第42話『クロトカゲ、決着だッ!』

「ありがとう。心より感謝を」


 深く頭を下げての一礼。

 クロトカゲらしくない素朴な感情表現。


「気にすんな。頭を上げろ、しめっぽいのはナシにしようぜ」


 クロトカゲに人差し指を突き付ける。

 とびっきり不敵な表情で。


「じゃっ、再戦だ。おまえも当然、まだ戦えるよな?」

「――無論だ」


「武器を構えろ。仕切り直しだ」

「好意に甘えさせてもらうぞ。大恩がある相手とはいえ、手加減はしない」


「手加減? 要らねぇさッ。おまえの全てを見せてみやがれッ!」

「そうか。遠慮のたぐいはかなぐり捨てさせてもらう」


 獲物を狙う肉食獣の鋭い目。

 闘志が再び燃え上がってきてるのが感じとれるくらいだ。


 そうだ、これで良い。


 これじゃなきゃクロトカゲと戦っている気がしない。

 心が折れた相手をブチのめしても寝覚めが悪いだけさ。


「良いツラ構えになったな。それでこそ、怪盗クロトカゲってもんだ」

「要らぬ心配をかけた事を詫びよう。恩人の期待を裏切りはしないさ」


「ああ、おもしれぇッ!」

「ここから先はタネも仕掛けも、出しおしみなく、全力の手品をお見せしよう」


 とめどなく襲いくるナイフの連撃。

 部屋に隠された数々のトラップ。

 次から次に繰り出されるトリックの数々。


「あんた、なかなか熱い奴じゃねぇか!」

「ハートは熱く、頭はクールに。私の流儀だ」


「ああ。伝わってくる。おまえの心が、俺の中に!」

「拳を重ねれば想いが伝わるか。ロマンチストだな」


「そんな情緒のあるモンじゃねぇさ。ガチで流れ込んで来てんだよ!」

「ふむ。貴様のスキル、雷術と関係していると?」


 相手と拳をまじえれば相手の思考や感情が流れ込んでくる。

 意識してやっている訳じゃない。


「詳しい理屈は知らねぇが、思考ってのは脳内の電気信号で説明できるらしいな。 ギルドのヤツが言うにゃ、思考が伝わるってのは、俺が触れた相手の脳内の電気信号を読み取っている事で説明できるそうだ。 ――だけど、俺は違うと思ってるぜッ!」


「ならば、どうやって説明する」


「魂が流れ込んでるだよ。じゃなきゃこの熱さは説明がつかねぇッ!」

「ほう。まったく論理的ではないな。だが、君らしい答えだ」


「おまえがデッケぇ物を背負ってるんだって伝わってくる。 だけどな! 俺にも同じくらいに守りたいモノがあるんだよッ!」

「私の想いを知り、理想を砕き、クロノ、おまえはその先へ進むと。ならばやってみせよ。私を倒してなぁッ!」


 クロトカゲはナイフを捨て徒手空拳に。

 いまは亡き国に存在した、一撃必殺の武術の型。

  

 俺は最速の雷術〈電光石火〉で応じる。

 クロトカゲが地面を蹴る。


 直線的な一撃必殺の、乾坤一擲。

 防御を捨てた、神速の一撃必殺。


「なっ! 貴様、この一撃を受けただと?!」

「良い、一撃だったぜ」


 かわせない最速なら、受ければいい。

 受けた上での、カウンターだ。 


「じゃ、キツイのいくぜ! 覚悟しな」 

 

 神速を超える電光石火の一撃。

 クロトカゲを、――穿つ。


「おまえの想いは伝わった。おまえの想いも背負って、俺は前に進む」

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