第23話『あるじ様、お疲れ様なのじゃ!』

 ポスッ。やわらかい感触が、顔に。

 ぺろっ、……これはマクラ!


「スキあり! 大マクラ投げ祭り始めるのじゃぁ~☆」

「はいはい。ルルは子供だ」


「ふむ? 昨日はあんなにはしゃいでおったのにどうしたのじゃ?」

「そ、そうだったっけ?」


「ありとあらゆるマクラを完全に使いこなす雷術師クロノ。と、言っておったの」

「記憶にございません」

 

 何言ってんだ? 昨日の、俺。

 テンション高いな。どうした?


「たくさんマクラがあるのじゃな。投げ放題なのじゃ~」

「マクラだけじゃないぞ。クッションもある」


 実は、結構まとまったお金が入ったのだ。

 いまはルルとちょっとした贅沢を楽しんでいる。

 マクラとクッションを買ったのもそのいっかんだ。


「あるじ様はお金持ちになったのじゃな!」

「おう。ダークラウンズのドロップアイテム売ったらな、すげー金入った」


 あの一件のあとのことだ。

 未鑑定のダークラウンズ装備をギルドに持ってった。


 そしたら、とんでもない金額で売れた。

 節約していれば一生遊べるくらいの金だ。


 そんなわけで今はルルと豪華な宿屋に泊まってる。

 マクラ投げができるほど広く、いたって快適だ。

 ルルもたのしそうでなによりだ。

 

 その金で家は買えなかったのかって?


 はい。まだまだ全然たりませぬ。

 王都の家はめちゃくちゃ高い。

 冒険者引退には、まだ早い!


「ダークラウンズ装備、売っちゃって良かったのかの?」

「まったく問題ない。ヨロイとか盾とか装備しないしな」


 ダークラウンズ装備、性能は優れていたようだ。

 だけどなんというか、デザインが老騎士っぽかった。


 本格的なダークファンタジーっぽい感じの装備だ。

 微妙にマントとか破れて、灰色ぽい感じだ。


 格好いいとは思うが、ちょっと渋すぎる。

 俺が着たら気取り過ぎてる感じがする。


 ベテランの老騎士とか着たら似合いそうだ。

 値段がついたということは買う人がいるのだろう。


「あるじ様の新しいローブも格好良いのじゃな」

「ありがとさん」


 ダークラウンズ装備を売ったお金で勝った服だ。

 ルルが選んでくれた服。

 

 前と同じ黒いローブじゃないかって?

 素材が違う。良い布でできている、そうだ。


「あるじ様。その黒いローブはあつくないのじゃな?」

「ぶっちゃけ。あついし、けっこームレるな」


「なのじゃな。あるじ様も大変なのじゃ。黒は陽の光を吸うのじゃ」

「そうなんだ。まあ、ヨロイとかとくらべれば、はるかにマシだ」


「シールダーの重装備、見るだけで汗が出てくるのじゃな」

「だな。中の人は大変だ」


「通気性のよさなら、女戦士が着ているアレは涼しそうじゃの」

「ビキニアーマーのことか?」


「うむ。それじゃ。おへそまるだしなのじゃ。あぶなくないのかの?」

「殺られる前に殺るって、スタイルらしいぞ。先手必勝だな」


「ふむ。なるほどの。奥がふかいのじゃな。おなかが冷えそうじゃが」

「だな。胃腸も鍛えているんだろう」


 詳しくはしらないが。


「あるじ様が倒した者たちはどうなっておるのじゃ?」

「シンとセーラか? 大監獄に投獄されてるそうだ」


「レベル、魔法、スキルが無効化される大監獄なのじゃな」

「脱獄したヤツはいないそうだ」


「して、フレイという女はどうなったのじゃ?」

「自宅軟禁だそうだ。他国の要人だから扱いが難しいらしい」


「ふむ。千年たっても人の世は変わらず大変なのじゃなぁ」

「だな」


 このあたりのことはあまり語ることはないか。

 というよりもあずかり知らぬことという感じか。


「教会の司教、みるもあわれなことになっておったのじゃな」

「ああ。完全に死にかけの病人みたいになってたな」


 司教のおっさんは一切の抵抗なく捕まった。

 まえは凄い威厳のあるおっさんだったのに。

 相当な心労があったようだ。


「ほとんどアンデッドだったのじゃな」

「40歳そこそこなのに、90歳くらいに見えたな」


 ルルが、少しもじもじしている。

 もれそうなのかな?


「ルル。無理するな、トイレに行け」

「違うのじゃ。あるじ様にちょっと聞きたいことがあったのじゃ」


「遠慮するな」

「その。あるじ様、最近元気ないと思っての」


 考えごとをしていたせいだ。

 ルルに隠すことでもない。


 心配をかけるのは悪い。

 話すか。


「ちょっと考えごとをしてたんだ」

「わらわに手伝えることはあるかの?」


「ルルには。話を聞いてくれると、助かる」

「あるじ様の話ならなんでも喜んで聞くのじゃっ!」


「シンに触れたとき、断片的に記憶のようなモノが流れこんできた」

「記憶〈のような〉モノ? 記憶とは違うのじゃ?」


「ああ。脚色された記憶というか。メルヘンの世界。みたいというか」

「ふむ。あやつの妄想とはちがうのじゃな?」


「なんとも言えなくてな。だけど俺の記憶の景色とあまりに違うんだよ」

「ひとりで抱えこまなくてよいのじゃな。わらわもともに悩みたいのじゃ」


「断片的でまとまりがない話だ。妄想と現実の境も分からない。それでもいいか?」

「もちろんなのじゃ。相談してくれてわらわも嬉しいのじゃっ!」



 ありがたい。さすルルだ。



「それはこんな話だったんだ」



 俺は、自分のみた光景をルルに伝えるのであった。

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