第28話『ボクは屋根裏の散歩者だ【勇者】』

 やあ。ボクだ、シンだ。勇者だっ!


 ボクはいま、愚民どもの上に君臨している。

 ここはクロノの部屋の上。屋根裏だ。


「マリア、ボクは屋根裏の散歩者だ。まるで優雅だっ!」

「いえいえ。シンさまは屋根裏の不審者です。完全に」


 この子はマリアというメスガキだ。

 ボクが修行をつけてるメスガキの弟子だ。


「シンさま、今日もまた屋根裏でノゾキですか?」

「うん。クロノがわるさをしないか、監視しなきゃ」

「シンさま。ほんと、ヒマ人ですね」


 このメスガキはボクの弟子だ。

 黒髪黒目で背が小さい。

 たぶん処女。


「クロノさんの監視、ですか? なんのために」

「クロノはバカだ。きっと妹をいつかおそう」


「はあ。それとシンさまと、なんの関係が?」

「妹をおそった瞬間、天井をけやぶり、妹のピンチを救う」


 聖剣カリバーンでズバーンっと、ね!


「はあ。それで。どうなるんでしょう?」

「ボクに救われた妹にほれられて結婚。これが作戦だ」


「どうでしょう。うまくいきますかね。うまくいかないような」

「大丈夫。完ぺきなプランだから。大丈夫だ」


 マリアはばかだ。教養もない。

 胸が小さい。それはいい。

 まだボクの格にはふさわしくない。


 だから修行をつけているところだ。

 もちろん、すでにクロノよりは格が高い。


 フレイと違って非処女のアバズレではない。

 アバズレでキズモノのフレイより素晴らしい。

 友達を悪くいうのはよくない。だけど、事実だ。


「マリア、キミの能力はなんだ? ボクに教えてくれ」

「シンさま。それ346回説明しました。ボケてますか」


「あー。おぼえてる。空気が読めない能力、だったっよね」

「全然ちがいます。それは完全にシンさまの能力ですね」


「はて? 意味不明だ」

「マリアの能力は、完全に気配を遮断する能力です!」


 ふーん。だ、そうだ。


 聞いたか、クロノ?


 このとおりだ。

 このメスガキは、あまりに無能。


 ありとあらゆる気配を完全に遮断する無能。


 そんなの赤ちゃんにだってできる。はあ。

 あまりに恥ずかしすぎる。


「シンさまはバカにしてますけど凄い能力なんですよ?」

「どこが? だって、気配なんて誰でも消せるじゃん?」


「今、誰にも気づかれず屋根裏にいられるのは誰のおかげです?」

「ボクの力だ。この、勇者シンのっ!」


「ぶっぶー。ハズレです。マリアの能力のおかげですね。完全に」


 マリアは、ありと(略)完全に遮断するだけの無能だ。

 だが、クロノ。キミにはそんな簡単なことができるか?


 無理だろうな。キミは、平民だから。

 クロノ、見たか? 笑われてるぞ? マリアに。

 勇者シン、神に選ばれたボクの、弟子に。


 こなまいきなメスガキに。


「やれやれ。クロノはバカだ」

「ですね。クロノさんはバカです」


 はい、そうです。

 ボクがマリアを育てました。


「そういえば、クロトカゲさん、どうしてるんですか?」

「んっ? しらん。死んだんじゃない? 平民だし」

「わーっ! だめですよっ、シンさま? 恩人ですよっ?」


 クロトカゲっちはボクを逃してくれた。

 そのついでにマリアも。

 まあ、ボクひとりでも脱獄できたけどね。


 なぜ助けたか? ボクにコビを売るためだ。

 平民はこれだから。やれやれ。


 勇者にコビを売り、コネを作ろうとする。

 仕方のないことだ。

 当然のことでもある。

 

 ボクはあまりに格も徳も高すぎる。

 

「まあ。クロトカゲっちには今度お礼に胸でももんどくわ」

「シンさま。普通に殺されます。発想が完全におっさんです」


 ありえない。まるで意味がわからない。

 マリアは教養がないバカ弟子だ。

 少しずつ、教育しなければならない。


「わー。クロノさんと妹さんまたマクラ投げしてます」

「とほほ。また妹とマクラ投げ大会。クロノ、正気か?」


 クロノは毎日マクラ投げをしている。

 あまりに無邪気すぎる。

 

 マリアとどっちが勝つか賭けをしてる。

 マリアに1点リードされている。くやしい。


 誰のせいだろうか? クロノのせいだ。

 クロノが妹に負けるのが悪い。 


「妹さん似てませんね。なんって子なんですか?」

「うーん。忘れた。クロノの妹だ。妹でいいんじゃない?」

「どうでしょうか。たぶん。よくないと思いますね。だめですね」


 はて?


「おやまあ。兄妹なかよくベッドに入りましたよ?」

「はあ。すやすやねてらぁ。まるでのんびり屋だ」


 のんきにペアのナイトキャップなんて被ってる。

 まぬけな顔してベッドでねてらぁ。

 勇者のボクはこんなに働いているのに。


 ボクはマリアにクロノの愚痴をこぼした。

 3時間くらい。

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