第9話『どうしてこうなった【勇者】』

 ここはSランクダンジョンの一階層。

 神に選ばれたボクの記念すべきデビュー戦だ。

 だというのに。


「どうしてこうなった」


 わかりきったことだ。

 ぜんぶクロノがわるい。

 地獄の底で反省しているか? クロノ。


「コレ、ピンチじゃん。シン、うしろの魔獣、きって!」

「聖剣カリバーン! シュパパパパッ!」


 目にもとまらぬ高速の連撃。

 シュパパパパと切られて魔獣はしんだ。


 みたかクロノ、これがボクの聖剣だ。

 神から授かった聖剣カリバーンだ。

 

 わるい。クロノ。

 聖剣のキレ味はキミが一番よく知ってるよね。


「シン、フレイをサポートなさい。たちどまっているヒマはありません」

「サポート、ボクが? フレイがサポートだろ? ボクは勇者だ」


 フレイの悲鳴が聞こえた。

 ほら、言わんこっちゃない。

 セーラがいきなり話しかけたせいで集中がとぎれた。


「血、切られた、顔が、姫なのにっ! マジ、超ありえないっ!」

「はわわわわわわわ。グロい、まるでホラーだ」


 フレイの顔がエグれてグロい。痛そうだ。

 非処女だからってこんな仕打ち、あんまりだ。

 魔獣には良心も常識もないのだろうか?


「三連詠唱、エクスヒール、セイクリッドオーラ、マイティーガード」

「ナイスセーラ! いまのサポート、まじ、たすかったし!」

 

 魔獣がとんだりはねたりまるでサーカスだ。

 ボクの聖剣がまったく当たらない。卑怯だ。

 

「セーラ、フレイ、魔獣の動きを完全に停止させろ。ボクが倒す」

「不可能です」

「はあっ? 完全に停止?! 無理にきまってんじゃん。あーた、正気?!」


 なんてことだ。ふたりとも無能すぎる。

 格が高い時点でクロノよりは優れているが。


 それでも魔獣の動きを完全に停止できないとは。

 何しにダンジョンにきているのだろうか。ばかだな。


「もういい! ボクがいく! 聖剣カリバーン! ズヴァアンッ!」


 真っ二つだ。魔獣は死んだ。

 見たか? クロノ。

 これが、ボクの力だ。


「セイクリッドプロテクション」


 魔獣のツメが防御結界にはばまれる。

 魔獣がボクをひっかこうとしていた。


 魔獣の接近をゆるしてしまった。

 セーラとフレイが魔獣を停止させることができないから。


「これ、……マジ、ムリ。シン、撤退するよ」

「シン、フレイに従いなさい」

「うおぉぉぉおおおおおおおおおっ!!!!!」


 ボクはダンジョンを駆け抜けた。風になった。

 いかに恐ろしい魔獣相手にもボクは引かない。


 なぜならボクの背中を見守る仲間たちがいるから。

 Sランクの大聖女と、Sランクの姫騎士が。


 クロノ、地獄で友達はできたか?

 ボクはSランクダンジョンで戦っている。

 格の高い仲間とともに。勇者として。


「シン!? あた、なにぼっとしてんの?! 前っ! 攻撃当たるしっ!!」

「へっ? ぎゃふんっ!」


 トロールみたいなやつにハンマーで頭を殴られた。

 くらくらする。


 どうしてこうなった? フレイとセーラが無能だからだ。

 ふたりが魔獣を完全に停止させることができないのが原因だ。

 冒険者の仕事を花嫁修業とでも勘違いしているのだろうか?


 いや、仲間を悪くいうのはよくないことだ。

 犯人さがしはよくない、クロノ。わかるか?

 キミはボクのように反省することができるだろうか。


 ボクはあらためて自問自答した。


 どうしてこうなった? クロノが死んだから。

 ぜんぶクロノがわるいからだ。



 ボクは意識を失った。

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