Ver 1.20 機嫌の悪い女神がチョロい 2
翌日
リタ、クリスにルトラから聞いた竜の話しを端的に伝えたものの知らないという事だった
クリスの魔道具屋で今日も店を閉め、台所のテーブルへ3人で座る
「昨日現れた神託の女はビアスと二人揃ったら次の神託が授けられるって言うんだけど、正直ビアスに借りは作りたくない。どうやったら会えるかな?」
クリスが腕を組んで考える
リタは神託の女が気になるようで質問してきた
「その神託の女って何者?竜なんて超大昔に絶滅したらしいよ、なんで今になって?」
うーん、大昔に絶滅してたとは…仮にも女神の言う事だから嘘ではないんだろうけど
実は女神ですなんて言ったら俺が神の使いなんて事になってめんどくさいし
何より胡散臭すぎて一気に信用失いそうだし
どうするかな…
「まぁ俺にはわからん、信仰なんてしてないし、神託なんて言われてもわからんし。竜ってのが気になったから聞いてみたんだけど絶滅してるとは…知らなかった」
クリスが割って入る
「でもちょっと気になるわね。神託がイズルちゃんの所に行くのは不思議だけどビアス様を指名するのはちょっと理解できるわ、精霊の主だもの」
「たしかに、神秘的な何かと繋がりは深そう。四大精霊連れてる方だし」
ほらみろ早速怪しまれた
魔力もスキルも体力もないのに俺が神に選ばれてるわけがない
「詳しいことはわからんが、端的で要領を得ない話だし。けどいるならいるで気になるし、たわごとだとしても続きを聞きたいと思ったんだ」
「確かに…気にはなるわねぇ…」
「うーん、正直に言ってみたら?ビアス様は貴族だしあたしたちが知らない事を知っていてもおかしくないよ?案外食いついてくるかも」
たしかに
謀略的なものは俺苦手だし
リタの言うように正直に言って見たほうが楽だな
「まぁそうだな。変に嘘ついても怪しまれたら元も子もないし、竜の神託を語る女がいるから会おうって連絡してみるか」
「じゃあ場所だけ教えておくわ、街の南側にある一番大きなクランハウスがビアス様のクランよ。大抵そこにいるはずだから行ってみたら?」
そうか、一番でかいクランだって言ってたな
「わかった、行ってみる」
◆ ◆ ◆
グングニル クランハウス
リタと共にクランハウスの入り口に立つとその大きさに度肝を抜かれた
高級宿を思わせるような4階建ての巨大な建築物
その大きさもさることながら広さも小さな地区ひとつ分はある
「でけぇ…」
「すごいねグングニル…」
入り口で呆けていると門衛が声をかけてきた
「おい、ぼーっとしてないでなんか言ったらどうだ」
「あ、あぁ…ビアスに用があるんだが」
「ちょっとイズル!お願いだから礼儀!!」
「え?あ…あぁ…うーん…正直苦手だ…」
すると扉の方が勝手に開き、トールが姿を現した
「イズル様、いらっしゃいませ。ビアス様がお待ちです、こちらへどうぞ」
意外とすんなり入れてしまった
もっと警戒されるかと思ったが…クラン参加希望と勘違いさせてしまっただろうか
リタと共にトールに連れられ中へ入るとまるで城を思わせるような広さがあり、おびただしい装飾品で溢れ、あちこちに商店が並び冒険者達がワイワイ談笑しながら歩いている
「騒々しくて申し訳ございません。1,000人も冒険者がおりますとどうしても」
「ま、まぁそうだろうな…」
「ビアス様は4階の応接室でお待ちです。こちらへ」
場の雰囲気に気圧されながら
トールに連れられ応接室に入るとここもまた恐ろしいほど広い
20人は軽く座れそうな長大なテーブルに一人ビアスが座り、高価な装飾品で壁一面が埋め尽くされている
席に案内され、ビアスと向かうとビアスから話しを切り出した
「早速来たな、礼儀の事は気にするな。楽に話せ」
リタが頭を下げる
「格別のご配慮を賜り光栄にございます」
「すまんな、そういう難しい言葉遣いはさっぱりわからん」
「よい、はぐれであれば知らぬのが当然であろう。で、今回は何用か?早速心変わりしたというわけではあるまい」
リタがほっと一息ついた
イズルは話しを続ける
「昨日神託を語る女が現れたんだ、ビアスと会わせろと言ってきた。竜がいるんだってさ」
「竜!?大昔に滅ぼされたはずだが…だがおそらくその話しは嘘ではない…と…思う」
「歯切れ悪いな」
「トール」
トールが大きな包みを持ってくるとテーブルに置き、包みを取る
巨大な皮とも殻とも言えないものが現れた
「これはおそらく竜の鱗だ、原初のダンジョンの奥深くで稀に見つかる」
「え!?そんな話し聞いたことがありません」
リタが驚いて質問する
「そうだろうな、原初のダンジョンに挑むのは今はグングニルしかいない。数年に一度見つかる鱗は全てグングニルが所有している。得体が知れぬし誰も加工できんので市場にも流していない」
意外な事に順調に話が進むな
しかしこれだけの物があれば城?もあったし軍とか動かないんだろうか
「なんでグングニルが所有してるんだ?城もあるし王に献上とかしないのか?」
ビアスはため息をついた
「ゲルマニアは街だ、王はいない」
「え?そうなの。人類最後の街、あぁ…街…うーん。これだけ大きいのに?」
「そうだ。文献によるとあの城はもう千年もの間誰も住んでいない、あの城そのものがダンジョンになっていて誰も王の間にたどり着けず、魔物もいない。故にこの街は貴族が各々の支配権で統治している」
「めちゃくちゃ怪しいな…竜の鱗も見つかるのか?」
「確かに怪しい事この上ないが魔物は一切いないし竜の鱗はおろか何も見つからん。調度品などの家具、装飾品などもあるにはあるが全て持ち出せないのだ。動かしても気が付けば元に戻っている。更に王の間に通じる通路、階段は一切なく。外壁を伝って登ろうとすればいつの間にか降りている」
あからさまに近づけない感じか
何がいるんだろうな
「とは言えあそこから魔物が溢れる事もないので今や誰も近寄らん。入れぬ城に空座の王、一昔前は権力を争ったそうだが…魔物の侵略があるため今はもう王も城も存在しないかのように皆振舞っている」
なるほどな、無ければ執着する事もない
まぁこの街がおかしいのはわかった
女神の言うこの世界を救う方法の謎が解き明かされればいずれわかるんじゃないか?
