第9話 依頼
「友達を助けて欲しいの?」
ロゼッタは少女の言葉を聞き、そう言った。
少女の名前は「ベリー」。
本来はこの街からかなり距離のある地域に住んでいたらしいが、何者かに誘拐され、目を覚ましたら屋敷の中にいたという。
屋敷の中にはベリーとは別に、助けて欲しいという友人「メアリ」がおり、誘拐犯は彼女達の事を「コレクション」と呼んでいたとのこと。
ロゼッタは少女の言っている事を真剣な顔でメモを取る。
「…なるほどね。分かった、友達を助けに行ってあげる。場所は?」
「この街の外れにある大きな屋敷…」
少女は窓の前まで歩き、街外れの大きな屋敷を指差す。
ここからだと歩いて行くには少し距離のありそうな場所だ。
「あそこね。マーガレット、私とユイで行くからこの子の事よろしくね」
「おう、分かった」
ロゼッタはマーガレットに少女を託し、私を連れて部屋を出た。
何も出来ない私が、何の役に立つのだろうか…と思いながら仕方なくついて行く。
「あの、ロゼッタさん…。なんで私なんですか?」
宿の外に出てロゼッタが魔法で箒を出し、跨がろうとしている時に私はロゼッタに思っていた事を言った。
「サーニャがユイちゃんはアーチェリーが上手いって聞いたから、見てみたくてね」
「いや…私そんな上手くないですって…」
サーニャにそう言われても、マーガレットの銃の扱いやロゼッタの魔法を見たからか、凄く自信が持てない。
元いた世界でも弓道は上手くいっていなかったし、この世界で通用する気がしない。
「…不安?」
「…はい…すごく」
ロゼッタは私の肩に手を置き、優しい声で問いかける。
「大丈夫。もし、ユイちゃんに何かあったら私が全力でサポートするし、責任持つ。…それと、はい」
「これって…!」
「ユイちゃんの元いた世界の事を見てたら出てきたんだ。流石に持ち出す事は出来ないからこんな感じかなーってイメージして出したんだけど…どう?」
ロゼッタは魔法で弓道弓と矢を出し、私に渡した。
弓は元いた世界で使っていた時のと高さが同じで、同じ素材なのかとてもしっくりくる。
とてもイメージで作ったとは思えない。
「凄いです!…けど、今出されても…」
「…あー、ごめん…思ったよりでかいもんね…」
「…ふふっ」
私はロゼッタの事を見て自然と笑みが溢れる。
それを見たロゼッタは安心したのか少し笑顔になる。
「うん、ユイちゃんはやっぱり笑ってる時の方が可愛いよ。…ちょっと待ってね…。はい」
ロゼッタは私の首に謎のネックレスをかけ、私が持っていた弓と矢を取り、魔法で消した。
「よし!準備完了!ネックレスは移動しながら説明するから後ろ乗って」
ロゼッタは箒に跨りながらそう言った。
箒は映画の様にふわふわと浮かび、ロゼッタの足は地面に付いていない。
現実じゃない様に思えるが、この世界では現実なのだ。
私が箒に跨り、ロゼッタに背後から抱きつくと箒はふわっと飛び上がり、原付ぐらいのスピードで建物の上まで飛んでいく。
ある程度の高さになると目的地の屋敷目掛けて進んでいく。
「下見ないようにね」
ちらっと下を見ようと思った私の気持ちを察したのか、タイミングが合っただけなのかは分からないが、ロゼッタは私に注意をした。
「それと、そのネックレスはユイちゃんの持ち物をネックレスにしまえる様に出来る物なの。今出しちゃうと落として大変な事になるから、屋敷の前に着いたら使い方教えるね」
ロゼッタは私にそう言った。
元いた世界の友人がよくやっていたRPGで例えるのなら、私が付けているこのネックレスはアイテムボックスみたいな役割なのだろう。
確かに、空を飛んでいる中アイテムを出現させて落としてしまったら拾いに戻る手間が増える。
ロゼッタも人を助けに行くという場面でそういった面倒事は避けたいのだろう。
宿を出発してから2分近く経ち、私とロゼッタは目的地の屋敷の前にたどり着いた。
屋敷は見た目綺麗で手入れされてるようだが、気持ち悪いほどに人気がない。
「ユイちゃん、さっき渡した弓矢を想像してみて」
私はロゼッタの言う通り、頭の中で簡単に「弓矢」と想像してみた。
カランカラン…
弓矢は私の右側に出現したが、キャッチすることができず地面に落ちた。
「出し方は分かったみたいだね。しまう時は逆の手順でやればしまえるから、その都度やっていけば慣れてくるだろうし大丈夫だよ。でも、そのネックレスは何でも出せる訳じゃなくて、自分が手に入れた物だけが出し入れできる物だから覚えといてね」
「分かりました」
落ちた弓矢を拾おうとしている中、ロゼッタはネックレスの説明を簡単にした。
しまいたい時は「○○をしまう」と思えばいいらしい。思った以上に簡単だ。
屋敷内で何かに使えそうなものがあったらネックレスにしまっておこうと思った。
「…さて、ユイちゃん…心の準備はいい?」
「…はい」
ロゼッタの一言に私は簡単に返答した。
ここで「やっぱり帰る」と言えるわけないからだ。
私達は屋敷の中へと足を運んだ。
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