第16話『おもらしではない、のじゃな?』

「さっきは長話になって、すまなかったな。そのっ、」

「なっ、なんのことじゃっ? あ、あれはのっ、寝汗じゃぞ?!」

 

 寝汗? いいや、おもらしだ。

 ぺろっ、これはおもらし。


 ……。冗談だ。本当はなめてない。

 パンツもナイフもなめてない。いや、ガチで。

 黒っぽい服とナイフが好きな、真人間です。


 いったい何の話だろうか?


 寝汗。そういうことにしておこう。

 めっちゃ顔まっ赤にして早口になってるからな。


 ちなみに替えのパンツはめっちゃメルヘンでした。

 ゴシックなメイド服に隠されたキュートな寒色系パステル。

 パンツのフチにはエグい位にフリフリなフリルが。

 

 ……。偶然目にはいっただけだ。事故です。


「それにしても勇者がコロシとは。世も末なのじゃな」

「まったくだ」


 よもやよもやだ。


「なんでそのような奴が選ばれたのじゃ?」

「理由? 顔だ」


 それ以外の理由はない。ガチで。

 だがその影響力がシャレにならんのだがな。

 

「顔なら、あるじ様より優れた存在などおるまいに。まったく不可解なのじゃな?」

「あんがとさん」


「あるじ様は、神に選ばれた雷術師クロノ、じゃというのにのう」

「ルル、そのほめ方だけはやめて」

「ふむ? おっけー、なのじゃなっ」


 金髪青目の顔がチラつくとこだった。

 捕まるまえに早く自首して欲しいものだ。


「まあよい。わらわだけはあるじ様のオンリーワンじゃ」


 よしよしとあたまをなでられた。

 背が小さいせいかパタパタと小さく飛んでいた。

 ルル、飛べたんか。パタパタと。


「わらわがあるじ様を元気にしてあげるのじゃ」


 ちゅっと頬につめたい感触。

 血を吸われたわけではない。ちゅーだ。


 ちゅーしたルルが恥ずかしがっている。

 まあ、俺も恥ずかしいのだが。

 ポーカーフェイスでごまかそう。

 

「それは吸血鬼流のなぐさめ方か?」

「ちがうの。わらわがあるじ様を好きだからちゅーしたのじゃの?」


 なるほど。まったくうまい返しが思いつかない。

 ここはキリッとした顔でごまかそう。キリッ。


 ここであわてたらダサい。ステイクールだ。

 双剣使いっぽい黒服の男をイメージしろ。

 ちなみに黒服の彼は想像上の人物です。完全に。


「それにしてもゆるせぬやつじゃの」

「気遣ってくれてんのか。ありがとな」


「わらわがやっつけてくるのじゃっ。カタキうちのじゃっ!」

「ルル、ステイ。おちつけ」


 正直。よくわからない相手だ。

 それなりに長いつきあいの俺でもわからない。


 単純な力比べならルルが負けることはない。

 なのに、なぜだかいやな予感がする。

 

「ルル、すまないがしばらくは俺と一緒にいてくれるか?」

「もちろんなのじゃ。死がふたりを分かつまで一緒なのじゃぁ~!」


 いや、そこまではいってないが。

 とはいえ、好都合ではある。


 ルルは手のとどく場所にいて欲しい。

 少なくともこの一件が解決するまでは。

 

 相手はよくわからない奴だ。

 どれくらいよめない奴かと言うと……。



「クロノ、ボクが来た! 勇者探偵シンだッ!」



 ……。ね? ごらんの通りだ。

 このツバまき散らして叫んでいる男がシン。


 なぜ、会いに来たのか。

 どうやって、たどり着けたのか。

 なにが、目的なのか。


 その全てがまるで、謎だ。


 そしてそれこそが、シンだ。

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