第5話『クロノ、見てるか?【勇者】』

「クロノ、見てるか? ボクだ、シンだ。Sランクの勇者だ」


 クロノも地獄の業火に焼かれながら祝福してるだろう。

 あまりにめでたすぎるから。


 クロノ、ボクはこれからSランクになる。

 そのためにわざわざギルドに来た。

 あと、ボクの嫁に会いにきた。


「うわっ、勇者。なんか用スか」


 このメスガキはギルド嬢、リリア。

 身長130センチ赤毛の女。

 魔族と人の混血だ。


 汚れた血のガキだが、顔と体はボクのタイプだ。

 ボクの将来のお嫁さんのひとりになる女だ。


「おめでとう、リリア。ボクがきたよ」

「あ、またナンパっすか。帰ってください」


 リリアは照れ隠しにツンデレな態度を取る。

 なぜか? ボクの好意を引くためだ。


「はは、リリア。キミは、本当にツンデレだな」

「意味わからないっス。本当、気持ち悪いッス」


 やれやれ、これだから平民は。

 ボクの好みの容姿だから優しくすればこれだ。


 教養のない平民は。やれやれ。

 ほんと、やれやれだ。

 

 リリアはEXランクとかいう謎評価を得ている。

 EXというのは、計測不能という意味らしい。


 なぜ計測不可能か? ギルドの人間がバカだからだ。

 あたまが悪すぎる。おろかだ。


 こんなガキが一国の軍隊に匹敵するはずがない。

 常識で考えてほしい。あきれて言葉もない。


「はは、これだから未開なギルドは。やれやれだ」

「なに、ひとりでブツクサ言ってるっスか。怖いんッスけど」


 EXランク。たぶんBランクくらいのエラさか。

 将来のお嫁さんであるリリアが評価されるのは嬉しい。

 血が汚れてるとはいえ、ボクのお嫁さんなのだから。


「リリア、聞いておどろくな! この神に選ばれし勇者シンは、Aランクダンジョンの最強の魔獣、エンシェントドラゴンを討伐した! この神に授けられた、聖剣カリバーンで、こうズバァァァァアアアアーンッ、とねッ!」


 ボクはリリアの前で剣を振るうマネをしてみせる。

 リリア、驚いたか? これが将来の旦那様の勇姿だ。


 感動で声もでないか? そうだろうな。

 なんせ、Sランクなのだから。そして勇者。


「あ、はい。じゃ、Sランク昇格っスね。これ、Sランクカード。おめっとさん。あと、なれなれしくリリアって呼ぶのやめて欲しいっス。マジ生理的にムリなんで」


 たまげた。いきなり生理アピール。

 はしたない、はしたないぞ、リリア。


 いや違う、ははーん。なるほど。

 リリアはもう結婚できる歳になった。

 そうアピールをしているのか。

 分かっている。あせるなリリア。汚れた子よ。


「おめでとう、リリア。キミも大人のレディーだ」


 ボクはリリアに手をさしだす。

 なぜ手を握らない? テレているからだ。


「イミフメイすぎて、ほんと、ムリッス」


 リリアはツンデレだ。

 血は汚れているが、顔はいい。


 そして小さい。


 リリアはボクが好きだ。当然のことだが。

 ボクは神に選ばれた勇者であり、旦那なのだから。

 まあ、ボクは勇者でなくても完璧なのだけど。


「リリア、今日はボクのエンシェントドラゴンを討伐した記念のパーティーを開催するんだ。将来、ボクのお嫁さんになるリリア、キミにもボクのパーティーに参加して欲しい。神に選ばれた勇者シンのSランク昇格を、祝って欲しい」


「お、お嫁さん? いったい、なんの話ッスか。気持ち悪いッスね、ガチで」


 EXランクの女、リリア。

 恥ずかしがり屋さんだ。

 ボクはほほえんだ。


「さっきから仕事のジャマだから消えろっつってるんスけど。脳だけじゃなく、耳まで腐ったっスか? 生理的にムリ! 二度とここには来ないでほしいっス!」


 やれやれ。また生理アピールか。あきれたものだ。

 リリアはアホの子だ。


 言葉使いが悪いのは地頭が悪いせいだろう。

 あと、育ちも悪い。汚れた血だからだろうか?


