第11話『クロノ、事件だ!【勇者】』

「貴様。あれだけ忠告したのになぜ、ダンジョンに行ったッ!?」

「もちろん魔王を倒すためだけど」


 司教っちのボケがはじまった。

 ボクはこのやりとりを何千回もしている。

 セーラのパパ上はボケてる。


「フレイ様が、顔に傷を負ったと聞いたが、どうゆうことだッ!!」

「かすり傷なのにね。目こらして光の角度でギリみえる? みたいな」


「ええい、知らぬわ! フレイ様のケガの程度なぞどうでもよいッ!」

「だよね。だって、フレイはすでに非処女のキズモノだから。はは」


 いまさらキズが増えたからってなんだ。

 フレイは魂レベルで非処女のキズモノだ。

 まるで誤差だ。むしろ名誉の負傷だ。

 

 姫騎士だし。むしろ魅力があがるすらある。

 薄皮やぶれた程度のガチかすり傷なのに。

 ブチ切れて引きこもっちゃった。やれやれ。


 キズにこだわるなんてまるで処女厨だ。

 フレイには大人になってほしい。やれやれ。


「フレイ様は教会が預かった他国の姫なのだぞ?!」

「フレイは姫じゃなくて姫騎士だけどね。Sランクの」


「どーでもよいわッ!! 貴様のせいで私が叱られた!」

「はは。しかられただって。まるでばかみたいだ」


 司教っちの頭痛がはじまった。

 頭をかかえている。

 

 背中をさすろうとしたら手をはねのけられた。

 凶暴なボケ老人だ。介護するセーラはあまりに悲劇だ。


 怒ったりため息をついたり忙しい。

 情緒不安定なのかな? いや、ボケてるからだ。


「過ぎたことはもうよい。シン、準備をしろ。王都を去る」

「なんで?」


「貴様が殺したと言ったクロノが生きてたからだ!!!」

「まるでホラーだ。ありえない!」


「いや、生きている。ギルドに潜らせた信者からの証言だ」

「その信者はばかだ。追放しよう。ボクを信じてくれ!」


「うるさい! 尻ぬぐいに教会の人間を使ったせいで教会までピンチだ!」

「ピンチはチャンス。むしろプラスだ」


「最悪なことに完全にギルドに先手を取られた、このゲームは詰みだ!」

「あきらめるには、まだ早い!」


「もう遅い!……王都に逃げ場はない。地下通路から逃げるぞ、シン!」

「やだ!」


「貴様のせいでなんもかんもめちゃくちゃだっ! うえぇええん!!!」

「ひええ……、ついに幼児退行。こんなの、まるでホラーだ」


 もうダメだ、教会はおわりだ。

 介護をするセーラがあまりにみじめだ。


 こんなボケ老人の相手なんて地獄だ。

 勇者のボクがしっかりしないといけない。


「司教っち、これは事件だ。オバケやソンビのせいじゃない」

「はっ!? 貴様、はっ!?」


「クロノは死んだ、ボクの聖剣によって。そして奈落に落ちた」

「うるさい! 知っとるわ! ばか! うぇえええん!」


「死んだクロノが王都を歩きまわる。これにはトリックがある」

「あるわけねーだろボケ!」


 ボクは名探偵のように歩きながら思索をめぐらせる。

 もちろん手の甲はあごに当てている。

 まるで名探偵のように。神に選ばれた。


 クロノ、キミにはこんな推理できる?

 できないだろうね。平民だから。

 少しずつこの奇妙な事件の全体像がみえてきた。


「ふむふむ。なるほど。そういうことね!」


 ボクはこの奇怪な事件を探るために思考を飛躍させた。

 みえた! それが、この事件の真相か!


「貴様、おい、シンどこに行くつもりだ! おま、マジか!?」

「王都の謎はボクがあばく! 勇者探偵シンのおでましだ!」

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