Ver 1.08 初心者狩りがきた

黒いフードを被った男たちが通路を塞ぐように並び、話しかけてくる


「はぐれ、お前の持ってる武器を置いていけ」


イズルは握っている魔石を見た


「これか?」

「そうだ。それだよ、はぐれは稀にいい武器を持ってる。俺たちはそれが欲しいんだ」


え?ただの魔石だが

つまりあれか、はぐれがチート武器を持ち込むことがあって、俺のこの魔石がそうではないかと思っているって事か


とは言え、このままだと襲われかねない

リタもいるけど数的に不利だし、とりあえず渡してやるか


「じゃあ、ほら」


イズルはひとつ魔石を男たちの前に放り投げた


「おお、これか?どうなってんだ」

「さっきのは凄かったな。使ってみろ」


フードの男たちははしゃぎ、魔石を手に取る

一人だけ慎重なようでずっと警戒を解いていない


はしゃぐ男たちが魔石を眺めるがやがて険しい顔になっていく


「おいこれ使えねーじゃねーか。ニセモノ掴ませてんじゃねーぞ」


んなわけないだろ、それはさっき使った魔力矢の魔石だ


俺はプログラマだぞ、簡単に使えないようにくらいはしてあんの

昨今のプログラマならセキュリティの概念くらい持ち合わせてんだよ


魔力がない俺が術式を付与した魔石を使って最初に最も不便に感じた事は魔力消費だった

俺に魔力がないので発動すらできない、発動できたとして触媒となる魔石の魔力を使い切る


それではいくら魔石があっても足りないので独自に開発した完全に俺の魔力を使わない、空気中から魔力を取り込む術式を組み上げたのだ


そしてそれは俺が怪しい男たちに渡していない起動用の術式が刻まれた魔石に付与してある

つまり起動用の魔石でその他の魔石に魔力を供給しないと発動しないのだ


当然攻撃用の魔石が敵に奪われたら俺が困るし利用されたら目も当てられない

起動用の魔石で展開された術式の内側に攻撃魔石の術式を展開しないと魔力を集められないし単に不完全な術式を展開するだけなのだ


まとめると、俺が持っている魔石はそれぞれが不完全な術式を展開するだけの魔石だ

合わせて初めて魔法効果を発揮する


「ニセモノじゃない、見せてやるよ」

「追跡、火球……展開」


二つの術式が縦に並び、火球がフードの男に襲い掛かる


「うわぁぁぁぁ!」

「もうふたつ、火球、火球…展開」

「てめぇ!」


3つの火球はフードの男たちに命中し、男たちは吹き飛んだ

イズル男たちが手放した魔力矢の魔石を拾い、魔力矢の術式も展開する


「簡単に使えないようにくらいしてるんだよ。お前たちでは俺の術式は読み解けまい」

「ふっふっふ…ウチの脳筋ナメんなよ!」


リタが剣を構えてカッコつけながらフードの男たちに啖呵をきる


脳筋の使い方間違えてるけどツッコミは無粋だろうか


よろよろとよろめきながらフードの男たちは立ち上がり、剣を構えた


「くそっ…ダンジョンで死んでもお咎めはねぇんだ。この程度の威力で俺たちが倒せると思うなよ」


威力が上げられないと思っているのか


「追跡、魔力矢x4…展開」


直列する魔力矢の術式から矢が放たれると術式を通るたびに太く大きくなっていく

4倍の大きさに膨れ上がった魔力矢がフードの男の一人を吹き飛ばし、男は壁に激突して気を失った


「なっ…」

「大した詠唱もしてねぇのにこの威力…」


術式の欠点は規格が決まってしまう事だ

大きさや威力などがひとつの術式につき1種類しか選べない

本来は魔力を流し込む量とかで調節するのかもしれないが組み上げられた式はそういうところで融通が利かない

が、束ねてしまえばいいだけだ

魔力が十分にあるところなら魔力切れを心配する事もない

放たれた魔法に途中でも術式を付与できる事を発見してなければ気づけなかった事だけど


「やっぱ隠し持ってんじゃねーか…」

「隠してないって言ってるでしょ。お前たちに理解できないだけです」


イズルはフードの男たちを睨みつける


「見逃してやるから帰りなよ。奪えないのはわかったでしょ」

「………」


フードの男たちはひそひそと話し出した


「おい、依頼失敗したらどうなるんだ…」

「知らねえ…どうなるんだよ…」

「くそっ…いったん引こう」

「わ、わかった」


男たちは気絶した男を抱え、出口へ向かっていく


「おい待て、依頼ってなんだ?」

「………」


男たちは何も言わず、イズル達を警戒しながら姿を消した

イズルは追いかけようかとも思うが、辞めた


「あのまま痛めつけても喋らないかもしれないし、その傷が原因で死んでも気分が悪いし…放っておこう」

「うん、でもホントにあるんだね。初心者のはぐれ狩り」

「知ってたの??」

「あ、噂にしか聞いたことなくて…はぐれと一緒に旅するのも初めてだし…」


そりゃそうか、はぐれじゃなければ狙われる事もないしな


「そういや他のはぐれってどうしてるの?」

「ん?もういないよ。頻度はまちまち、年に数回現れる事もあるし数年現れないこともある。けどもうみんな噂を聞かなくなっちゃった」


特殊なスキルを持っていることが多いって言ってたし

利用されたか今みたいに狙われたかで死んでいくんだろうか

でもそうしたら俺と組むと危ないって事だよな


イズルはうつむいてリタに話しかける


「じゃあ、俺と旅するのは危ないんだな」

「ううん、気にしないで。そういう意味じゃないしはぐれ以上に冒険者だって死んでるし。はぐれだから危ないって事じゃないよ。イズルはあたしを助けてくれた時助けてもらったから恩返しがしたいって言ってたでしょ?あたしもそうだよ」

「そっか…なんか複雑だな。特殊なスキルを持ってるやつが多いって聞いたけど、それでも生き残るのは難しいのか」

「冒険者である以上は…ね。仕方ないよ。スキルが優れていても準備もせずに戦えば誰だって生き残るのは難しいんじゃないかな」


確かに、必ずしもスキルを有効に使える場面であったかはわからないな


「そうだな、確かに」

「うんうん、まずはゴブリンたちの魔石取りに行こ!放置してると危ないから」


え?危ないの

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る