第49話『クロノ! 僕の、敗北だッ!』
「シン、これで、――トドメだッ! ふっとべッ!!!」
シンの顔面を殴りつけた。 拳が顔面にめり込む。 シンは吹きとばされ、地面に伏す。 もうこの戦いには雷術とか、魔眼とか関係ない。 〈以心電心〉で想いを伝えても意味はなかった。 そういうときにはゲンコツに限る。
「……クロノッ!……僕は、……勝ちたいッ!……もう一戦だッ!」
……バケモノかよ。 何度起き上がってっくるんだよ、おまえは? 観客席は大賑わいだ。 今や俺と、シンを応援する声は半々だ。 シンを応援するのは女。 俺を応援するのは男だ。 男でシンを応援しているヤツは、ゼロ。
「がんばれクロノ! イケメンを八つ裂きにしろッ! 殺せ! 顔面を潰せ!」
「はわぁ……シンさま、……青い瞳に、金の髪、流れる赤い血……かっこいい」
男さん? その声援は、ちょっと怖いわ。 これだからイケメンは。 観客席の女性のリアクションに、少しだけショックだ。 俺だって眉毛を整えたり、寝る前にはスキンケアしたり、王都で流行りの髪型にしたり、……黒い服を着ているのに。 まあ、気にしてないけどね。 全然、まったく。 ほんの少しショックだっただけだ。
「刻は満ちた。漆黒の闇騎士が、無垢なる聖騎士を滅し、――隠の時代が訪れる」
最全席で俺を応援している闇系の女の子だ。 たぶん10歳くらい。 かわいらしいアイパッチをつけてる。 俺を応援してくれる女の子も居る。 モチベが超高まる。 闇を好んでそうな、通好みの女性は応援してくれている。 応援している子は、眼帯を付けてたり、ゴシックな服を着てたり、包帯を巻いていたり、闇っぽい。
――俺は黒を代表し、戦っている。 負けるわけにはいかない!
「いいぜ。来いよ、シン」
「ああ。行くぞ。僕の親友、――クロノッ!!!」
右ストレートがシンの顔面を、穿つ。 シンの拳が俺の頬を、抉る。 立っていた者が、すなわち勝者。 シンは、……ガクリとヒザを落とし、地面にたおれる。
「手応えあり。――勝負あったな」
地に伏すシン、体をイモムシのようにズリズリと、体を引きずりながら……俺の足首をつかむ。 おい、おまっ……まだやる気か?!
「あああああぁあッ……クロノぉぉおおおおッ!!! もう一戦だッ!!!」
そんな絶叫するシンの前に、アリアが立ち、両手を広げて叫ぶ。
「もうやめてっ! クロノさん! いえ、クロノさま! 馬鹿なシンを、もう許してあげてくださいっ! こんなの…………シンが、ほんとうに、……死んじゃうっ! こんな、……あまりにも……とっても、痛そう。 かわいそう。 こんなのってひどすぎるっ! クロノさま、……もう、……弱い者いじめをしないでっ! シンはバカだけど……アリアのシンなの……殺しちゃいやあああああぁ……うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!!!!」
アリアガン泣きしちゃった。 ルルがすっとハンカチを取り出し、アリアに手渡していた。 ルルはいい子だな。
それはともかくだ。
どうやったら、コイツ止まるんだよ? 電気流しても、殴っても止まらない。 おまえの兄は、どうやったら止まるんだよ?
脳に高圧電流を直で流しても立ち上がる、あの大聖女セーラですら一撃だったのに! 〈以心電心〉でみんなの想いを束ねて流し込んでも、効果ナシ。
自慢の聖剣カリバーンを鮮血剣ノワールで打ち負かしても、なお立ち上がる。 アリアが現れてもまだ戦いをやめない。 拳の殴りあいでぶん殴っても立ち上がる。
「シン。 がんばったね。 アリアのためにありがとう。 かっこよかった。 だからもう十分よ。 ねっ……」
アリアは、地に伏すシンを抱きかかえ、ぎゅーっと強く抱きしめる。 たぶんあばら骨が折れているから痛いと思う。 さすがのシンも我慢したようだ。偉い。 アリアは、シンの頭を、何度も撫でたあとに、ほほに優しくキスをする。
「僕はっ……アリアの、究極最強無敵の王子勇者……なのに、こんな……っ」
「シンは、とってもがんばりました。 アリアのためにありがとねっ!」
シンは、アリアにかつがれながら、俺の元に近づく、アリアがシンの手を取り、俺の手を握らせる。 シンは俺の手を握ると、なぜか赤面していた。 ……シンがデレるポイントが、分からない。
「クロノ。 今日は、……僕の負けだ。 おまえは強いよ、悔しいけど。……でもね、いつか君に、勝つ! でも、……今日は、おまえが、クロノが勝者だ!」
「ああ。シン、おまえもナイスガッツだったぜッ。 いつでも相手になるぜ!」
俺はシンを肩でかつぎ、野外舞台の中央舞台、観客席から一番よく見える場所に移動する。 そしてシンの手を取り、握り、空へ向けて高らかにかかげる。
観客の歓声に応えるための、カーテンコールだ。 ルルも、アリアも舞台に立ち、観客席に向けて、深く一礼。
観客席からは、おしみない拍手喝采。 大人も子供も、みんな笑顔。 気づけば、シンの創りだした、夜空は消え去っていた。 今の空は青一色の、大パノラマ。
〈創星眼〉は止まった、完全に。 魔眼の世界に対する影響範囲はこのパノラマ島だけに留まることになった。 のちに俺とシンのパノラマ島の戦いは、『黒き魔王と白き勇者』という人気の演目になることになった。
「クロノさん、シンを、ありがとうございました」
「いいよ。気にすんな。アイツとはガキの頃からの腐れ縁だ」
「シンは、アリアが連れていきます」
「わかった。シンは面倒なヤツだけど、……その、だ。 よろしく頼むぜ!」
シンとアリアは手をつなぎ、ともにあゆみ進む。 雲ひとつない、青一色の空に向けて、天まで続くガラスの階段が。
……その階段を、シンとアリアは手を繋ぎ、進む。……そして、ガラスの階段の頂きにある光り輝く白き扉が開く。 シンとアリアは……その扉の先に、歩み進む。
シンとアリアは、手をつないだまま、光につつまれ、消えた。
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