第8話『うまいのじゃー☆』

「あるじ様、素敵な服をありがとなのじゃ!」

「どういたしまして」


 日が落ちてきたな。ギルドへの報告はあしたにしよう。

 あわてて駆けこんでもロクなことにならないからな。


 今回の一件は教会がらみの案件だ。

 ギルド内部にも教会派の人間がいると聞く。


 あわてて駆けこんでももみ消さる可能性が高い。

 あせらず慎重にだ。


「あるじ様よ、そんなに紙を買ってなににつかうのじゃ?」

「奈落の構造をギルドに報告しないといけないからな」


 道具屋で報告書を書くための紙も大量に買った。

 奈落の構造はもちろんだがシンのことも報告しなきゃだ。


 罪人の通報は、王都にくらす者の義務だからな。

 まあ、ぶっちゃけムカついてもいるが。

 それはそれ、これはこれだ。


「今日は徹夜だ」

「ふむ。大変じゃの。わらわもいっしょに起きているのじゃ」

「ルルははやく寝なさい」


 吸血鬼というと夜行性のイメージがある。

 やっぱ月夜に血がさわいだりするのだろうか?

 月夜に血とか、いいね。かっこいい。


 そんなことを考えていると、くぅ~っと小さくおなかの音。


「血、吸うか?」

「ありがたいのじゃが、これだけ人がいると恥ずかしいのじゃ」


「じゃあ、普通のメシでもいいか?」

「うむ。ありがたいのじゃ」


 まともなメシを食うのはどれくらいぶりだろうか。

 マジックバッグに大量に干し肉をいれといてよかった。


 まあ、整理していなかっただけなのだが。

 すっぱい干し肉とかもあったからな。


「ルルが好きなくいもんはなんだ?」

「もちろんあるじ様の血じゃ! あるじ様を愛しているのじゃ」


「それ以外の」

「ふむ。赤いごはんに、とろりとしたたまごがかかってるのかの?」


「赤いのって、血?」

「ではないのじゃな。トマトとかいうのを使ったソースじゃの」


 ああ、オムライスのことね。子供舌か。

 俺もきらいではないが、注文するのに勇気がいる。


「おっけー。じゃあ、行こうか」


 俺とルルは店のなかに進む。

 きどらない家庭の味って感じの店だ。


「らっしゃーい。って、クロノさんじゃないですか!?」


 夫婦できりもりしているメシ屋の亭主だ。

 相当な歳の差に見える。

 エルフだからセーフ、だそうだ。


 人の欲のあつまる都、王都。

 闇が深い。


「あら、クロノさん。最近いらっしゃらないので、心配していたんですよ」

「顔だせずすみませんでした。ちょっと、ヤボ用で」


 メシ屋のおくさんだ。若い。

 ふたりの子供もいる。

 ……。だいじょうぶか、王都?


「なににします?」

「オムライス2つ」


「あらあら。まるで神のように美しい子ですね。おくさんですか?」

「いえいえ、この子は俺の仲間です」


 おやまあ、めずらしい。ルルが静か。

 『わらわはあるじ様の妻なのじゃ~☆』

 とか、はしゃぎそうなものだが。げせぬ。


「ルル、ぐあいでもわるいか」

「すまぬの。しょたいめんの人と話すのになれてないのじゃ」


「ほうほう。ルル、オムライスきたぞ」

「わーい! うまそうなのじゃー!」


「すごい、まるであるじ様のように光り輝く黄金のふわふわたまご。おいしー!」

「ほんと幸せそうだな」


「そして、まるであるじ様の血を想像させる、濃厚な赤きソース。天国じゃ~☆」

「そのたとえはあまりよろしくないな。亭主がチラ見してるぞ」


 そんなこんなであっという間に夜がきた。

 文化的な生活ってやっぱ最高だな。うん。

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