第22話『クロノ、決着だ!【勇者】』

「ほらやっぱり。キミには無理だ。セーラ」


 ボクの予想した通りだ。

 魔獣を完全に停止させることすらできない無能、セーラ。


 これを機にまじめに魔法を勉強して欲しい。

 ボクほど努力しろとは言わないけど。


 司教っちの教育が悪かったせいかな。

 よほど甘やかされて育ったのだろう。


 それとセーラ。


 派手に戦えばいいってもんじゃないぞ。

 ボクに自慢したかったのかな?

 そうなんだろうな。健気なものだ。


「やれやれだ」


 クロノとセーラに言いたいことがある。

 戦いにもカッコよさが求められる。

 具体的に説明しよう。


「ドカドカーン、キキキキ、チュドーン」


 これじゃあまるで子供だ。

 ボクが文明人の戦いを教えよう。

 ボクの戦いはこうだ。


「タタタタタタタッ、シュッ、ザシュッ」


 音もなく、風のように、斬る。

 戦いのなかにあっても優雅さを忘れない。

 これが文明人の戦いだ。

 

 ボクは脳内でクロノをイメージする。

 あらゆる攻撃を想定しズバーン。勝てる。

 イメージトレーニングは完ぺき。


「ボクだ、クロノ。勇者シンだ!」


 ボクはクロノに人差し指を突きつける。

 ビシィッと。まるで反応がない。


 クロノの妹はどこに消えた?

 せっかくの見せ場だったのに。


「聖剣カリバーン!」


 ボクはクロノに向かって走る。

 聖剣カリバーンとともに。


 タタタタタッ、シュッ、ズバーンッ!


 ボクはクロノを両断した。

 あっけないものだ。



「……っ、はれっ? なんで、クロノが目の前に?!」



「シン、おまえもついでだ。黙って寝てろ」

 

 目の前に、クロノの手が。


「かはっ!」


 凄い。とにかく凄い、痺れる!


 まるで天地がヒックリ返ったみたいだ。

 あたまが痛い。めまいがする。


 どういうことだ? 何が起こった?


 ボクはクロノを両断したはずだ。

 聖剣カリバーンで、ズバーンと。

 それなのに地面に倒れている。


 クロノの姿は見えない。

 青い空しか見えない。


 目の前にひろがる、雲ひとつない、空。

 無限にひろがる青一色の、大パノラマ。


 目のまえの景色がぐわりとゆがむ。

 景色がきりかわる。


 あおくさい、草のにおい。

 ここはどこかの草原だろうか?


 幼いクロノが、木の枝を持っている。

 幼いボクも、木の枝を持っている。


 これは、決闘ごっこだろうか?


 子供のころの記憶のようだ。

 まるで走馬灯みたいだ。


 記憶のなかのふたりが木の枝を、構える。


 たがいの木の枝がぶつかりあう。

 ザッ、スッ、シュ、ズバーンッ。


 かわし、うけ、いなし、なぐ。

 ……決着は、おぼえてない。


「ボクが勝ったんだろうな」

 

 ゆがんでいた世界がもとに戻る。

 クロノも、草むらも、木の枝も、消えた。

 草のかおりは、もうしない。


 だけど、一面に広がる青い空だけはかわらない。 

 なぜだか、なつかしさを感じる。


 あのときもこんな青い空、見た、ような。


「いつのまにか雲がない。まるで晴れだ」


 背中に石だたみのヒヤリとした感触。

 となりにセーラのマヌケな顔がある。


「ひどい。まるで、ひどい」


 あまりの光景にがくぜんとした。

 口が開いている。あまりにブザマだ。


「だめだセーラ。……コネだとバレる」


 最後の力をふり絞りセーラの口を閉じる。

 なかなかかたくて、閉じるのが大変だった。


 あぶない。ボクの格が下がるところだった。

 やった。ボクは、やりきった。

 

 うすれゆく意識のなかでボクは思った。


 セーラはなんで胸がデカいのだろうか。

 これじゃ、まるで牛みたいじゃないか。


 あまりに品がない。恥ずかしい。

 これじゃ、クロノに笑われる。


 ボクはそこで意識を失った。

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