「あらゆる敵の動きを完全に止められるだけの無能は不要」と聖剣で貫かれ捨てられました。でも、生きてます。あとなんか覚醒したのでのじゃロリ吸血姫と幸せに過ごします。「戻ってこい?」それより早く自首してね。

くま猫

第1話『聖剣で貫かれ、追放される』

「クロノ! キミは追放だッ!」


 唐突に叫びだしたこの男は勇者シン。

 俺の昔なじみの男だ。


 金髪、青目のイケメン。

 神に選ばれし者、勇者。


「シン、騒ぐな。ここはダンジョンだ」


 ここはA級ダンジョンの最深部。

 大声を張り上げれば魔獣を招き寄せることになる。

 シンにはなんどもその危険性を伝えているのだが。


「うるさい! だまれだまれだまれッ! 平民のキミがこのボク、神に選ばれし勇者シンに口ごたえをするなッ! 生意気だッッ!!」


 鼓膜が破れそうだ。

 シンのいつもの病気がはじまった。

 こうなると何を言っても無駄だ。


「おい! クロノ! ボクの話を聞いているのか! 勇者シンの言葉をッ!」

「ああ、聞こえてる。追放をしたいんだよな、俺を」


「そうだ!」

「なぜだ?」


 両手を組んで考えているようだ。

 追放の理由を考えていなかったようだ。

 どうせそんなことだろうとは思っていたが。


「クロノ、おまえはAランクダンジョンを踏破したボクの格にふさわしくない。エンシェントドラゴンを倒した、この勇者シンの格にッ! それが理由だ! クロノ!」


 わめきたてているが、シンも元平民だ。

 というか、お隣さんだった。

 勇者に選ばれたのもつい3年前のことだ。


 無口な好青年だったのだが。

 勇者になった時を境に、ひたすらうるさくなった。


 人は変われば変わる。

 悲しいことだ。


「平民風情がボクと同じSランクになるなんて、生意気だ! 身のほどを知れ!」


 Aランクを踏破したパーティーは自動的にSランクに昇格する。

 シンは俺がSランクの資格を獲得することが気にいらないようだ。


 気にいらない、だから追放する。

 その理屈はよくわからないが、そういうことらしい。


「俺ぬきでSランクを攻略する方法は考えているのか?」


「あたりまえだ! ボクならSだろうが攻略できる! なぜならボクが勇者だからだ。神に選ばれたなッ! これが根拠だ! クロノ!」


 いままでは俺が雷術で魔獣の動きを完全に静止させていた。

 シンは、聖剣カリバーンで動かない魔獣を斬り刻むのが仕事だ。

 いままでシンが動いている魔獣を倒した姿を見たことがない。

 本当に大丈夫だろうか?


「ボクの聖剣カリバーンがあれば、どんな強敵だって怖くない! ズッヴァァアアンッ!!! 一撃だッ! 勇者の聖剣に勝てる者などいるはずない! ありえない!」


 聖剣カリバーン。

 勇者しか扱うことができない武器。


 念ずるだけでどこからか召喚できるトンデモ武器。 

 エンシェントドラゴンの肉を断つこともできた。

 確かに、強い武器だ。


「雷術で魔獣の動きを止めなくても、おまえだけで大丈夫なのだな?」」


「当たりまえだ! 魔獣の動きを完全に停止させることなんて誰でもできる! 敵を雷で完全に止めるだけの無能は、ボクのパーティーにふさわしくないッ!!!」


 はい、そうですか。


「雷魔法はいらない! 神に選ばれた勇者のボクの格にふさわしいのは、大賢者か、大魔法使いくらいだ! 反省しているのか! この、無能ッ!」


 雷術は魔法じゃないユニークスキルだ。

 雷魔法は攻撃魔法であり動きを止めることはできない。

 千回以上説明しているのだがご覧のとおりだ。


「シン。何度も説明しているが、雷術はユニークスキルだ、魔法じゃない。魔獣の体に流れる電流を支配するスキル。魔法使いを雇っても、同じ事はできないぞ」


 どんな生物の体にも電気が流れている。脳がその代表だ。

 脳から流れる電気を遮断すれば完全に動きを止めることができる。

 その説明も何百回もしているのだが。


「うるさい! だまれだまれだまれだまれっ! ボクにとっては雷魔法も、雷術も同じだ! クロノ! おまえが動きを完全に止めなくたって、ボクの最強の動体視力があればどんな魔獣の動きだって止まったようなもんだ! 恐れいったかッ!」


 言っていることが意味不明だ。

 まあ、本人が言いきるなら可能なんだろう。

 俺はまったくこのパーティーに未練はない。


 だが、俺がぬけたせいで不幸になったら寝覚めが悪い。

 だから警告しているのだが。

 よけいなお世話だったようだな。


「ははーん。ボクが素晴らしいからだな! そんなにボクと居たいのか?」


「いや、ぜんぜん」


「クロノ、キミの気持はボクも理解できる。神に選ばれたこのボク、大英雄シンと冒険ができるなんて、平民のクロノにとっては夢のようだろう。だけど夢とはいつかさめるものだ。大人になれ、クロノ。キミはボクの格にふさわしくない」


 まったく悲しくないのだが?


