第17話『クロノ、決闘だ!【勇者】』

 ボクは王都を駆け回り証言を集めた。

 クロノはいま中央通りを歩いている。


「みつけたぞ、クロノ!」


 間違いない。あの後ろ姿、クロノだ!

 ボクは叫んだ。


「クロノ、ボクが来た! 勇者探偵シンだッ!」


 キョトンとした顔をしている。

 もっと緊張感をもって欲しい。まるでまぬけだ。


 メイド服の子はクロノの妹かな?

 やあひさしぶり妹ちゃん。ボクだ、シンだ!


 まえ見たときと髪の色がちがう気がする。

 クロノの妹だからだろうか? 不可解だ。


 とてもかわいい。髪の色なんてまるで誤差だ。

 兄妹なのにクロノとは似ても似つかない。


「クロノ、御用だ! 逃げられないぞ!」

「ごきげんよう、セーラです」


 クロノの反応がうすい。ぼんやりしてる。

 なぜだろうか? のんびり屋だからだ。


 妹がクロノのうしろに隠れた。

 銀色のつややかな髪の金色の瞳の、処女。


 よし。


 クロノをやっつけてお嫁さんにしよう。

 クロノのママにあいさつにいかなきゃ。


「シンさん、推理の時間ですよ」


 犯人、動機、トリック。

 すべての謎をボクが解きあかした。


 ボクはこの事件を人間犯人説で説明できる。

 犯人はオバケではない。生きたクロノだ。

 つまりオカルトじゃない。ミステリーだ。


「犯人はクロノ! 動機は嫉妬! 双子トリック!」


 ビシィッ! 人差し指をクロノにつきつける。

 とても凄い推理。世界で一番はやい探偵です。

 ボクが、シンです。Sランクの。神に選ばれた。


「これが王都をゆるがす奇怪な事件の真相だ!」


 まるで名探偵だ。


「事件、真相、トリック? いったい、なんの話だ?」


 シラを切っている。往生際の悪い犯人だ。

 仕方がないことだ。クロノは平民だから。


「罪をみとめ罰をうけろ、クロノ!」

「そりゃ、おまえだ。はやく自首しろ」


「なぜだ、クロノ!? ボクは無罪なのに」

「無罪? なら、アリバイを説明しろ」


「いいだろう、説明してやる。このボク、勇者シンが聖剣カリバーンでクロノをザシュッとつらぬいて奈落につき落としたのを知っているのは、セーラと、フレイしかいない。つまり完全犯罪だ! これがボクのアリバイだ! 観念しろ、クロノ!」


「はい、自白ゲット。つか、ボロだすのも最速なのな」

「だ、だましたのか仲間を?! 神に選ばれたSランク勇者シンを?」


「いやおまえがかってに自白しただけだ、知らん」

「そんな、ばかな。これは誘導尋問だ。ハメられた!」


「まあ、いいや。シン、逮捕だ。お縄につきやがれ」

「まってくれ、推理に続きがある。話せばわかる!」


 ボクはかたく目をつぶり思考を飛躍させる。

 まるで闇だ。目のまえがまっくらだ。

 

 ひとり新たな容疑者が浮かびあがる。

 考えたくはないことだった。


 仲間を疑うなんて最低のことだ。

 だけど、そういうことか、フレイ!


「共犯者がいる。キミのよく知る人物だ」

「犯人はおめーだ」


「キミの共犯者はフレイだ」

「は?」


 フレイは非処女でキズモノのアバズレだ。

 さらに最近顔に小さなキズがついた。

 ガチで見えないかすり傷だけど。


 だからヤケになってクロノとヤッたんだ。

 だからフレイとクロノは共謀した。


「フレイがキミに枕もとでささやいたんだな。そうだろ?」


 すべてのパズルのピースがクロノを指ししめす。

 ここまでくれば認めざるおえないだろう。

 きっと涙ながらに犯行動機を語ってくれるはずだ。


 ビシィッとクロノに指を突きつける。

 名探偵のように。クロノ、いまならまだ間にあう!

 ボクの元に戻れば、ギルドは許す。バカだから。


「あるじ様の隣にはわらわがいた。アリバイじゃ」


 妹がしゃべった。かわいい、結婚しよう。 

 ときめき過ぎて過呼吸がヤバい。

 髪に顔をうずめて頭頂部のにおいを嗅ぎたい。


「おまえの言う通り俺が双子だったとしてさぁ」


 犯人の自供がはじまった。

 クロノが双子トリックを認めた。予想通り。

 聞きたいのは動機だ。


 涙ながらに動機を話してくれるはずだ。

 すばらしいボクに嫉妬していたという。動機を。


「だとしてもまったくおまえの罪の重さは変わらねぇよ」

「なんで? そうかな? そうでもないかもしれないよ?」


 むむむ? クロノは何を言ってるのだろうか?

 まったく意味がわからない。まかふしぎだ。


 助手のセーラが無能なせいで、ピンチだ。

 セーラは役に立たない。胸がデカすぎる。

 あまりにはしたない。Sランクの大聖女なのに。


「だって、おまえ殺して隠ぺいしようとしたじゃん?」

「たしかに」


 えーと。うーんと。一理あるのかな?

 なるほど。やれやれ。えーっと。どうしよ。

 つまりは。


「クロノ、決闘だ」


 言葉だけでは伝わらないこともある。

 そういうときには、暴力だ。

 それがイケてる男の世界だ。クロノ。


「シンさん名推理でしたね。感動しましたよ」


 ボクのうしろから手をたたく音が聞こえる。

 勇者探偵シンの助手、大聖女セーラだ。


「ところでシンさん、邪魔ですのですこしの間さがっていていてくれますか。ここから先は助手のセーラが推理を引き継ぎます」


 ムリだ、セーラ。キミはパパ上のコネだ。

 相手は犯罪者だ。花嫁修業じゃないんだぞ。


「おひさしぶりですクロノさん。それでは推理をはじめましょうね。七連詠唱です」


 空中に巨大な魔法陣がたくさん浮かび上がった。

 たいへんなことになった。これは事件だ。

 

 ボクは言葉を失った。

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