第26話『エルフの里を救ったのじゃな!』

「あきらめなッ! ここから先は通行禁止だ! 雷術〈完全停止〉!」


 広野を津波のようにおしよせる魔獣の群れ。

 群れの魔獣の数は1000を超える。

 伝説級の魔獣もたくさんいるようだ。


 俺は雷術〈完全停止〉を放つ。


 ありとあらゆる魔獣の動きが完全に停止した。

 うむ。なかなか圧巻の光景だ。

 

「いっけーっ! カオティック・インフェルノ、っじゃぁー!」


 うわぁーっはははは! まるで魔獣がゴミのようだ。

 ……コホンッ。スカッとしてテンションが上ってしまった。


 ちなみに、マクラ投げ大会の時はもっとテンションが高い。

 18歳の男が童女相手にマクラ投げに夢中になる姿。


 うん。ちょっとお見せできないな。


「ルル、やるじゃんっ! カオティック・インフェルノ、カッケー!」

「あるじ様の、超絶最強な雷術〈完全停止〉あってこその魔法なのじゃっ」


 ルルと俺のいつものほめあい大会だ。


 エルフの里の大樹のはるか上空から超高温の熱線。

 里の外周をぐるりとなぞるように熱線が焼く。


 ルルはパタパタと飛んでいる。

 俺とルルは魔法的なアレで会話をしている感じだ。


 魔法的なアレって、ずいぶんふわっとした表現だな?

 まあ、名前のない魔法なので仕方ない。

 しいて名前をつけるなら通信魔法、といったところか。


「すげぇ! まるで地獄の釜を開いたみたいだ!」

「わっはははは! これが始祖吸血鬼の力なのじゃぁ~!」


 ルルの放ったカオティック・インフェルノ。

 一言でいうとヤバい魔法だ。


 熱線に触れた地面からすざましい白光り、その後爆発。

 地面から数十メートル規模の大火柱があがる。


 事情を知らない人がみたらこの世の終わりだと思うだろう。

 ぶっちゃけ事情を知っている俺でもそう思ったわ。


「ルル、おつかれさーん!」

「あるじ様もお疲れさまなのじゃーっ!」


 ルルとハイタッチ。

 そんな感じで世界の危機を救った。


「じゃ、撤収だ!」

「電光石火でトンズラなのじゃぁ~っ!」


 実はちょっとした世界の危機だったのだ。

 ここはエルフの里。


 セフィロトの大樹の一つマルクトが魔獣の大群に襲撃されいた。

 魔獣が異常発生するスタンピードという現象らしい。


 一般的にはあらがうことのできない自然災害として扱われている。

 それを、俺とルルでかたっぱしからやっつけたのだ。


「エルフの里のみなにはあいさつしなくて大丈夫かの?」

「大丈夫だ。エルフの里の長には事前に話つけてある」


 エルフの里の長が直々にギルマスに依頼をした案件だ。

 その席に同席した俺は作戦内容を長に伝えている。


 つまり、里を救ってソッコートンズラもおりこみずみ。

 今ごろは、里のみんなに長が事情を説明している頃合いだ。

 

 しばらく後にギルマス使節団がエルフの里に凱旋するはずだ。

 ギルド広報用のカッケー人たちだ。

 装備が聖騎士っぽい感じで、とてもバエル感じの奴らだ。


「エルフの里の者から、さすあるじ、されるのを見れぬのは残念じゃのう」

「あんがとさん。まあ、変に有名になるよりは気楽なほうが良いさ」


「そうじゃの。ギルマスの特命クエストこなすだけでも、結構忙しいからの」

「そうそう。その上に悪目立ちしたら、心やすまる時間がなくなる」


 セフィロトの大樹は世界に11本存在する。

 人族の領地に5本。

 魔族の領地に5本。

 中立地点に1本。


 ひとつでも落とされたら世界がヤバい。

 そのひとつの危機を救った感じだ。


「あるじ様は、また世界の危機を救ってしまったのじゃな」

「そうなのかな? あんま実感ないけどな」


 ルルいわく最初の世界の危機がダークラウンズだったらしい。

 ライトニングダッシュとか言ってケチらして申し訳ない気すらする。


 いや、前言撤回だ。


 ダークラウンズはルルに酷いことした。

 ゴミ of ゴミだ。


 ライトニングパンチで千回殴らないと気がおさまらない。

 十二人がかりでルルを千年も封印したクソ野郎ども。


 知っていたらもっと徹底的になぐってた。

 骨のくせにまったくもって許せん野郎どもだ。 


「ダークラウンズはゴミ」

「うむ。なのじゃな!」


 ダークラウンズネタはちょっとしたブームだ。

 あくまでも俺とルルのあいだでだけだが。


 『まるでダークラウンズみたいなのじゃな』


 ルルが雑に低評価するときの表現の一例だ。

 卑劣なダークラウンズを絶対に許すな。


「ルル、きょうはなにを食いたい?」

「オムライスのじゃ!」

「おっけー! 今日は超甘いスイーツも食うぞ!」


 そんな感じで俺とルルは王都に帰還するのであった。

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