第32話『星の魔眼と教会終了のおしらせ』

「な? 堂々としてれば問題なかっただろ?」

「ですね。意外となんとなかるものです。新たな発見です」


 やましいことがなければ堂々としていればいい。

 何人かにチラチラ横目で見られたから、あいさつした。


 あいさつしたら、あいさつが返ってきた。

 あいさつは魔法だ。


「シンさま。立派なトビラです。たぶん偉い人がいます」


 マリアの言う通り偉そうな部屋だ。

 ここが一番えらいヤツの部屋だろう。

 ボクは、トビラを勢いよく開ける。


「おじゃまするよ。シンだ。そして、弟子のマリアだ」


 イスにふんぞり返っているガキ。

 服は教会の最高職の青の儀礼服。

 この無駄に偉そうなガキが教会のトップだ。 


「シン君だっけ? どうも、はじめまして。枢機卿のジョシュアだ」

「はは。くるしゅうない。頭をあげたまえ、ジョシュアくん」


 マリアに無言で服の袖をひっぱられた。

 トイレにでも行きたいのだろうか?


 あとにしてほしいものだ。

 いまはまじめな話をしている場面だ。


「それで、シン君。この僕の部屋になにしにきたのかなぁ?」

「あいさつにきた。キミに」


 なんでこの部屋に来たのか。

 理由は、忘れた。

 何か理由があったはず。


「そりゃ、どうも。 助かるよ。 僕も君を探していたのでね。 お茶でもしながら、世間話と、いきたいところだけど、あいにく茶葉をきらしていてね」

「ボクはキミに会いにきた。お茶をするためじゃない」


「あっははは。シン。君は、本当に面白い。 道化師として、だけどね。 そうだな。手短にすませるさ。 君の聖剣を見せてくれないか?」

「いいとも。これが、聖剣カリバーンだ」


 ボクは空間から聖剣を取り出す。

 鞘から抜き出し、掲げる。 


「あっはっはははは! なんともみすぼらしい! そんなオモチャが聖剣だって?! 幼稚だ!! 僕が本物の聖剣を見せてあげよう。これが聖剣、エクスカリバーだ」

「ふーん。で?」


「光栄に思え。僕がこの真の聖剣でおまえを滅してやる」


 繰り出される無数の高速の連撃。

 受け、弾き、捻り、薙ぐ。


 一閃。


 聖剣カリバーンが、エクスカリバーの真芯をとらえる。

 エクスカリバーは真っ二つに両断された。


「はあ? そんなこと、ありえるはず? だって、そんな、カリバーンは僕の作ったオモチャだぞ? エクスカリバーが本物の聖剣で……こんなの、ありえない」


「エクスカリバー? カリバーンにあとづけ設定を加えた、パチもんだろ。聖剣を持つことを許されるのは勇者のみ。なぜなら、〈聖剣は世界にひとつ〉だからだ」


 聖剣が二本あるのは世界の矛盾。

 ならば、正さなければならない。

 ボクは贋作を否定し、両断した。


「その目は、五芒星の魔眼! 自身の認識で、世界の法則を上書きしているのか!? いまいましい。 千年のあいだに僕が狩り尽くしたつもりだったんだけどねぇ。 魔眼を持って産まれた子は天に還さなければならない。 ははっ、僕が作った教義さ」


 意味が理解できない。

 だけど許してはいけない。

 そう思った。


 すべての迷信は廃さなければならない。


「たしかに厄介だ、君の魔眼は特にね。 だけど千年のあいだに対策はしている。 弱点は完全なる闇だ。 堕ちろ光なき奈落の世界へ 〈アビス・コール〉」


 無明。

 無限に広がる黒。

 つまりは。


「ソラに星々を映しだせ。ここが、世界の中心だ 〈プラネタリウム〉」

「ここは……、この星々のきらめきは、幻想では、ない、だとっ?!」


 無限に広がるソラ。

 ソラをおおう満天の星空。

 ここが世界の中心。


 星々の光が男を照らす。

 姿が見えたなら、斬るまで。


「キミの世界を認めない。聖剣カリバーン。ここが、キミの終わりだ」


 ズバーン。胴を両断。

 枢機卿ジョシュアは死んだ。

 

「あははっ! 僕は死なないさ! この僕は無数のバックアップの一つッ!」


「不可能だ。なぜなら、〈死者は蘇らない〉」


 死んだ者は生き返らない。

 それが、この世界の現実だ。


「なっ、転生が、できなっ、こ、こんな。こんっ、こんなああぁぁぁッッ!!」


「キミの千年の妄執もここで終わりだ。ざまぁ」


 ボクは両手をソラにかかげ高らかに笑った。

 ボクの世界の正しさを証明した。


 世界はあるべき方向に進んだ。


 そんなボクの目元にマリアの指。

 マリアがボクの目を覗きこむ。


「シンさま。なぜ。泣いているのでしょう」

「ははっ。なんでかなぁ。あんまりにも、愉快でさぁっ!」


 ……。


「そうですね。シンさまが言うなら。そうなのでしょう」

「ボクは、……」


 間違っているのだろうか。


「いいえ。間違っていません。正しい行い。そうマリアが断言します」

「……。そうか」

「世界があなたを否定しても。マリアだけは。認めましょう」


 ソラも、星々も、消えた。

 この部屋にはボクとマリアだけ。


「マリアだけは。世界一のバカの味方です。最後の時までつきあいましょう」

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