第33話『星眼勇者と電光石火の雷術師』

「ちっす! ひさしぶりだなぁ、クロノ」

「おまえか、シン」


 シンがいつのまにか目の前に居た。

 王都の往来には人気がない。

 人払いでもしていたのだろうか。


「はは。そうだ、ボクだ。元気してた?」

「まあな。おまえはずいぶん有名になったな」


 シンの一連の行動は王都を大きく揺るがせた。

 今や、よるべなき民のカリスマだ。


 民衆の暴動をおそれた元老院は勇者の罪を特赦した。

 教会の枢機卿殺害は元老院の指示と発表。

 民衆の矛先が向かわないようにするためだ。


 中央ギルドを完全に無視した独断。暴挙だ。

 法と秩序を軽んじた自己保身の愚策。

 

 だが、勇者。その言葉の持つ意味が変わった。

 弱者を救う正義の英雄。

 抑圧から解放する救済者。


 元老院の後ろ盾がそれを後押しした。


「まあねっ。ボクは神に選ばれた、勇者だからさ」

「怪盗クロトカゲと組み、おまえは何をたくらんでいる」


「たくらんでないし組んでもいない。友達。だけどそれだけ」

「はあ。すっとぼけてんのか?」


「彼女はナイーブなロマンチストさ。カッコつけてるけどね」

「あの怪盗クロトカゲが?」


「この世界の歪みをなんとかできるものと思ってる。夢見がちなロマンチスト。だけどね、目を開けて夢を見るもんじゃない。そんなの、ボクに言わされば悪夢だよ」


 道が異なるふたりが行動を共にしている。

 どういうことだ。


「カッコつけてるけどやってることは単純。 悪党から盗んだ物を売って貧乏人にほどこす、慈善事業さ。 だけどね。 そんな応急処置じゃ世界は変わらない」

「ならば、シン。おまえはどうする?」


「壊すのさ。この世界を」

「そうか。そういうことなら、邪魔させてもらうぜ」


「根っこが腐った世界だ、大海に一滴、善意を注いだくらいじゃ世界は変わらない。 だから、ボクはイチから創るのさ。このボクの魔眼でねっ!」

「はっ。めずしい。シン、今日はやけに語るじゃないか」


「そうか? ただ、そんな気分なだけさ。クロノ、それじゃクイズだ」

「クイズ?」


「抑圧の象徴、教会の枢機卿を殺し、弱者を食い物にする極悪商人を殺し、冤罪の温床になっていた大監獄を打ち壊したのは、だーれだ?」

「おまえだ」


「ピンポーン。正解です。さて、そんなボクは、正義? 悪?」

「悪だ。いかな理念があろうとも、私刑は許されていない」


 シンは、俺の問の解に是非を返さない。

 俺は言葉をつづける。


「おまえの英雄的な行いは、たまたまサイコロの目が6を連続で出しているにすぎない。 サイコロの目が1をだせば、いままでの勝ちを吹っ飛ばす、破滅が訪れる」


 シンの行いには法則性がない、デタラメだ。


「正解。賭け金を最大まで上げて、積木くずし。スクラップビルドってヤツさ!」

「戻ってこい。間にあうかは知らねぇがな」


「腐れ縁だ。馬鹿なおまえのとなりに立って、一緒に頭を下げてやるさ」

「無力な平民のクロノになにができる? できやしないッ!」


「はんっ! あいにく今の俺には、でっかいコネがあんだよ」

「あのクロノが、コネ? はは。そりゃ、大きく出たな」


「シン、黙って俺の手を取れ。後のメンドウ事は全部俺が何とかしてやる!」


 シンは目をつぶりなにも語らない。

 おとずれる一瞬の、静寂。


「はははっ。それでも。やぁーだねっ!」


 だろうな。知ってるよ。

 もとからおまえは面倒な野郎だよ。

 無駄に付き合いは長いからな。


 知っているさ。

 おまえには言葉だけじゃ通じないってことも。


「――そんなおまえを殴って、止めるッ! 完全になぁッ!!!!!」

「そうだ、そうだよ、それでいい! 行くぞ、クロノォォオッ!!!」


 シンが空間から聖剣を引き抜く。


「聖剣カリバーン」


 俺は最速の構えでむかえ打つ。


「雷術〈電光石火〉」


 くりだされる高速の連撃。 

 かわし、シンの懐へ。


 雷をまとった手刀がシンを貫く。


「ははっ。やるね。まるで電光石火の雷術師だっ!」



 シンは高らかな笑い声とともに、消える。

 まるで手品のように完全に。

 シンのいたところから、はらりと一枚の紙が落ちる。



 『ようこそパノラマ島へ』



 現在建設途中の娯楽に特化した島。

 シン、おまえはそこに居るのか。

 これは、招待状。いや、挑戦状。



「受けて立とうじゃねぇか」



 もう、自分では止められないんだろ?

 本当は、誰かに止めて欲しかったんだろ?

 

 俺に一人だけで、会いにきた。

 それこそが、おまえの答えだ。



「いいさ。ならば、俺がおまえを止めてやる」

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