2024

円環する侵略者

 "侵略者"は、地球生物の絶滅を入念に計画していたのだろう。


 最初に異変が起きたのは北極圏でのことだった。

 ノルウェー領スヴァールバル諸島が消失した。


 そこに暮らす約2700人の人間——そして、農作物種の絶滅に備えた種子銀行、スヴァールバル世界種子貯蔵庫とともに。


 それからの"侵略者"の行動は迅速だった。世界各地の首脳や国王などをはじめとする指導者の暗殺。同時多発的な森林火災。海水への汚染物質投下。


 またたく間に地球は"侵略者"の手で人類の生息不可能地帯となった。


 ——ただ一つ。"侵略者"に誤算があったとするならば、スヴァールバル諸島の人々は生き残ったということだ。貯蔵庫に保管されていた植物の種子とともに。


◇◇◇


 "侵略者"の手でブラックホールの内部へと転送されかけた人類種を救ったのは時間航行技術を持つ者達だった。彼らは自らを「ジャーム」と称した。ジャームは人々の身体に寄生し、人々に限りなく不老に近い肉体と時空間の航行能力を与えた。ついでにシロクマには知性も与えた。ジャームは人間とシロクマの区別がつかなかったらしい。


 やがて、地球に似た環境の星に人々はスヴァールバル諸島ごと移住し、牙を研いだ。すべては地球を取り戻すために。


◇◇◇


 果たして、スヴァールバル諸島の消失事件から1000年後。ジャーム寄生体の新人類——エンビョン=メネスキャは時空間航行能力を用いて地球へ帰還した。


 エンビョン=メネスキャはその星を我が物顔で闊歩する"侵略者"に抗するために、まずその者たちが滅亡に備えて用意していた施設をブラックホール内部の座標へと転移させた。

 指導者を暗殺し、

 森林には火を放ち、

 海を汚染した。


 すべては"侵略者"が撒いた種を一つ残らず地球から消しさり、本来あった姿に戻すためであった。


◇◇◇


 かくして、地球を一度死の星に変えた地上にシロクマと人類の交雑種——エンビョン=メネスキャは降り立った。


 人類とは似ても似つかぬソレは彼らの祖先にとっての避難所にして、現役世代にとっての母星でもある異星の土地を次々に転送・転移し土壌や海洋を異星のそれと入れ変えていった。


 忌むべき"侵略者"の正体が自分たちであるとは、露も思わずに。


(了)

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ワンドロ置き場 砂塔ろうか @musmusbi

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