Ver 1.19 機嫌の悪い女神がチョロい 1
神界
女神は生意気な勇者のサポートに疲れ切っていた
真っ白い部屋に豪華なテーブルと紅茶を並べ、椅子に座って足を組み
けだるそうに肘を立てて紅茶を啜る
「はー…あのクソ勇者の相手ほんっと疲れるわ。なんで私が毎回変装して近づかなきゃいけないのよ。見境なしに女に声かけてるし顔もたいして良くもないのになんであんなに自信過剰なんだか…資質があれだけ高くなけりゃ絶対相手にしないのに…」
ぼーっとしながらまた紅茶を啜る
「そういやヴァルケンヘクセに送ったやつ死んだかなー。生きてたらサポートしなきゃいけないし死んでて欲しい。けど八つ当たりしたいから生きてて欲しい」
女神は手を伸ばし、左右に振る
ヴァルケンヘクセが空に映し出され、イズルの顔が浮かび上がった
ちょうどビアスと話しているところだ
「え!?なにあの美形、めっちゃ好み。てかなんであいつ生きてんの?隣の美形はあいつの何なの??」
女神は食い入るようにビアスの顔を覗き込む
「えー…どういう事?彼が勇者なら私喜んでサポートするのに…」
女神はうーん、と唸りながらテーブルを指で叩く
「よし、ちょっと行ってみよ」
◆ ◆ ◆
ヴァルケンヘクセ ゲルマニアの宿
イズルは一人で自室のテーブルに座り、魔石を眺めていた
新しい術式について思考を巡らせていると扉を叩く音がする
コンコン
………
ん?リタか?なら声かけて来そうだけど、なんで黙ってるんだ?
………
………
………
「ちょっと!なんで黙ったままなのよ!開けなさいよ!」
女神はしびれを切らして入って来た
「うわっ、誰だお前…あれ?見たことあるな…」
深くフードを被った女神は扉を閉め、足早にテーブルに着く
「私はルトラリッサ=ガブリア=バーサー、あなたに神託を授ける者よ」
「は?俺は神なんか信仰しちゃいないが…」
「今日会った貴族の男、彼に会わせなさい」
「神託じゃねーのかよ。お前の私欲じゃねーか」
「くっ…神託を授けるために必要なのよ!さっさと会わせなさい」
なんでこいつ荒れてんだ…ちょっと女神を思い出して腹立つな
「知るかよ、俺はあいつに頼る気ないし場所も知らん」
「あんた面識あるでしょ?その辺の人に聞けばわかるんじゃないの?」
「おい、そういえばなんで俺が面識有ることを知ってる」
(あっ……)
「フード取れ、怪しすぎるだろ」
ルトラはそっとフードを取る
「はぁ?お前今更何しに来たんだよ。お前のせいで最初の数週間は地獄見たんだぞ」
「まぁ、生きてたらサポートしなきゃいけない決まりだし…」
イズルは疑いの目でルトラを見つめる
「うそくさ、用があるなら勝手に行けばいいだろ。女神なんだし」
「う、嘘じゃないわよ!仮にも神なんだから嘘なんて言えるわけないでしょ」
「ほーぉ、そうか。じゃあなんでビアスに用があるんだ?」
「ビアス様って言うのね…なるほど…」
ルトラは頬に手を当て顔を赤くする
「おい俺の質問に答えろ」
「嘘は言えないからね、答えない」
マジかよこいつ…嘘は言えなくても無視はできるとかホント何なの
「そうか…じゃあビアスの顔が気に入ったか?あいつ容姿端麗だしな」
「くっ…卑怯よ!二択で迫るなんて」
「いいから答えろポンコツ女神」
「そ、そうよ…悪い?私だって女だもの」
「おまっ…ハーレム云々で堕落とか言ってなかったか…」
「うるさいわね!私のは純愛だからいいのよ!」
まぁいいけど、勝手にしたらいい
だが本当に何の用で来たんだ?まさかビアスに会いに来ただけか?