「クロノ。他のパーティーメンバーがおまえをどう思っているかを聞きたいだろ? 遠慮するな、これは送別会だ。フレイ、別れの言葉を告げてやれ。平民にな」


 赤髪の女。バトルマスター。

 あらゆる武器を使いこなす前衛。

 どこぞの国の姫騎士、だそうだ。


「あーしは、ぶっちゃけどーでもいいんだけどさ。あーしって、姫じゃん。愚民のあこがれの、姫騎士なわけじゃん? 格もハンパなく高いわけ、わかる? でもさっ、クロノって平民っしょ。冷たいいい方になってゴメンだけど、クロノと一緒にいるとあーしの格が落ちるんだよね。ぶっちゃけ、頭が高いってゆーか。ありえないよね、マジ。だからさ、クロノ。バイバイ。以上、あーしの贈る言葉っした」


 はい、バイバイ。元気でやれよ。


「おい、聞いたかクロノ! これが本音だ! これが現実だ! 夢から覚めたか、クロノ! セーラ、遠慮をせずに別れの言葉を告げてやれ!」


 大聖女セーラ。教会のご令嬢。

 微笑みをたやさない金髪糸目。

 何を考えているのか読めない女だ。


「クロノさんは、けがらわしいです。いやしく、下等なクロノさんが大聖女セーラと同じ空気を吸うこと自体が、罪です。クロノさん、消えてください。ただちに。この、高貴な私の前から。これがあなたに捧げる別れの言葉です」


 シンを勇者に選んだのはセーラの親父だ。

 教会、大丈夫か?


「おいクロノ、感動で声も出ないか! わかった! そこまで言うなら、ボクの靴をなめながら、慈悲を乞えば、特別に追放をやめてやる。10秒以内になぁッ!」


 無論、戻るつもりはない。さらば。

 これ以上は時間の無駄だ。

 俺はシンのもとを去る。


「どうしたクロノ! 間に合わなくなっても知らないぞ!」


 いつまで数字を数えている、シン。

 もうとっくに10秒以上経過しているぞ。


「おい! どうした! 靴をなめるなんてそんな簡単なことで神に選ばれた勇者シンのパーティーにいられるというのに、正気か! ただ靴をペロペロとなめるだけだ! おい、聞けクロノ! 特別だ! 追放はとり消す! ――いまならまだ間にあう!」


 おいおいおい、勘弁しろよ。

 俺は、おまえに靴をなめられてもごめんだね。


「おいどこへ行く! 聞こえてるのかクロノ! クロノォォォォッ!!!」


 グサリ。胸元に見なれた剣が。

 聖剣カリバーン。


「……カハッ、っシン……おま、……」


「あっ、あっ、ひいっ! 血が、すごい血が出てる! こんなのって、酷いッ! 死ぬなクロノ! ボクぁ殺すつもりなんてなかったんだッ! ついカッとなっただけなんだ! ボクぁ悪くない! 体が勝手に動いただけなんだ! 死ぬなぁクロノッ! 死んだらボクの輝かしい未来が終わる! 死ぬなクロノォォォォォォッ!!!」


 おいおい。いきなり人を刺すとか。

 おまえ、正気か?


 いやいやそんなことを考えている場合ではない。

 くそ! 肺から逆流した血のせいで呼吸ができない。

 このままじゃ、ヤバい!


「シン?! あんた、ちょっ、これ、マ?! ヤバいって、コロシはヤバいって! あーしのパパ上がもみ消せるレベル軽く超えてっし、どうすんのよ、シン! これじゃ、姫騎士のあーしのキャリア、完全にパーじゃんっ!」


「あわわわわわわわっ……」


 勘弁してくれよ。今度は仲間割れか。

 それにしてもみんな自分のことしか考えてないのな?


「シン、神は言っています。バレなければセーフ、と」


「ああ、神が言っているのか。なら、大丈夫かな?」


「あの奈落に死体を投げ捨てなさい。レアな所持品はいただきましょう。死後の世界に現世の物は持っていけません。きっと、クロノさんも喜んでいるはずです」


 いやいや、感謝するはずがないだろ!

 つーか、シンおまえマジでやる気か?


「クロノ、追放だ。ざまぁ」


 薄れゆく意識のなかで聞いた言葉だ。

 俺の体は、奈落に落ちていくのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る