十三番目の宝麗十二靴
博物館から大富豪、
無論、ただの靴ではない。消え去ったのは夭折の天才、アンソニー・スワロクツスキーの最後の作品だ。それは最早、靴ではなく至高の芸術品であり、その所有権を巡っては血みどろの争いが繰り広げられたとすら噂される。
それが、消えたのだ。
停電によって衆人の目が盲いだ一瞬を突いて、それは盗まれた。
あとに残されたのは「怪盗S参上!」というメッセージのみ。それは展示品を収めるガラスケースにスプレーで落書きされていた。
「犯人は事前にマスキング用のカードを用意していたのでしょう」
とは警備主任の言。
直ちに入念なボディチェックが会場内の全員に対して行われたが、靴も、メッセージを残すのに使ったスプレーもカードも、発見されることはなかった。
――そこに、一人の女が現れる。豪奢なドレスを着て、勝気な瞳で睥睨する、存在するだけで常に周囲を威圧するかのような女が。
彼女は宝石のあしらわれたハイヒールを履いていた。
「なんだかやけに騒々しいわね。一体、何があったの?」
女の名は、
◆
博物館内の来賓室にて、重造と雅美は向かい合っていた。
「ざまぁないわね重造。あんなに大枚
言って、雅美は自分の足の靴を見せつける。それは彼女のために拵えられたかのように、雅美の足にぴったりとフィットしていた。
「……私があれを入手したのは、あれが至高の芸術品だからに他ならない。貴様らのように、遊びに使うためではないのだ」
「アンソニーは13の作品を“道具”として製作したと聞くわ」
「それでも私は、美術商として、至高の芸術品を道具のように扱うことなどできぬ」
「…………道具を使わないことほど、無粋なこともないと思うのだけど、まあいいわ。相変わらず頑固なひと」
「して、貴様はなにをしに来た。わざわざ、あれを見に来たのではなかろう?」
「いいえ、見に来たのよ。
「そうか。だが、残念だったな。それはもう、失われてしまった」
「ええ。とても残念。……あまりに残念で私、犯人探しをしたくてたまらないわ」
「――なに?」
ピクッと重造の耳が動いたのを見て、雅美はにやりと口の端を釣り上げた。
「だから、取り戻してあげるって言ってるの。お題は……そうね。『なんでも私の言うことを一つ聞く』――これで手を打ってあげるわ」
「……なんでも、か」
「大丈夫、できないことは言わないつもりだから」
重造はいくばくかの逡巡を見せ、それから重々しくではあったが、首を振って頷いた。
「ならば、必ず見つけろよ宝着雅美」
「ええもちろん。必ず見つけるわ。――この
雅美は己の履く靴にあしらわれた、血の如く深い赤に向け、そう告げた。
【続かない】
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