第24話『大監獄に投獄されちゃった!【勇者】』

「っ……大監獄の全機能が止まっただとッ! どういうことだ!」

「わっ、わかりませんッ! エネルギー供給が完全にとだえてますッ!」

「ありえぬッ! そっ、そんなこと、ありえるはず、……なッ? かはっ!」


「ありえるのだよ」


 スキルと魔法を完全に無効化する大監獄。


「なるほど。やっかいだな」


 大監獄はすべての権能を無効化する。

 誰であろうとこの大監獄では無力だ。

 脱獄に成功した者はいない。

 

「この怪盗クロトカゲをのぞけば、だがな」


 大監獄の全機能はダンジョンコアに依存している。

 つまり、ダンジョンコアを奪えば機能不全におちいる。

 そして、その動力源は、私の手の内にある。


「ダンジョンコア。盗ませてもらったよ」


 ダンジョンコアはただの動力源ではない。

 無尽蔵のエネルギーを供給するクリスタルだ。


 このクリスタルは美しい虹色の輝きをはなつ。

 王都の星。超一級の美術品でもある。


「私はそのような財宝を、ほってはおかぬさ」


 王都のあらゆる価値ある財は私の所有物だ。

 この怪盗クロトカゲの。 


「盗みだせぬものなど、ありはしないのだよ」


 盗むことは生きること。


「呼吸をするのと同じ。ぞうさもないさ」

 

 無尽蔵のエネルギーを供給する動力源。

 そして、世界で最も美しい宝石。


 一級の美術品をひと目の届かぬ場所に置くとは。

 俗物どもの考えは、あまりにどしがたい。

 

「王都の星はこのような無粋な場所にはふさわしくない」


 王都の星には、より輝ける場所がある。

 私が、その舞台を用意しようじゃないか。

 

「一級の美術品はあるべき場所でこそ真の輝きを放つのだよ」


 追っ手、か。さすがに動きが早い。

 楽をさせてはくれぬのだな。


「よい。すこしばかり、遊んでやろう」


 なるほど。なかなかの面構えだ。

 それなりに場数は踏んでいるようだ。


「いたぞ! ヤツは王都を騒がせている怪盗、クロトカゲだ!」

「逃げられないぞ! クロトカゲ、貴様も終わりだ!」

「多勢に無勢だ! この大監獄から逃げられると思うなよ!」


 取り囲むように13人。

 安易に近づく馬鹿どもではないようだ。


 なかなかに慎重な動きだ。

 練度の高い者たちなのだろう。


 むやみに近づかない点は評価しよう。だが。


「観念しろッ! 我々は全員レベル100超えだ!」

「スキルと魔法の一流相手にコソドロ風情が勝てると思ったかッ!」


 レベル、か。人の存在力をはかる絶対の指標だ。

 レベルはただの数字あそびではない。


 有無をいわせぬ絶対的な力。

 そして、人間の価値を評価する絶対の基準。


「ならば、やってみるがよい」


 パチンッ、指を弾く。


「殺れっ! 近づくな! 距離をとれっ!」

「スキルと魔法。面で押し潰させてもらおうか」 

「足だ、足を狙えッ! 動きをとめろッ!」


 斬撃、魔法の矢、火球、爆炎。

 あたり一面がケムリにおおわれる。


「がはっ! 貴様ぁ?! 乱心したかあぁああああッ!!」

「えっ、いや、あの女を切ったはず! えっ、なんで?!」

「貴様。クロトカゲの変装だな! 問答無用ッッッ!!」

「うわあぁああああっ!!!」


 同士うちだ。


「相手が悪かったな。ケムに巻くのは私が一枚上手だ」


 私の能力は、〈偽装〉だ。

 私が軽く指を弾けば、このとおりさ。

 

「もとより魔法やスキルの世界では生きてはおらぬさ」


 さきほども偽装の力を使った。

 近くの者をクロトカゲと認識するようにな。


「たわいのない」


 この世界は、レベル、魔法、スキルで成り立っている。

 文明を数段階押し上げた不変のコトワリだ。


「9割の人間にとって都合のよい世界だ」


 レベルも、魔法も、スキルもそれ自体は有益だろう。

 だがそれらの素養を持たずに産まれた者もいる。

 魔法、スキルを前提とする世界に居場所なき、声なき者たちが。


「その影で取り残された者たちも、いるのだよ」


 魔法やスキルの無い世界で人は生きられない。

 いまさらソレを捨てるのは、時計の針を戻すに等しい。

 愚か者がすることだ。

 

「だがそのような正論、しったことではないさ」


 だからどうしたと言うのだ。

 正しくある必要などはないのだから。


「私はもとより正しくなど、ないのでな」


 私は怪盗だ。正義ではない。

 欲するモノはこの手で勝ち盗るだけさ。


「9割の幸福のための贄になるつもりは、ないのでな」


 魔法もスキルも使えない者。

 この世界の仕組みに適応できない者たちがいる。

 そういった者たちは、日陰でくらすしかない。


「だから築くのだ。日陰者が生きてゆける、国を」


 声なき民の怨嗟の声など誰も聞かぬさ。

 与えられず。かえりみられず。奪われる。


「だから、盗むのさ」


 私たちはもとより何もない。

 存在すらかえりみられず、死んでいく。


「この世界は弱肉強食。それをとやかく言うつもりはないさ」


 持たざるものが損をするのは当然のこと。

 強きものが多くを得、弱きものが奪われる。

 ならば、そんな世界を引っくり返して見せよう。


「同じ土俵で戦い、勝つ。文句など言わせはしないさ」


 平等や公平などを求めはしないさ。

 弱者の声など誰にもとどかぬさ。


 上から目線でほどこされるなど不快なだけだ。

 あわれみや、同情は、最大の侮辱だ。


「正々堂々、私たちの居場所を勝ち盗らせてもらおうか」

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