第3話
ある日の朝。
町には異様なざわつきが漂っていた。
彼らの視線の先、話題の中心には高校の制服を着て町を歩くゴリラがいた。
言うまでもなく、それは先日アニマを経たあゆむという少年に他ならない。
ゴリラになって数日、彼は通っている高校を休んだ。
あまりに急激な変化だったこともあり、母である英梨が病院での検査を提案したのだ。
さらに、彼には行きたくても行けない理由があった。
それは制服をはじめ、着られる服がないということ。
一枚だけ、ゴムの限界まで耐えてくれていたパンツも、あのあと立ち上がると同時に弾け飛んでしまい、あゆむには身に纏えるものがなにひとつなかった。
「もしもし。わたくし、一年B組の
そんな状況下にあって、落ち着きを取り戻した母は頼もしかった。
学校へ休みの連絡と、アニマによって体形が変わってしまった生徒への制服支給措置の申請をすぐさま行った。
さらに、病院の検査には救急車を呼び、迅速に、かつ大きな病院での検査を行えるよう手配した。
駆け付けた救急隊員の一人が腰を抜かしたが、搬送先の病院まで余計な人目に晒されることはなかった。
「あの……ここは動物病院ではないのですが」
「すいません、人間です」
ここでも看護師の一人が悲鳴を上げかけたが、検査は滞りなく終わった。
「精密検査の結果は、後日お伝えすることになりますが、健康状態に問題はないようです。いやはや、三十年医者をしていますが、こんなアニマは初めて見ました」
あゆむと英梨は苦笑いを浮かべて、担当医からの話を聞いていた。
老齢の医者はジャンガリアンハムスターの前歯が特徴的な、のんびりとした口調の人だった。
「多くのアニマは部分的な変異になりますので、驚いたでしょう。実は、全身の変異もないことではありません。私が若い頃は、アメリカの俳優がリアル狼男として人気でした。ですがあゆむくんの場合、体型が大きく変化するという点が例のないことなのです。あゆむくんは、変異前の身長が一五一センチでしたから、普通は一五一センチのゴリラになるはずなんです。それが一気に一八〇センチにまで伸びている。いやぁ、こんなこと言うと失礼かもしれませが、大変興味深い事例です」
あゆむは医師や護師たちから隠し切れない好奇心の目を向けられながらも、検査入院をすることになった。
その間に、検査で出た体型の結果を元に英梨が下着や最低限の服を購入し、制服の採寸も病室で行われた。
その際、やってきたおばさんの悲鳴がこだましたが、なんとか数日のうちには仕立ててもらえるように取り計らってもらえた。
「そうか! あゆむにもアニマがきたのか!」
「うん。そうなんだけど、驚かないでね?」
「なにを言うんだ、英梨。僕たちの子どもじゃないか。どんなアニマでも受け入れる覚悟はできてゴリラああああああああ!」
単身赴任中の父親にはテレビ電話での報告となり、画面の向こうでひっくり返られたが、本人はその手のリアクションを取られることに慣れ始めていた。
こうして、学校に通うための準備を整えたあゆむは、満を持して登校することになったのだ。
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