Ver 2.17 竜を討伐した者たち

イズル達が手も足も出なかった竜は討伐された


ビアスが説明する


「女神教が仕留めたらしい、竜を殺す者たちがやったそうだ」


女神教…いかにもうさんくさい名前だ

ラノベではだいたい悪だくみしてるものだが排他的な思考を持ち合わせている集団が軍事力を持つと過激になりがちだ、そういう設定によく使われるには理由がある

竜をも殺す軍事力を手に入れたとなれば大いに主張してくるのではないだろうか


「竜を殺す者たち…そんなのいたの?」

「いや…いない、いなかった。と言うほうが正しいか」


ビアスはため息をつく


「なんらかの儀式で竜を殺すスキルを持つ者たちを召喚したらしい、その者たちによって竜は既に倒された、あまりに巨大で持ち運ぶことさえできていない。見に行くか?」


なんだそれは…だが竜が死んだというのは見てみない事には信じる気にもなれないな


「行く、連れてってくれ」


◆ ◆ ◆


ファウルの亡骸


竜の亡骸は首を一刀の元に両断されており、ムラクモが信じられないような表情で切り口をずっと睨め付けていた


ビアスがイズルに語り掛ける


「すごいもんだな、俺たちは傷ひとつ付けられなかったというのに」

「どうやったらこんなことができるんだ」

「検討もつかん、竜を殺す者たちは女神教によって隠されている。まるで情報が入ってこない」

「だとしてもその竜を殺した者たちは英雄だろう、もっと持てはやされてもいいんじゃないのか」

「それがな…女神教の神殿でささやかな宴が開かれたそうだがそこで何か口論があったらしい。それ以外何もわからん」


それにしても世界を救える力…俺はともかくおそらくこの世界最強クラスの能力を持つビアスですら手に負えないのに…女神の仕業か?

あとで呼び出して問いただしてやる


ふと、切り落とされた竜の首から何か光るものがイズルには見えた


「なんだあれ?」

「ん?」


イズルは竜の首の下で何かが光ったような気がして、ビアスがわかるよう指をさした


「いや、あそこ光らなかった?」

「わからん、竜の首の断面に何がある」

「いや、その奥っていうか…行ってみる」

「よくそんな所に行くものだ…行ってこい」


リタと共に、竜の首の下へ潜り込んでいく

人一人がやっと通れるような洞窟があり、ズリズリと体を擦りながら中へ入る


リタがイズルに問いかけた


「うぇぇ、くっさ~ここに何があるの?」

「なんか光った気がしたんだが…」


しばらく進むと赤く光る柱の部屋に出る

柱は脈打つように動き、赤く輝く石が埋め込まれている


「なにこれ…心臓的な?」

「うーわ…気色わるぅ」

「光ってたのはこの石か…」


赤く輝く石をイズルが取ると、脈打つ柱は赤黒く変色し、鼓動を止めた


「止まっちゃった…」

「心臓?だったのかな…」


イズルは赤く輝く石を眺める

卵ほどの大きさで、見た事もない紋が彫られている


「なんだろうこれ…」

「魔石?にしては小さい気がするけど…すごい魔力量だよ…底が見えない」

「そうなんだ…一応持って行こうか」

「うん、ビアス様なら何か知ってるかな」

「聞いてみよう」


ビアスの元に戻り、竜の魔石を見せる


「不思議なものだな…初めて見る」

「ビアスもわからないのか」

「これほどの魔力量の魔石は見たことがない、それに…禍々しい…」


魔力がない俺にはわからんが…


「悪いがあまり近づけないでくれるか…気分が悪くなる」


潔癖症だな…大丈夫か


「リタはどうだ?」

「ごめん…あたしも無理…魔力の流れが制御できなくなる」


潔癖がどうとかじゃなかったか

他の人が持てないなら…もらってもいいかな

素材もここに置きっぱなしだし、他の素材も持って帰るか


「じゃあコレ俺が貰っていい?」


ビアスもリタも頷いた


「じゃあゴットゥムが喜びそうだし、肉をいくつかもらって鱗も剥がせたら持ち帰ろう」


ビアスも同意した


「女神教のやつらは素材に興味がないみたいだしな、そうしよう」


死んだとは言え竜の鱗は固かったがムラクモが躍起になって技を試し数枚はぎ取ることができた

さらに肉もかなりの量を手に入れ、イズル達は解散した


◆ ◆ ◆


ケラウノス イズルの自室


”チリーン”


イズルがルトラを呼び出すため、自室で一人鐘を振る

どこからともなくルトラが現れ、イズルの座るテーブルに着いた

関心がまるでないような表情でルトラはイズルをじっと見つめる


「よく生き残ったわね」


この悪魔め…俺たちが勝てないの知ってて挑戦させたんじゃないだろうな


「あやうくビアスも死ぬところだったぞ」

「準備しろって言ったじゃない、まさかあのまま行くとは思ってなかったわよ」


確かに…準備不足はある

トールが機転を利かせて支援に回ってくれてなければ俺たちあそこであのまま死んでたかもしれないな


「聞きたいことがある、竜を殺す者たちというのが召喚されたそうだが心当たりあるんじゃないのか?」


ルトラは少し目を反らし、目を戻す


「知らないわ…でもこの世界ならあり得るし…竜を殺せる理由も想像がつく」

「説明できる?」

「できるけど今は言わない。あんたがビアス様とかに言っちゃうと私の立場が怪しくなるから」


魔女絡みって事か?