ゲームだとそうだが…楽観的過ぎるかな
「で、神託の女がなぜイズルに神託を授けたかは置いておこう。僕も会おう、明日には準備を整えておく、イズルも神託の女と連絡が付けば日時を指定せよ」
「わかった」
◆ ◆ ◆
翌日、ルトラを呼び出し3日後に会うと約束した
当日
グングニルのクランハウスに向かうとトールに連れられ、グングニルが所有する地区の一角に神々しい雰囲気を持つ美しい庭園へ案内された
ビアスがテーブルに座り、紅茶を飲んでいる
イズルとルトラが案内され、テーブルへ着いた
「トール、下がってよい」
「はっ」
トールが見えなくなるとルトラが仰々しく膝をつき、ビアスに礼をする
「お初にお目にかかります。ルトラリッサ=ガブリア=バーサーと申します。ルトラとお呼びください」
ビアスは平静を装っているがどこか様子がおかしい
右へ左へと視線を移し、不安気な雰囲気がある
(こいつは何者だ?それに精霊たちが一切応答しなくなった…まるで魂が抜けたかのように整列し、いつもの騒がしさはどこへ行った?)
「よい、ルトラ。顔をあげよ、座ってくれ」
「ありがとうございます」
「お前は何者だ?竜の事を話したと聞いている」
「はい、お話いたします」
(はぁ…超美形。近くで見てもカッコいいわぁ)
ルトラは見惚れるようにビアスを眺め、うっとりと艶やかな笑顔を向ける
仮にも女神、その美貌にビアスは釘付けとなり、ハッと我に返る
(なんだ…?吸い込まれる…我が家系は大昔竜を絶滅させ、世界を救った聖女に身命を捧げた家系。神託の女ごときに心奪われるとは…こやつ悪魔か何かの類か…?精霊たちはなぜ何も言わんのだ)
ルトラは目を閉じ、深呼吸すると淡々と、響くような美しい声で話し出した
「この世界は大昔、竜により人類は甚大な被害を被っておりました。しかしやがて竜を絶滅させる女が現れます。女は見事竜を討ち果たし、世界に平和が訪れました。ですが竜は死滅しておりませんでした、原初7つの迷宮として蘇り、再び世界を滅亡させんと猛威を振るいます」
ビアスが眉を寄せ、目つきが鋭くなる
「原初のダンジョンに竜がいるという事か」
「はい、読めぬ文字と爪痕に秘密があるようです」
ビアスは驚いた
「な…うーむ…そこまで知っているとは…」
「どういうことだよ」
「原初のダンジョンにだけ、大きな足跡があるんだ。最奥の大広間に必ず足跡と読めぬ文字が刻まれている」
「それが竜の秘密?」
ルトラが返事をする
「はい、今回の神託はここまででございます。次回神託を授かりましたらぜひ、ビアス様にご一報させて頂きたく」
「まぁ…よかろう」
ルトラは顔を背け、頬に手を当てる
(よっしゃ!次はビアス様の個室にお邪魔しちゃお!!)
「では、こちらの鐘をお納めください。私が参る際、音色を奏でます」
おいおい遣わした人間以外に介入していいのかよ
職権乱用じゃねーのか
「わかった。下がってよい」
「では、またお会いしましょう」
(うふふ、私の顔に見惚れてたし、また次回会う機会も残しつつ興味を失わないように去る。私って完璧ィ)
ルトラは席を立ち、離れていった
「イズル、あの女は何者だ」
「知らん、昨日いつの間にか宿に来ていた」
「僕の精霊たちが今も静まり返っていて一切応答しないんだ。不安でならない」
ビアスはため息をつき、焦り、額には汗が見える
あぁ…あいつの神威?的なもののせいで精霊たちが服従モードなのか?
だとしたらルトラが居るときは常に不安になるだろうな
今も続いているとしたらたぶん…この鐘のせいか?
「これ…じゃない?ちょっと俺が持ってってやろうか」
イズルはビアスに渡された鐘を持って席を立った
しばらく離れるとビアスが中空を眺め始める
「おい、もういいぞ」
イズルがビアスの元へ帰ると話し始めた
「たしかにそれが原因みたいだ…それはイズルが持っててくれ。僕が持ち歩くのは不可能だ、精霊たちが反応しなくなるのは恐ろしい…僕は精霊たちにいろんなことを教えてもらっているからな…あいつは悪魔か何かの類か?」
ビアスは眉を寄せ、険しい顔でルトラの鐘を軽蔑するような目で睨む
元の世界風に言えば大草原、近づくつもりが警戒されてやんの
面白いから俺がもっとこ
「わかった。これは俺が持っとくよ、またあいつが来たら会わせればいいか?」
「あぁ…その時は…そうしてくれ」
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