キミに届け、そして爆発してくれ

 その指先は、まっすぐに始まりの方へ向けられていた。

 文芸部部室。僕が非日常に入り込むきっかけとなった、始まりの場所。

「部長……?」

 僕は尋ねる。文芸部部長、冬川春乃ふゆかわ・はるの先輩に。

 彼女は静かにこう言った。

「あの日、ボクが爆発した理由。それが分かったんだ」

「ええっ」

 これまでに様々な異能者との戦いを経験してきた僕達だったが、部長爆破事件の犯人にはついぞ遭遇することがなかった。それが、今になって分かった……?

「それを解き明かすのに、あの文芸部部室ほどいい場所はない。佐伯先生に言って鍵は貸してもらった。行こう。あそこに」


 ◆ ◆ ◆


 文芸部部室の中は、もぬけの殻になっていた。

 あんなにいっぱいあった本はみんな、運び出されてしまったのだ。

「……ボクの血や肉片がそこかしこに飛び散っていたからね。仕方ない」

 部長の、少し寂しげな声を聞いて僕は益々犯人が許せなくなる。

「くっ……許せませんね部長! 一回じゃ飽きたらず、何度も何度も部長を狙って爆発させる愉快犯め……」

「ああ。うん……それなんだが」

「分かったんならさっさととっちめに生きましょう! 部長!」

「いや、犯人は実はね、ここに居るんだ」

「……………………へ?」

「それも、目の前に」

「――――それは、どういう」

「つまり、犯人はキミだったんだ。夏目くん」

 眩暈がするかと思った。


「いや、そんな……え?」

「自覚がないのも無理はない。いや、ボクも数日前まで半信半疑だったんだけどね。ホラ、あれを受けただろ? 【組織】の身体検査」

「……はい」

「あれで判明したんだよ。キミには、懸想する相手にエネルギー――魔力とでも仮に呼んでおこうか――を一方的に送りつける能力があるってことに」

「は?」

「つまり、だ」

 部長は咳払いを一つしてから、顔を真っ赤にして言った。

「キミのボクへの想いが、ボクを爆発させてたわけだね。ぽんぽんぽーん、と」

「嘘でしょう……?」

「それが事実としか考えられないんだな。残念ながら」

 僕は膝を落とす。

 そ、それじゃああの惨状を作ったのも、文芸部部室をこんな状態にしたのも、全部僕のせいだってことか…………?

「でも、ボクはキミがそうしてくれて、嬉しかったよ」

「へ?」

「だってそれってつまり、ボクのことをそれだけ好いてくれてるってことでしょ?」

ま、まあ……」

「それに、ボク以外の女の子にキミが惚れてたらどうなってたか、少しは考えてみたまえよ。相手が、再生能力持ちのボクじゃなかったらどうなっていたか」

「あ…………」

 連続殺人事件になることは想像に難くなかった。

「というワケだ! まあ、これだと冷たく聞こえるかもしれないから――」

 部長は項垂れる僕の顔を上げた。

 顎に手をあてて、顔を近づけて――唇が、やわらかなものに触れる感触。

「――行動で示してみたよ。どうかな? 私の気持ちは」

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