TIPS:ギルド嬢の報告

「リリア君か、例の件だな」

「はい。大聖女セーラの別邸から〈日記〉を回収してきました」



 ギルドマスターの命を受け、大聖女の別邸を調査。 邸内にほどこされた異常なまでの数の魔術的な封印を解呪し、その最奥の部屋の書庫から〈アリアの日記〉を回収した。 今日は、それを提出するために、ギルドマスターの執務室に訪れている。



「確かに受領した。ご苦労。では、下がりたまへ」



 ………………。



「墓荒らしのようなマネは本当に必要だったのでしょうか」

「問に答えよう。必要だった。勝利を確実とするために」



 シンの討伐作戦にはすでに、歩く黄金の領地〈コンキエスタ・ロール・ゴルド〉、黄金の色位を司る者が当てることになっている。 


 その力は絶大、〈領有権〉を主張するだけで、人、物、領地、全ての財を相手から剥奪することができるゲテモノ。


 だから色位という特権を与え、監視し、行動を制限しているのだ。



「……、さらなる保険が必要でしょうか」

「必要だ。理不尽な力を持つもの同士の戦い。大番狂わせが起こる可能性を考慮せねばなるまい」



 そこまでは理解できる。だけど……。



「だからクロノ先輩に、シンを殺させるんですか。かつての、友を」

「そうだ。〈黄金〉で勝てないのなら、次に勝率が高い駒が、その男だからだ」



 迷うことなく、言い切った。



「魔眼、言葉が作られる以前から存在していた物だ。 体系化される以前の、原初の魔法。 その力は心に根ざしている」

「心、……ですか」



 目の前の男は、おおよそ 〈心〉 という言葉からもっともかけ離れた位置にいる男だ。



「そう、心だ。シンに限らず過去に歴史に名を刻んできた、英雄、悪漢、ソレラが成した偉業の源泉は心にこそある」



「だからこそ心という、パズルを解き明かし、破壊する。 そのためには、まずはシンという男をバラバラに解体し、その心の構造を理解しなければならない」

「理解ですか」



 心を理解する。それは感情抜きにできることなのか。理屈で理解して良いものか、私には分からない。


 ギルドマスターは私が渡した資料をペラペラとめくり、口を開く。



「君が言いたいことは、おおむね理解した。 故人の尊厳を守るため、この資料から得た一切は、私のところにとどめることにしよう」


 熱のこもらない言葉だ。だが、それでも私の言わんとしていることは、理解されてはいるようだ。 感情、心を抜きに、尊厳など理解できるのであろうか。


 だが、それは私が問うべき問いではないだろう。


「お願いします」


 一礼。


「では、あわせて、〈黒〉が、シンに接触した際に見たという、記録について報告したまへ」



〈黒〉、シンの殺害に成功した際にクロノ先輩に与えられる予定の色位。 だが、私があえてその呼び方をする必要はないだろう。



「承知しました。では、クロノ先輩から聴取した内容について報告します」

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