目を開き、神を討て2
最初に動いたのは聖人シヴだった。
ヒトの体を乗っ取った神はその肉体と接続した鋼鉄の腕を真っ直ぐに、殴りつけんとしてこちらへ飛ばしてくる。
あれを食らったらひとたまりもないことは明白だ。きっと、人間の頭蓋骨なんていとも容易く砕かれる。
私はすぐさま腰を落として回避した。
日頃から砂漠中を動き回っている私と、教会でじっとしている聖人シヴ。体力があるのは断然こっちのはずだ。しばらくは逃げの一手になるだろうか。
偽物の神こと、模倣機械アインシュタインと接続し、この施設内全てのカメラとマイクの情報を常時得られる私にとって、この地下施設内部を逃げ回ることはそう難しいことではない。
目をつむりながらだって、問題なくこなせるだろう。
――だから警戒すべきは、
「避ける? まあそうよね。正しい判断だよシーニャ。……だけどそれなら、」
シヴは神の腕の掌を真上に向けた。掌の中心部に、光が集まる。
「ここを崩落させるまで」
『シーニャ!』
「分かってる!」
地下施設の破壊。それは私たちにとって大きな打撃となる。
まず、アインシュタインと接続してカメラやマイクにアクセスできるようになった――視覚・聴覚機能が大幅に拡張されたとは言っても、その機能はこの施設の外に出ればほとんど使えないだろう。
外の砂漠には神によるジャミングがかけられている。人類の叡智の結晶と言っても過言ではない彼、模倣機械アインシュタインをして情報の取得が困難なレベルだ。
現に、彼は「神の舌」の権能を知らなかった。市街地や中心にある教会にはまず間違いなく、強力なジャミングがかけられているはずだ。
よしんば崩落から生き残ったとしても、地上の砂漠に出てしまえば私はただの人間。勝ちの目はない。
それに、アインシュタインの推測が正しければ、神は全ての聖人と同期している。対合衆国の戦闘に出ている聖人たちがこの砂漠の真ん中に戻ってくる可能性は非常に高い。いま、この時も戻ってこようとしているかもしれない。
聖人一人でも十分に脅威だと言うのに、二人も三人も来られては勝率は0%――もはや死ぬしかない。
ゆえに私たちの勝利条件は、『この地下施設が破壊されつくす前/ほかの聖人が来る前に、聖人シヴを戦闘不能にする』こと。可能なら、そのままの勢いで教会に戻って、そこにあるであろう、【神の核】――本体も破壊したいところだ。
――ともあれ今は、地下施設の破壊を妨害する!
「――
床から、天井から、壁面から、この部屋のあちこちから大小様々な銃火器が出現する。狙い撃つのは、神の腕。
BRATATATATATATATATATATATA――。
一斉射撃による轟音と排煙が生身の視覚と聴覚を機能不全に陥らせる。しばらく使いものにならないだろう。
私は意識を奥の方へ。この施設のカメラとマイクに同期する。サーモカメラが俯瞰で現況を教えてくれた。
シヴは神の腕による破壊を一時中断したようだ。優先破壊対象をこの施設の銃火器類に変えたらしい。マイクの波形が銃声の減少を告げている。
と、そうしていると頭の中にアインシュタインの声がした。
『聞こえるかい、シーニャ。聞こえたら軽く手を振ってくれ』
「…………」
『よし。上手くいってるようだね。質問なんだけど、シーニャ。君に聖人シヴを殺す覚悟はあるかい? イエスなら、右手。ノーなら左手を振るんだ』
「…………」
私は左手を振った。
『たとえ、もう元には戻らないとしても?』
それでも、私はノーと言うだろう。
もう、銃声は薄らいでいた。時間稼ぎもここまでか。
『……君は、そう言うと思っていたよ。それじゃあ、聖人シヴ封印大作戦だ』
「?」
『奥の研究室にコールドスリープ用のコフィンがある。なんとかして神の腕と彼女の接続を断って、彼女の肉体をコールドスリープ用コフィンにぶち込むんだ』
――でもどうやって?
『おそらく、神は聖人シヴの肉体が死ぬことを嫌っている。本体で君を捉えて、腕で確実に殴る方が効率はいいはずなのにそれをしないってことは、聖人シヴの死を神は歓迎してないってこと。だから、君が彼女に銃を向ければ、多少は脅しとして使えるんじゃないかな』
私の足元に、銃が転がされてきた。
拾い上げてみると思いのほか軽い。
『それは携帯用の荷電粒子砲。研究段階のまま放置されてたものを僕が完成させた。まずは一発、デモンストレーションとして神の腕に撃ってみようか。照準を合わせるのは任せて』
【未完】
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