第48話『何度だって蘇るさッッ!!!』
「アリア? これは……、死にかけた僕の、幻覚か? ははっ……。僕は、クロノに殺されたのか。……親友のクロノに、……不意打ちをくらい……僕は、死ぬのか……僕が、神に選ばれた……勇者、シンが……友達に殺されるのか……ツラすぎる……」
すごい死にそうな感じで弱音を吐いているが、あばら骨を折ったくらいだ。 痛いだろう。 だけど絶対に死にはしない。 内臓も破れてないし。 まあ、少なくとも、聖剣で背後から刺し貫かれ、奈落に突き落とされるよりは、痛くないと思うぞ?
「アリアは、ホンモノよっ。シンがちょー情けないから来ちゃったっ。楽園から」
「アリア……君は、……無理言うよ。 僕は、こんな状態だってのに……」
シンは、目の前にあらわれたアリアの姿に、涙をこぼしながら、笑っている。 きっといろんな感情がぐちゃぐちゃになってるんだろう。
涙を流しているのは、アリアとの奇跡の再開に感極まっているからで、俺に蹴られ、折れたあばら骨が痛くて泣いているんじゃない。
…………。 たぶん。 そうだと、信じたい!
「シン、それでも、勝って! アリアのために! だって、シンはアリアの白馬に乗った王子さま勇者シンなんでしょ? がんばれ! がんばれ! がんばれっ!」
シンは、アリアの声援を受け、歯を食いしばりながら、聖剣カリバーンを杖代わりに、よろよろと、立ち上がる。 男としての意地を見せたな、シン。
「クロノ。悪いな……。 僕は、格の高い、高潔で、至高の勇者として君と戦おうとしていた。 だが、それでは君には勝てないようだ。 僕は、平民の流儀にあわせ、騎士道精神をかなぐり捨てるッ! まったく、いさぎよくないが、僕は……それでも、君に勝つッ!!! なぜなら僕は神に選ばれた王子さま勇者シン、だから!」
日に二度敗れるバカがいるか? はい、います。 俺の目のまえに。 二度どころか、ゾンビのように無限に立ち上がってくるホラー野郎が、シンです。
ちなみに、自己アピールで主張していた騎士道精神ですが、……シン、もとから備えあわせておりませんでしたなぁ。 完全に。
幼いころ木の枝で決闘ゴッコをしていた頃から、シンは、土をケリあげて目つぶししてくるわ、〈飛翔剣〉とか言って木の枝を思いっきり投げつけてくるわ、〈飛石剣〉とか言って、石を投げてきたからな。 ……騎士道精神って何だろうね?
「うるせぇ。 昔から潔さなんてカケラもなかっただろ。 わかったよ。 おまえにゃ言葉でも、雷術でみんなの心を束ねて伝えても意味がない、悟った! 何度でも殴って、完膚なきまで、力でねじ伏せッ! 馬鹿なおまえを止めてやるッ!!!」
空からパタパタと舞い降りる俺の妻。 ルルだ。 俺のとなりに並び立つ。 とてもかわいい、メイド服の俺の嫁。 圧倒的に格が高い、始祖吸血鬼の奥様だ!
ルルは、人差し指をシンとアリアに突きつけ、高らかに笑う。
「ふふふっ! 勝つじゃと?! 笑止千万なのじゃなっ、そんなことは絶対に不可能じゃからの。 わらわの、旦那さまこそ世界、宇宙、神をも超える、真の超最強! なのじゃからなっ! 誰であろうと、絶対に超負けるはずがないのじゃっ!」
サンキュー、ルル。 どうだ、シン。 これが俺の妻、ルルだ!
「つーわけだ。 俺も負けられねぇのさ! ルルの前で、ダセェ姿は見せられねぇからなッ! おまえの妹のために、接待で、わざと負けてやることはできねぇってこった。 じゃぁ、続けるぞッ! シン!」
シンが、ワナワナと震えている。 武者震いだろうか? いいぜ、何度でも来い、俺が何度でもおまえをノシてやる!
――シンが、歯をむき出しにし、月夜に吼える!
「クククククッ、……クロ、クロ、クロノ、クロノぉおおあああああッッッ!!!! おまえの妹と、リリアは、僕のお嫁さんだぁあああああッッッっっっ!!!!! 君はッ!!!!!!! 君はァアアアアアアアアッッッ!!! 寝取ったのかッ!!! ぼッ、僕の、お、お嫁さんをッッッ!!!! 僕は、生まれてはじめてキレたッッッッッッ!!! うおおおおォオオオッッッ!!!!! 絶対に許さッッッないッ!!!!!!! が、ガらあああぁあああアアァアアアアアッッッ!!!!」
シンの獣の咆哮。 ――大気が、震える。 すざましい圧。 青い瞳の瞳孔が、真ん中から縦に、パカッと裂けた。 ケモノの瞳。 もうさ、バケモンじゃん。 魔眼とか関係ないヤツだ。
シン、おまえさぁ、覚醒するタイミング間違えているだろ? 明らかに。 おまえの妹のアリアがあらわれた時に、覚醒してくれ。 頼むから。
俺なんて、妹のアリアとシンの奇跡の再開に、もらい泣きしそうになったのに! 俺の感動を返せ! まあ、無理か。 おまえは、〈空気が読めない〉ユニークスキルの持ち主なんだよ。 知らんが。
ルルなんて超ビビって、俺の後ろに隠れちゃた。 たぶん漏らしてる。
「……はぁ。 せっかくアリアが来たのに、失礼しちゃうわ。 シンにはきつーいオシオキが必要ね。 ゲンコツよ。 女神のゲンコツは星をも砕いちゃうんだからっ」
だが、これは、……この圧は……ヤベェ。 だが、ここで圧に押し負けるのはダセェ。俺の勝利を信じ、見守るルルがいるのだから。 俺も見栄を切ってやる!
「へっ! 違うねッ! 俺は、この世界一かわいい、俺の嫁、ルルを、寝取ったんじゃねぇッ! めとったッ! つまり、正式に結婚してるぜッ!!! 来いよ! 何度だって、おまえをぶっ飛ばしてやるさッ!!!!」
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