Ver 1.18 ビアス=トロメンス

ビアス=トロメンス、貴族の三男で冒険者ランク80を超える銀の鎧を纏った容姿端麗な男

イズルとリタが牙獣のダンジョンへ行き、ギルドへ戻って清算を待っている時に現れた


「トール」

「ただちに」


10人を超える人数でギルドへ入ると隣についていた黒鎧の男が清算の手続きを行っている


ビアスはどこともなく中空を眺め、右へ左へと首を振る

不意に、イズルへ目を向けると一直線に向かってきて声をかけた

リタは隣にいるが緊張し、オロオロとイズルの様子を伺っている


「僕はビアス=トロメンスだ。初めて見るな、お前魔力がないのか?」


誰だこいつは…


「そうだが…お前も俺に文句があるクチか?」

「ちょ!イズル!!」


リタが慌ててイズルを止め、ビアスに頭を下げた


「すみません!はぐれなので世俗に疎く…」

「そのままでよい」


ビアスはリタの話を遮りイズルを上から下までじっくりと見つめる


「ほう、不完全な術式と魔石」

「!?」


ビアスは俺の腰回りを見て言い当てた

イズルは驚き、斜めに構える


「なんだよ…気持ち悪いな…」


ビアスの様子を見て黒鎧の男がビアスへ耳打ちをする


「なるほど、お前がクーラーの開発者か。お前、僕のクランに来い」

「は?なんでだよ」


なんでもお見通しか…こう…初対面の人間にあれこれ言い当てられると気味が悪いな


「グングニルというクランだ、聞いたことくらいあるだろう」

「いや知らん、それに何なんだお前は。俺の事を知ってるようだが俺はお前を知らない。知らない人についてっちゃいけないって教わったんだ」


ビアスは一瞬驚いたような顔を見せ、口を開いた


「トール」

「お任せください」


黒鎧の男は清算手続きを他の者に指示し、イズルの前に立った


「私はトール=マイスタ、トロメンス家の執事でございます。グングニルはクランとしてゲルマニア最大の規模を誇っており、所属冒険者は1,000人を超え各貴族に面識がありクラン特有の施設、商品など多数扱っております。またビアス様はグングニルの盟主を務めておいでです」


なるほど…自己紹介だったか

だが俺が知りたいことはそうじゃない


「どうも、なんで俺が魔力無しだと?しかも魔石の事まで…知ってるやつは少ないはずだけど」


ビアスは手を上げ、トールは姿勢を正す


「僕のスキルは精霊の主、四大精霊が常に周りにいる。精霊たちが君の事を面白がって教えてくれたんだ」

「はぁ…何もいるように見えんが…」

「本当に魔力がないんだな、魔力があるなら多少なりとも存在は感じられるはずだが」

「さっぱりわからん」

「そうか、次は僕が質問する番だ。はぐれの平民ごときが僕の誘いに乗らん理由が解らん。何が不満か言ってみろ」


知るかよ俺がお前を信用できんのになぜ乗る必要がある

そもそもクーラーを開発したのを知って抱き込みたいって事は強制労働でもさせたいんだろうか

なんでも思い通りになると思ってるのか?


イズルは明らかに不快な顔を示し、説明する


「誘われる理由が解らんし今やっと顔を見知った相手が魔力無しを抱き込むメリットがないだろ。俺を何に使う気だ」


ビアスは真顔で俺の話を聞き、小さく頷いた


「お前を守ってやるためだ。ドリアルトはクーラーを僕のところに持ってきた、あいつごときにあんなものが作れるわけがない。追い返したんだがまさか強引に開発者登録するとは思わなかった。僕の元へ来るなら今後そういう事は起こらない」

「で、俺に何を作らせたい?」

「無論貢献はしてもらうが今すぐ何かをしてほしいというものは無い」

「意味が解らん、なぜ俺にそこまでする」

「領民を守るのは領主の家に生まれた者の責務。他に理由がいるのか」


そうか…ここは異世界だもんな、貴族ってのはそういうものなのか

ん?だがここは人類最後の街だろう…領土はどこだ?


「貴族ってのはわかったが領土ってあるのか?この世界はここが人類最後の街だと聞いたが…」

「領土は街の中と街の周りにあるいくつかの農場だ、街は3つの貴族が分割し管理経営されている。ここはトロメンス家の領土だ」


じゃあ俺は領民という事になるのか…いずれ税とか収める事になるのだろうか

強引だが悪い奴じゃないのかもしれないな、少なくとも無条件に守ろうとはしている


「なるほど…まぁでも考えさせてくれ。まだ勝手がわかっていない」


ビアスは首を傾げ、小さく頷いた

(冒険者ランクもそれなりに高い、自衛するくらいは自分でできるのかもしれんな。だが未知の魔道具を作る能力は惜しい…ドリアルトはこちらでもけん制しておいてやろう、恩は売っておいて損はあるまい)


「ふむ…まぁよかろう。気が変わったらいつでも来い。ドリアルトの事は僕からもけん制しておいてやる」

「ん?クラン所属が条件じゃないのか?」

「投資だ、正直なところ貴様が作る未知の魔道具には興味がある」

「本当に正直なんだな」

「隠したところで察しているだろう?困ったことがあったら僕を頼れ」

「頼ったら抱き込まれるだろ」

「ふっ…可愛くないやつだ。いずれ必要になるさ、必要になったら来るといい」


そう言い残してビアスとトールたちは去って行った


「超強引なやつだったな。貴族ってのはみんなあんな感じなのか?」


リタに聞くとリタはガチガチに緊張していた


「ビ、ビアス様は穏やかな方だよ…よくあんな失礼な話し方できるね…不敬罪で処刑されてもおかしくないよ?」

「不敬罪…今や街の中しか領土のない貴族ごときがそんな影響力あるんかね」

「ちょぉーーーー!やめてもう無理この話はやめよう。イズルは貴族と相性が悪い」


リタは大きくため息をついてイズルの耳を引っ張った


「お願いだから最低限の礼儀くらいなんとかして!今までで一番生きた心地がしなかった」

「あだだだ…わかったよ…」


リタがここまで言うんだから影響力はあるんだな

ビアス=トロメンスか、なんで貴族のクセに冒険者なんかしてんだろ

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