マジで?サポートしなきゃいけないんじゃないの???
「そういや俺のサポートってなんだよ」
「あぁ、あんたも一応勇者って扱いになるのよ。最弱だけど?」
「くっそ…それはお前のせいだろうが…サポートしに来たんならスキルのひとつでも置いてけよ」
「あ、それ無理なの。神界じゃないと授けられない決まりだから」
「マジで何しに来たんだよ」
「あんたが死なないとサポートしなきゃいけないじゃない、さっさと死んでほしいのよ」
おっほ、こいつぁやべー
こいつ絶対悪魔だろ、何が何でも生き残ってやる
「あっそ、残念ながら生きてまーす。でもなんで女神のクセにビアスの名前も知らないんだ?」
「くっ…はやく死ねばいいのに…女神って言っても遣わした人間を介してしか介入できないのよ、全ての生命は創造主たる大いなる父の物だもの」
それじゃ俺がいなきゃビアスに会えないだろ
頭悪いなこいつ
「俺が死んだらこの世界に介入できないんだったらビアスにも会えなくなるんじゃないのか?」
「う……あんたが死ねば新しいの送ればいいだけでしょ」
「おいおいおいおい~?大いなる父よこいつ父の物を消耗品のように扱ってますよ~?」
イズルは天井に顔を向けわざとらしく声をあげた
「やめなさい!あんたはもう私が遣わしたから私にも関与する権利があるのよ!」
「なんだそりゃ、つまらんな。なんだっけル…ルテラッサ」
「ルトラリッサよ!」
「あっそう、じゃあ機会があったらビアスに紹介してやるからサポートしてみろよ」
「え?ホントに?じゃあこの世界を救う方法を教えてあげる。この世界は竜に支配されてるわ。竜を殺せば救う事ができる、続きはビアス様に紹介してくれたら話すわ」
なんか割とチョロいな…拍子抜けする
しかし竜か…一度も聞いたことないが…誰か知ってるかな
「ねぇ、答えたでしょ。いつ紹介してくれるの?」
うるせーなサポートはお前の義務だろ甘えんな
………とは言え約束したのは俺だしな、どうやって会う事にしようか
ビアスに俺から借りは作りたくないし
「今はまだ会う予定はないが。そうだな…どっちにしたってルトラを呼ぶ方法がわからないんじゃセッティングできないぞ」
「なっ…なんであんたに愛称で呼ばれなきゃいけないのよ!」
「名前なげーんだよ嫌なら改名してこい」
「くっ…大いなる父に授かった名を…改名なんかできるわけないでしょ!」
「いいから連絡する方法は無いのか?会いに行くタイミングになるまでずっと俺を監視してられるのか?」
「くっ…あんたに頼らなきゃいけないのは屈辱だわ…」
「じゃあやめる?」
「やめないわよ!はいコレ!」
ルトラは小さな鐘をテーブルに置いた
「それを鳴らせば私にだけ聞こえるわ。そしたらこっちに来る」
イズルが鐘を勢いよく振るとルトラは頭を抱えた
「なんも聞こえねーな」
「こっちは頭に響きまくってんのよ!さっさとしまいなさい!」
「ちょっと面白いな」
「だから渡したくなかったのよ!!」
こっちに来る時と今じゃだいぶ立場が変わったな
ビアスを餌にしばらく遊べるかもしれない
「ま、約束は約束だしな。近いうちにセッティングするよ、あいつに借りは作りたくないからしばらく待て」
「絶対よ!約束破ったら地獄に落としてやるんだから」
「はいはい、それじゃ今日のところはお引き取りください。チリーン」
イズルが鐘を勢いよく振る
ルトラはまた頭を抱えた
「くっそ…絶対いたずらに使うんじゃないわよ!」
ルトラは扉を開けもせず進むと次第に薄くなって消えていった
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