なぜルトラは魔女と言い、この世界のやつらは聖女というのか

まぁ竜を殺して平和をもたらしたんなら普通聖女だろうけど


「じゃあ…これについて聞きたい」


イズルは竜の魔石を取り出し、テーブルに置いた


「あら、良かったわね。竜魔石が手に入ったならよかったじゃない」

「使い道がわからんものを喜べと言われてもな…リタもビアスも気味悪がってるんだが」

「ふぅん…そうかもね。あんたなら魔力が無いから平気って事ね」


まぁ結果的にそうなんだがもうちょっと説明してくれ


「これはなんだ?」

「見ての通り竜の魔石よ。無尽蔵ともいえる魔力量でしょうね」

「それだけ?」

「ビアス様と一緒にこの世界の謎をもう少し知りなさい、そしたら教えてあげるわ」


女神ぶりやがって…要領を得ないな

急にいろいろ隠すようになって会話が非常にめんどくさい


ルトラは残念そうにため息をついて腕を組む


「もうちょっとわかりにくい神託にすべきだったわね…今回の失敗は反省するわ」


やけに素直だな


「どうした…らしくないじゃん」

「あんたはどうでもいいけど、ビアス様が危機に陥ったのは誤算だからよ。強引なところもいいと思うけど…ちょっと竜についてヒントが少なすぎたわね」


俺がどうでもいいのは薄々っていうか大いに知ってるから言わんでいい


「結果的に竜は死んだし、ビアスも受け入れてくれるんじゃないか?」

「このまま合わせる顔が無いわよ」

「そうかな…嘘は言ってないし、約束は果たせただろ」


ルトラは目頭を押さえて首を振る


「脳筋は気楽でいいわね…」

「うるさいな…女神であることも正直に話せば理解してくれると思うけどな」

「まったく…手に負えないわね。筋肉女にも信じてもらえないのにビアス様が信じるわけないでしょ。竜の件もあるし、もしかしたらもっと情報を欲しがるかもしれないじゃない、そうすると嘘が言えない私は正直に伝えざるを得ないわ」


そうだな

それの何がまずいのか


きょとんとするイズルを見てルトラは表情が険しくなっていく


「私が伝えられる内容はこの世界の神を魔女という前提の元話すことになるわ。信頼関係がないのにそんな事伝えたら私がどうなるかくらい想像つくでしょ」

「なるほど…火あぶりになるかもな…」

「そういう事よ」


腕を組んで考えるイズルにルトラは質問する


「で、どういう風の吹き回しよ。急にビアス様との仲を取り持とうとするじゃない」

「ん?まぁ…正直お前は気に入らんけど…ビアスのために一所懸命なところは好感持ってる」


ルトラは微笑み、足を組み替え腕を組んで仰け反った


「オホホ、ようやく私の魅力に気づいたのかしら?今更遅いわよ、あなたなんて最初から眼中にないんだから」

「くっ…ちょっと気を許せば調子に乗りやがって…頭悪そうに見えるから直したほうがいいぞ」

「ハァ?頭の出来なんてあんたと私じゃ比べようもないことは明白じゃない、身の程知らずは見ているだけで恥ずかしいわね」

「下界の人間に手を出すポンコツが…」

「ふふーん、古来より神と人が結ばれる事はあるのよ。神としての資格を得ればいいだけなんだから、あんたじゃ逆立ちしたって無理だけど」


鬼の首でも取ったかのような活き活きとした表情でルトラはイズルを見下し、子供のような笑顔で笑う


いちいち煽りやがって…だんだん腹立ってきた


”チリリリリリリリーーーン”


イズルは思い切りルトラに貰った鐘を思い切り振り続けた

ルトラは頭を抱えて半泣きになる


「ちょっ!やめなさいよ!」

「早く帰れ」

「なん…!?聞こえないわよ!!」


いいから帰れよ


「うぐぐぐ…覚えてなさいよ…!」


ルトラは逃げるように消えていった


まったくポンコツ女神め…

今は戦えるようになってそれほど憎んでもいないんだけどな

あの高飛車な性格はどうにかならんのか

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