第47話『クロノオオォォッッッ!!!』

「ははっ。 目が覚めたよ。 クロノ、僕だ。君の幼なじみにして、世界最強の勇者、人類の頂点、神に選ばれた、シンが返ってきたっ! 全てを思いだしたよ!」


 あら。 あんま、……変わってねぇな? 本当に記憶もどってんのか? 世界最強とか、神に選ばれたとか、言ってること同じだし。


 ――うん。 もとからコイツはそんな賢いヤツじゃなかったわ。


「シン、目が覚めたか。 なら、とっとと魔眼を止めろ。 おまえの力は不可逆だ。 海に、大陸に、世界に広がれば、何が起こるか分からない」


 シンは、俺をにらみつけ、吠える。


「ははっ! いやだねっ! なめんな、僕は、シンだ! 勇者だ! そして、――たったひとりの妹アリアの正しさを、世界に示す、勇者、シンだッ!」



 強力な自己洗脳で、妹の記憶を消し、目的を遂行するマシーンと化した。 ……。 だけどまぁ、……自己洗脳解いたとして、いきなり賢くなるわけではない。


 俺もシンも田舎の村の出身。 高度な教育を受けているわけでもない。 こんなモンだ。 やっぱ殴って止めるしかない。 その方が早い。 うるさいし。



「僕のこの魔眼、星眼、もとはアリアの物だった。 それを僕が引き継いだ。 そして更に進化させた! いまこそ見せよう、――これが僕の〈創星眼〉だ!」


 シンの星眼は、重なりあう三角形が、組み合わせることで、ひとつの星を描く。 だが、いまはシンの青い瞳のなかで、三角形が超高速に回転。


 青い瞳に、一つの円を描きだす。 頭上の月のように、まんまるな、星。 ――月? おかしい。 いまは日中。 シンが、この夜空を創り出しているのか!?



「月、星、……これは……夜空を、おまえが、夜空を創りだしたのか?!」



 雲ひとつない、晴天の青一色の空が夜空に変わる。 そして、その夜空には満点の星々。 現実の夜空より美しい、幻想的な満天の星空。


 美しい。 これがシンとアリアが見ていた世界。 シンの言葉にできない想いが伝わってきた。



「綺麗だな。 これが、おまえと、アリアが屋根裏部屋でみていた世界か」

「ああ。僕と、アリアが見ていた世界だ。 そして、――いまから、世界のすべてがこうなる!」



 野外劇場の観客は、手をたたき、喝采をあげている。 この夜空や星もこの奇妙な島、パノラマ島の演出のひとつとでも思っているのだろう。


 この観客の顔が、恐怖に変わる前に、俺が、雷術師の俺が、おまえを――停止してやる、完全にな!



「いいや。ならねぇさ、なぜなら俺がおまえを殴って止めるッ!! 完全に!!」

「ははっ。やってみろよ、クロノ! 神に選ばれた、最強勇者シン! この僕に勝てると思うのならやってみればいい! この僕、最強勇者シンに!」



 二回も最強を名のりやがった……。 シンは〈創星眼〉で創りだした世界では王。 自分が負けないと思えば絶対に負けない、相手より自分の方が強いと信じれば、実際にそうなる。 理不尽だが、この魔眼の力はそういう力だ。



「ひさしぶりに、剣でやりあうか? ガキの頃みたいに」

「ははっ。昔みたいに、僕が君をノシてやるよ! 聖剣カリバーンでねッ!」



「シン、記憶が戻ったんじないのか、おまえ? 俺にケンカで一度も勝てたことはねぇじゃん。 ボケてんのか? ああ……。うん、まぁ、俺も思いだしたよ……ガキのころからそんな感じだわ。 ゾンビのように何度も何度も起き上がる、クソみたいにシツコイ、ホラー野郎だったな、――おまえは!」



「ふーん。 へぇー! あっそ? ひひっ! あはっ! 敗北? ナニソレ美味しいの? 僕は、全然、まったく、記憶にございませぇんッッ! 聖剣カリバーンッ!」




 空間から神聖な剣の柄を抜き取り、構える。



 ――聖剣カリバーン。 白き剣。



「じゃ。俺も、最強の剣。 使わせてもらうぜッ!」



 クリスタル製の小ビンを握り、砕く。 小ビンの中に入っている液体は、ルルの血だ。 手の平の中でクリスタルの小ビンが砕け、手の平に刺さり、俺の血と、ルルの血が混ざりあう。 そして、重なりあうふたつの血が、剣に。



 ――鮮血剣ノワール。 黒き剣。



「はっ! 知ってるか、クロノ。聖剣カリバーンってのは、最強なんだ! どんな剣だって両断できる!」

「どうかな! やってみなッ!」


 地面を蹴り鮮血剣ノワールを振るう。 ぶつかりあう、剣と剣。


「なにっ! 僕の聖剣を受けただと!?」

「だろ? 聖剣カリバーンにも断てないものはあるってことだ!」


 聖剣と鮮血剣。 闇夜を照らす火花。 ぶつかりあう、白と黒。


「くっ、……クロノぉおおおおおおおッ!!!!」

「――そこは、俺の間合いだ。決めるぜ、雷術〈電光石火〉!」



 聖剣の一撃を鮮血剣で受け、いなし、弾き、雷術で強化した足刀でシンの水月を、――穿つッ! シンはキリモミ状に吹きとばされる。



「シン、おまえの敗因は、俺に勝てるイメージを、信じることが出来なかったことだ。 おまえの星の魔眼は、自分の信じた認識を世界に押し付けることができる。 だけどな、自分が心の底から信じていなければそれは叶わない。 俺に勝利したことがないから、勝利を信じることができなかった。――それが、おまえの敗因だ!」



 星の魔眼。 自分の認識する世界を、世界に押し付けることができる魔眼。 確かに強力だ。 だが、そもそも自分で本当に信じていることでなければ、その力を発揮することができない。


 だから、おまえは自分に暗示をかけてまで、アリアの世界を信じようとしていたんだろ。



「……。はぁ、……クロノ……くそ……、僕は、……負けちゃダメ、……なのにッ……僕は、アリアの世界を……世界にッ」



 地に伏すシンのもとに、空からひとりの少女が舞い降りる。 白い翼のあまりにも美しい少女が。 金色のツヤやかな長い髪に、青い瞳。……。


 本当に女神というのが居たら、きっと……こんな感じなのだろう。 圧倒的な存在感。 神々しい。


 シンを迎えにきた天使だろうか? …………。 いや、前言撤回。 シンは俺を殺そうとしたし、奈落に突き落としたし、天使はこないな。 



 天使のような少女はシンの隣で叫ぶ。



「シン、負けちゃダメだって言ったでしょ? 立って! 究極最強王子様勇者シンは、無敵なんだから! アリアのシンが、絶対に負けるはずはないんだからっ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る