勇者と魔王の感想戦


 魔王城広間にて、勇者と魔王が一つの卓を囲んでいた。

 入口から向かって左側には勇者パーティーの面々が、そして右側には魔王軍の面々がそれぞれ椅子に腰かけている。

 奥側の端の椅子に座っていた魔王が口を開いた。

「ここに、第107回感想戦を行う。皆の者、多少は蟠りもあろうが、ここは、公正公平を心がけていただきたい。双方への攻撃禁止の旨、厳守せよ――特に、そこの二人は」

 睨み合う格闘家と魔王軍魔術師に魔王が牽制をかける。この二人は並々ならぬ因縁の持ち主。放っておけばいつ戦いを始めてもおかしくはない。


「では、他者に攻撃した者を麻痺させる結界でも張っておきまぁーす」

「それじゃあ……ついでに魔力の流れに反応して攻撃しようとした奴の骨が粉々にぶっ砕ける薬を散布しときますぅ~~エヘヘ……」

「「なんでそれを戦いで使わなかったんだよ」」

 勇者パーティーの魔術師と魔王軍の薬師に向けて、勇者と魔王からのツッコミが入る。が、そんなことは気にもせずに二人は勝手に準備を始めていた。

 はあ、と勇者はため息ついて話を先に進めようとする。


「……とりあえず、そういうことなので攻撃行動はしないように。えーと、まずは我々勇者パーティーの初戦から振り返っていきたいのですが、いいっすかね、魔王さん」

「構わないとも。勇者よ」


 テーブルの上に、映像が投影される。そこに映し出されるのは、まだこの世界に召喚されたばかりの勇者がチートスキルで魔王軍を蹂躙するさまだ。

 勇者は魔王軍の四肢をいたずらに引き千切ったり、殺した相手をネクロマンシーで蘇えらせて同族同士で戦わせたりしている。


「……これ、我々より君のほうがよっぽど魔王っぽくない?」

「あの頃はゲーム感覚でしたからねー、僕」


 ドン引く魔王軍に対して勇者はあっけらかんと答える。

 ちなみに勇者パーティーの面々もドン引いていたし、格闘家は泣き出した魔王軍魔術師を慰めていたりもしたのだが、それはまた別の話である。


「勇者による蹂躙劇から三ヶ月後、我々は万全の準備を整え、情操教育の再履修中の勇者に向けて刺客を放ったな」

「あのときは大変でしたね……僕はチートスキルを使うと一日中服を着れなくなる呪いにかかってましたから」

「え、そんな理由で使おうとしなかったの? じゃあ、スキル使ったら服が弾け飛んだのって……」

「呪いのせいでしたね。拘置所の床は冷たくて何度もお腹を壊しました」

「ちなみにその呪いをかけたのはわったっしっでぇーすっ!」

 元気一杯に勇者パーティーの魔術師が手を挙げた。

「……勇者パーティー、頭がおかしい奴しかいないのか…………?」

 魔王は今更になっておののいた。


 それから先の感想戦もなんやかんやで勇者や勇者パーティーの魔術師、密かに勇者の人格矯正に携わっていた魔王軍薬師にドン引くためだけの時間になっていた。

 というか各メンツの性能がチートすぎて戦術のせの字もないような戦いばかりだったので戦術的評価をする意味がまるでない戦いばかりだった。

「……なんで感想戦になると思ったんだろ…………」

 魔王は頭を抱えた。


 そうこうしてるうちに最終戦である。勇者パーティーの面々が皆、戦闘不能になり、勇者一人で96時間もの間魔王軍相手に戦い続けたという泥臭い最終戦。次々に魔王軍幹部クラスを千切っては投げ、千切っては投げ、血みどろになった勇者は最後、三日三晩に及ぶ魔王との戦闘を何度も死にそうになりつつも、勝利を手にしたのだ。

 ここで、魔王は一つの疑問を解消することにした。

「――勇者よ。あの戦いの時、死にかけるそばからお前の帽子の羽根飾りが光を放っていたが……あれはどういうことなのだ?」

 勇者は隣に座る姫騎士に目をやって、姫騎士が頷くのを見てから帽子を脱いで羽根飾りを取った。

「この羽根飾りは秘術により作られたもので、特定の言葉を唱えるたびに、使い手に活力をくれるんですよ」

「その、言葉とは……?」

「それは、――Mon panache」


 戯曲シラノ・ド・ベルジュラックの最後のセリフを引用したその言葉口にした瞬間、勇者の手に持つ羽根飾りが輝いた。魔力の流れが起こり、

「ゴフゥッッッ――――ッッ!!!!!」

 勇者は全身の骨が粉々に砕け、その場にべちょりと崩れ落ちた。


(……あれ、私よりも勇者にダメージ与えてない、こいつ?)


 魔王は薬師を見ながらそんなことを思った。


(了)

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