 ボクは頭が良すぎる。

 そのせいか自分の高すぎる基準を相手に求めてしまう。

 これがボクの欠点だ。


 まあ、完璧すぎる人間というのも面白みがないものだ。

 これくらいの欠点があるボクのような人間のほうが魅力的。

 つまり、ボクは完璧以上に完璧ということだ。


「ボクも罪な男だな。はは」

「生きていることがすべての生命に対する罪ッス」


 ボクが素晴らしすぎて罪深いと言いたいのだろう。

 ありがとう。リリア。


「あーそんなことより、クロノパイセンどうしたっスか?」

「あぁ、忘れてた。クロノっちね。うん、死んだ」


「……えっ」


 聞こえなかったのかな?

 仕方ないもう一度説明してやるか。

 やれやれ。


「リリア、クロノは死んだ。ブザマに。ダンジョンで魔獣に頭からガジガジとかじられて、みじめに肉片と血をまき散らしながら、死んだ」

「えっ、ちょっ、イミわかんない……ありえない……あってはならないことっス!」


 物分りが悪いのは地頭が悪いせいだ。

 とはいえ、そこがリリアのチャームポイントでもある。

 アホの子とかいうやつだろう。


 アホの子のリリアは正妻にはしてやれない。

 すまない、リリア。汚れた血の嫁よ。


「リリア、人はいずれ死ぬんだ。ボクたち生者は前を向いてあるかなきゃね」

「…………先輩が、……死んだ……、……嘘……イヤ……」


「リリア、故人の死とかさ、ぶっちゃけ悲しんでも意味ない。まったくもって生産性ゼロ。ドロドロに溶けたクロノっちがゾンビになって帰ってきたら、ホラーでしょ? わらっちゃうけど。はは」


 ボクはリリアを励ますために、

 ゾンビのマネをしておどけてみせた。


 教養のないリリアにも伝わるジョークだ。

 平民のレベルにあわせて身振りをつけた。


 すごいサービス精神だ。

 徳が高い。


 よほどボクの言葉に感動したのか涙をながしている。


「ボクはね、クロノがうらやましいよ。勇者シンの仲間として死ねたのだから」

「うらやましい?……はは……なら、あんたが死ねばよかったっス」


「なんで? ボクは勇者で、神に選ばれている。死とか、ありえない」

「うわああああぁぁぁあああああん!!!!!」


 いきなり泣きだして、まったく意味がわからない。

 情緒不安定だな。ガキだからか?

 ちがう、生理だからだ。


「行きましょう、シン」


 ボクに声をかけた金髪巨乳の大聖女セーラ。

 平民の憧れの女らしい。

 ボクはまったくソソられないが。


 ボクはリリアのような小さい子が好きだ。

 セーラ、キミもつくずく運のない女だな。


 キミの想いには応えれない、すまん。

 大人の女とかリアルすぎる。ホラーだ。


「シン、報告おわった? あーし、マジつかれたし」


 この赤髪の女はフレイ。どっかの国の姫。

 婚約者がいる魂レベルで非処女のアバズレ。


 生きてる価値がない。死ねば良いのに。

 まあ姫という点は評価する。

 ツラの皮が厚い恥知らずな女だ。やれやれ。


「みんな、待たせたね! 行こう!」


 Aランクのまま死んだあわれなクロノ。

 ボクはついにSランクになった。


 Aランクの平民、クロノ。

 地獄の業火に焼かれながら見守っていてくれ。

 Sランクの神に選ばれたボクを。


 ボクはクロノの死とという悲しみをのり越える。

 そして、さらなる高みへ至る。


「ちょっと、詩的すぎたかな?」


 ボクは心底クロノが羨ましい。


 生命のなかで一番高貴な存在である勇者シン、

 つまりボクの聖剣で殺されたのだから。

 その名誉を地獄のゴミどもに自慢すれば良い。


 ボクは死してなお、同じ場所には行けない。

 なぜなら神々の国に迎え入れられるから。


 だから礼はいらない、クロノ。友よ。

 キミの気持ちは伝わっているから。


「だからクロノ。キミも地獄でがんばれ」

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