ、やっと気づいたか…大丈夫か?」
「…はい…?」
私は近くにいた人に返答をし体を起こすと周りの景色をぐるりと見た。
おかしい。
私はさっきまで夜の電車内にいたはずだ。
なのに今私がいる場所は電車内でもなければ夜でもない。
自然豊かな景色と女性が私を囲む様に四人いる。その後ろには茶色っぽい赤色の古い車が一台止まっている。おそらく私のおじいちゃんとかが乗ってた年代?かそれ以上前のだろう。
しかも一人はコスプレ…?だろうか魔法使いのような格好をした女性がいる。
「あの…ここ…どこですか…?」
「ここ…?うーん…。ロゼッタ、ここってどこだか分かるか?」
「えー!マーガレット…ここ、どこだか知ってて走ってたんじゃないの!?」
二人の女性が私を置いて話し出した。多分だけど少し髪がウルフカットで怖そうな女性がマーガレットで、しゃがんだら髪が地面に付きそうなほど長く、優しそうな人がロゼッタなんだろう。
「はいはい…それよりどこか痛いところとかありますか?」
「はい…大丈夫…です…」
「あの…名前とか言えますか?もし大丈夫なら住んでいる場所も…」
魔法使いの格好とは別の短髪の少女が私に話しかけてきた。私は知らない人に名前など個人情報を教える事は少し不信感はあるがこの人達なら多分大丈夫だろうと思い教えた。
「冴島…結衣です…」
「サエジマ…ユイさん…変わった名前ですね。住んでいる場所はどこですか?もしよければそこまで送ってあげますし」
「五条橋ですけど…」
私は送ってもらえるならと思い家の近所の駅名を彼女に告げた。
それを聞いていたのかマーガレットは私の事を睨むように見つめてきた。
「ゴジョウバシ…?なんだそれ?そんな場所無いぞ」
「え…?そんなわけ…」
「地図見るか?ほれ」
マーガレット(と思われる人物)は、私の事を立ち上がらせ持っていた地図を見せた。
地図には日本列島なんて書いておらず一つの大きな島と地域の名前だろうか、所々に英語で文字が書いてありもちろん五条橋なんて書いていない。
「ほらな、無いだろ?」
「…は…はい…」
「それに、お前の服装…民族衣装か何かか?」
私が見ていた地図をバッと奪い取り、マーガレットは車のフェンダー部分に寄りかかるとポケットからタバコを取り出し吸い始める。
彼女達から見れば私の制服姿はそう見えるのだろうけど私からすれば…っと言いそうになったがここで揉めてはいけないと思い心の中に押し込む。
「うーん…てなると帰る当てがないのかー…。じゃあさ、少しの間私達の仲間にすればいいんじゃない!?」
ロゼッタ(と思われる人物)は笑顔でマーガレットと少女二人に伝えた。
すると彼女達ははぁ…とただ言うだけで嫌そうな顔はしなかった。
「まあ、ロゼッタならそう言うと思ってたよ…サエジマさんはどうですか?」
「はい…よろしくお願いします。あと…結衣でいいです…」
「やったー!それじゃ、ユイちゃんこれからよろしくねー!」
私の名前を聞いてきた短髪の女性に質問されたが、ここで拒否して一人で死ぬよりはマシだろうと思い私は仲間に入ると返答した。
ロゼッタは笑顔で私に抱きつき頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
マーガレットはタバコを吸い終えると立ち上がり運転席の方へと向かった。
私はその時にマーガレットのコートが風で揺れた瞬間、腰辺りに銃がある事に気付きゾッとすると同時に彼女の機嫌を損ねないようにしようと強く思った。
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