Ver 1.07 勝手に冒険者します

リタと共にギルドを出て今後の宿を探しに向かった


クリスのところにお邪魔していてもよかった気もするが

冒険者にはなれなかったとしても一人立ちしたという意味で自分の稼ぎで宿を借りたかった


結局高望みはせず安宿へ


ベッドひとつと荷物を置けばもう足の踏み場もないような狭い部屋へ案内され

二人でベッドに並んで座った


「まぁ、最初はこんなもんだよな」

「そうだね~あたしも冒険者なりたての頃はこんなだったな~」


イズルは冒険者ギルドでの事を思い出すとため息をついた


「それにしてもやらかしたな、まさか罰まで貰うとは」

「あはは、気にしないの。あんなのしょっちゅうだから」

「まぁ、反省しとこう。さてそれで今後の稼ぎをどうするかだ」

「お!冒険者らしくなってきたね。どうしよっか」


イズルは腕を組み、首の体操でもするようにゆっくりと頭を左右に振る


「まぁ冒険者にはなれなかったとしてもリタと会った時のように外に出れないわけじゃないんだよな」

「あぁ、そうだね。好んで出る人はいないけど。それにあたしがいれば魔物の素材も冒険者ギルドで売れるし狩りに行くならあたし連れてけば問題ないよ~」

「ドゥアルトは反対してたがリタの補佐的な意味合いでリタが受けれる範囲の依頼を手伝う分には問題ないよな」

「そだね、じゃあこれからあたしが依頼受けてくるから行ってみちゃう?」

「よし、まずは行ってみよう」

「おっけー!ちょっと待ってて。依頼見てくる」


リタが部屋を出るを見届け、戻ってくるまでに魔石に付与する術式を見直す事にした


今は追跡、魔力矢、火球の魔石がある

どんなダンジョンに行くのかわからないがちょっと手を増やしておきたいな

そもそも俺は一撃でも食らえば致命傷になりえるし、シールドが欲しいな

っていうかこの先それなしで行くのは無謀もいいとこだな


………よし、これでいい

物理攻撃ならこれで防げる

何度耐えられるかわからないけど、空気中の魔力がある限り障壁を張り続けられる


こうなると周囲の魔力を見る術式なんかも欲しいな

自分で魔力を持っていないから周りにあるのかわからない

感じる事も当然できない

いざってときに魔力がないのに気づけないと命取りになりそうだ


「イズルー!依頼貰って来たよー」


意気揚々とリタが部屋に入ってきた

手にメモを持ち、早速イズルの隣に座ると広げて見せる


「冒険も筋トレも徐々に慣らしていかなきゃね。小鬼の巣窟って言って弱い魔物の巣窟があるんだよ、弱いけど数はすごい多い。その分魔石も一杯取れるけどね~まずはここで腕試ししてみない?」

「わかった、何事も挑戦してみないとな」

「そうそう!いこういこう!」


リタと共に宿を出て大通りを歩く

初めてのパーティ戦闘というものに心躍る


以前リタと一緒に戦いはしたがリタはほとんど動けなかった

実質今回が初と言っていい

どうなるんだろうか


そしてダンジョンどこなんだろうか

体力の無い俺はそれが一番心配だ

1時間以上歩くとなると帰りたくなるかもしれん


そんな俺を心配してか、リタは門の側にある馬屋へ寄って馬車を借りてきた


「え?いいのそんなの」

「冒険者になると無料で貸し出してくれるんだよ。もちろん壊れたら弁償だけど」

「へー、魔物の素材とか魔石がそれだけ貴重って事か」

「そうだねー、魔石なんて無いと生活できないってレベルになっちゃうし」

「街灯とか全部魔石で動いてるもんな」

「そうそう、普通に魔法使うよりずっと長持ちするからねー」


荷物を荷台に乗せ、リタと一緒に御者席に座るとリタが馬にムチを入れゴトゴトと音を立てて馬車が動き出す


おお!これが馬車か

ゲームの中でもよく見る馬車だが割と…乗り心地は悪い…


意外と揺れる、というか道が整備されてないので細かいデコボコを車輪が拾ってしまう感じだ

まぁ、歩くよりはマシだろう


「そういえばダンジョンって普通どれくらい潜るもんなの?」

「うーん、数時間だったり数日だったり。人によるけど、なんで?」

「いや俺体力が…」

「あー…」

「スタミナ長持ちするような自己強化術式も開発しなきゃだな」

「じゃあなおさら魔石が必要だねー!今日いっぱい持って帰ろう」


◆ ◆ ◆


小鬼の巣窟


小鬼の巣窟というからには入り口は狭いものかと思っていたがそんなことはない

大きな家が1軒まるごと入りそうな大きさの入り口だった


馬車を止め、荷物を下ろして周りを見ると既に数台馬車が止まっているのが見える


「あれ?他の人も来てるのかな」

「そうだよ。ここは皆最初に来るとこだからね」

「なるほどー」

「ここはかなり広いからあまり会う事は無いと思う、ただ奥行くと急に敵が強くなるから気を付けてね」

「わかった」


リタは慣れているのか鼻歌を歌いながら洞窟へ入っていく

遅れないようイズルもついていった


洞窟の中は薄暗いがまったく見えないほどではない

壁が薄く光っているのか思っていたよりも良く見える


「洞窟って言っても結構明るいんだな」

「うん、壁とかに生えてる苔が魔力を吸って変質するから光るらしいよ」

「へぇ、変質するほどって事はここは魔力が濃いのかな?」

「うん、たぶん外の時ほど魔力を心配しなくていいと思う。ダンジョンそのものが魔力でできているらしいって話しだよ」

「そりゃすごいな…なら魔力切れの心配いらないか」

「うんうん、まずはサクサク進んじゃおう」


10分ほど歩くと大きな部屋の前にたどり着いた


壁を背にし、ゆっくりと中を覗き込むとゴブリン達が十数匹たむろしている


「ゴブリンか…ちょっと数が多いね、弱いんだけど群れてる時は慎重に」

「ちょっと俺が試してみてもいい?」

「ん?いいよ」


イズルは何も術式が刻まれていない魔石に術式を施していく


「よしこんなもんでいいかな」


魔石を3つ取り出し、左手の指に挟んだまま手をかざす


「拡散、追跡、魔力矢………展開」


順番に術式が目の前に展開され、一直線に並ぶ

一番手前から放たれた魔力矢は追跡の術式を通り、拡散の術式を通ると3つに魔力矢は3つに分かれ、ゴブリン達に襲い掛かる


どことも無く放った魔力矢はゴブリン達を追跡し、頭を貫いていった


「成功だな、1発あたりの威力は落ちてる気がするけどこれなら問題ない」


その後4回ほど魔力矢を立て続けに発射し、ゴブリンたちは全滅した


「ほぇー、やっぱ魔法ってすごいねー。イズルのは詠唱とかがいらないからさらに凄いんだけど」

「本来唱えるべきものを最初から式として書き込んでるからな」

「なるほどねぇ」


リタが急に振り返り、表情が険しくなっていく


「誰か来た…気を付けて」

「……?気を付けて??」


リタの視線の先から黒いフードを深く被った男たちが3人現れた

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