第46話『パノラマ島決戦、勇者シン』

「よお! ひさしぶりだ。クロノ」


 シンが玉座にふんぞり返っている。玉座、といっても、演劇で使うようなチープな玉座だ。ここはパノラマ館の屋上の野外劇場だ。 シンの足元に金色のヨロイを身にまとった男が倒れている。


「シン、足元のソイツは誰だ。その、おまえが踏みつけている、金ピカの男は?」

「うーん。知らん! いきなりボクに喧嘩をふっかけてきたから、殴った」


 うーん。ぜんぜん分からない。説明になってない。シンに聞いたのが間違えだったな。 そんなシンのかわりに、シンの玉座の隣に立つマリアが答える。


「七色英雄のひとり、歩く黄金の領地〈コンキエスタ・ロール・ゴルド〉ですよ。 シンさまがぶん殴ったので、気絶していますがまだ生きていますよ」


 七色英雄。 人の法の外にいる存在。 神や、異界相手にひとりで喧嘩ができるとかなんとか。……その男の頭が、玉座にふんぞり返るシンの靴底に踏みつけられている。


「いやぁ。こりゃ、なかなかにいいアンバイの足置きだね。 ちょうどいい足の置き場ができて、ラッキーだ。 金ピカで格も高そうだしね。 ははっ」


 シンは、コンキエ……、金ピカ男の頭上に靴底を押し付けながら、ずいぶんとゴキゲンのようだ。


「シン、パノラマ館のアトラクション。ずいぶんと楽しませてもらったぜッ!」

「ああ。気にしなくていいよ。お金を払ってくれれば、誰でも楽しめるやつだから」


 駄目だな。シンには少しひねった表現とか、伝わらない。ストレートに言おう。


「いや、違う。クロトカゲとセーラのことだ。おまえが俺にケシカケてきたな?」

「ごめん。マジで、……わからん。セーラ? アイツ、捕まってなかたっけ?」


 クロトカゲさん? セーラさん?…………。 君たちさぁ、社会性がなさすぎないか? 報告・連絡・相談。 ホウレンソウがなってないよ!?


 まあ、シンに言っても言わなくても、あまり意味はない気もするが。


「で、何しに来た、クロノ? 僕を祝いにかい? ははっ」

「いや。おまえを殴りに来た。魔眼の使用をとめろ」

「いやだね。この世界をすべて、正しい姿にするまではね」


 シンの魔眼の力は徐々にではあるが、増している。 島の近海の生態系にも変化が見られるって報告もあった。 放っておくわけにはいかない。


「世界を変える。 それは、亡き妹、アリアのためか?」

「妹? アリア? はて。ダレだソイツ」


 セーラはウソつきだ。煙に巻くし、裏切る。ただ、礼拝堂の告白は本物だ。 想いが伝わってきたから。 だから、ウソを言っているとしたら、シンの方だ。


「シン。もう一度聞く、おまえは妹のアリアを知らない。そう言うんだな?」

「ああ。ガチで意味不明だ。 ボクは、一人っ子だからねっ!」


 ウソを言っている訳ではなさそうだ。 だとしたらなぜ知らない? そもそも、アリアの一件が無ければ、シンが魔眼による世界の改変を求める理由がない。


「シン。おまえはその魔眼で、なにがしたい?」

「……。正しいことだ。ボクは正しいことをしなければならないっ。ボクが勇者だからっ!……ボクが、神に選ばれた、勇者シンだからだ!」


 言葉にところどころ間があった。 即答できなかった。 無意識だとは思うが。


「おまえは、大切なことを忘れている。きっとソレは忘れちゃいけないことだ。 だから、俺がソレを思い出させてやる。 いくぞ、雷術〈電光石火〉!」



 カリバーンを出させる前に、一気に距離を詰める。玉座にふんぞり返っているシンの顔を鷲掴みにし、セーラから流れ込んできたアリアのイメージをながしこむ。


 雷術〈以心電心〉。雷術で触れれば相手の心が伝わってくるなら、それを相手に伝えることもできるはずだ



「目が覚めたか、シン」

「なかなか、刺激的な寝起きだったよ。 ……思い出したよ。 アリアを。 そして……、僕が、魔眼による世界の改変を、絶対に成さなければならない、その理由をね!」



―――あとがき―――

公式スマホアプリの視認性を意識して一文の長さを変えてみました。 もしよろしれば以前と、今回、どちらが読みやすかったか等々ご教示いただけますと幸いです!

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