Ver 1.17 初心者パーティを救え 3

衝撃波は女の子たちの背後から直撃し、女の子たちの小さな悲鳴と共に煙が立ち込める

狼たちは再度前後の退路を塞ぐようにイズル達と女の子たちを取り囲んだ


煙が晴れると、無傷の女の子たちが座り込み、呆けていた


「あれ…」

「なんで?」

「攻撃されたよね??」


イズルとリタは立ち上がって説明する


「俺の支援魔法だよ、物理障壁と魔力障壁を3人に張っておいた」

「イズル、一度殲滅しよう」

「え?いいのか?」

「あなたたち、まだ勝てる見込みあると思う?」


女の子たちは一斉に首を振る


「じゃあやるか」

「近づいてくるのはあたしがやるから、思い切りやって」

「はいよ。拡散x3、追跡、魔力矢x12…行け」


イズルが両手を合わせ、展開された術式から上に打ち上げた魔力矢がバラけると狼たちに次々と命中していく


「次、土牢…展開」


洞窟戦狼の足に重い砂がまとわりつき、覆うように土の球が形成され、閉じ込められる


「トドメ、風刃x4」


直列に並んだ術式から巨大な風の刃が土の玉を真っ二つに分断すると、中にいる洞窟戦狼の首も落ちた


女の子たちは口を開け、一歩も動かず全ての敵を倒してしまうイズルから目が離せなかった

魔力矢が足りず、倒しきれなかった狼も4匹ほどいたが洞窟戦狼の相手をしている間にリタがあっという間に片付けている


リタが女の子たちに手を差し伸べる


「お疲れ様、ちょっと知識が足りないね。戦う相手の情報はしっかり頭に入れとかなきゃだめだよ。知ってれば最初から油断する事なんてなかったでしょ」


女の子たちのリーダー、リンデはリタの手を取り、うつむいた


「はい…」


リタは一人一人手を取って立たせていく


「あの、ありがとうございました」


女の子たちは次々とリタに集まり礼を言っていく


あれ、俺は?


「うん、次からはちゃんと洞窟に住む魔物の事を予習してから来るんだよ」

「「「はい」」」

「お、オホン」

「「「………」」」


女の子たちは不思議そうにイズルを見つめる


はいはい、すいませんお邪魔しました

もうお礼はいいですー


「帰りますか…」


リタが寄ってきて腕に抱き着いた


「お疲れ、カッコよかったよ」

「ん?ど、どうも…」


イズルは赤面しながらそっぽを向く


◆ ◆ ◆


冒険者ギルド


ギルドに戻り、状況を説明して倒した魔物を鑑定に回す

ペトラが奥に行っている間、ドゥアルトが降りてきた


「よぉ、小娘共。勉強になったか?」

「「「………」」」


こいつら男を嫌いすぎだろ…返事くらいしろ


「その様子じゃ手ひどくやられたみたいだな。ざまねぇぜ」


おい、お前も言い方ってもんが…


「くっ…次は…負けません!」

「おう、命があったことに感謝しろ。死ねば次は無い」

「「「…はい…」」」


おお…言う事聞いた…


ドゥアルトがイズルとリタを見て握手を求めた


「ありがとな、これであいつらも学んだだろ。また頼む」

「俺も勉強になったよ」

「あはは!イズルも洞窟戦狼は初めてだもんねー」

「「「え…?」」」


女の子たちが一斉にイズルを見上げた


「初めてだったんですか?」

「え?あ、うん」

「なんで咆哮が攻撃だってわかったんですか?」

「さぁ…勘??」

「勘て…もっと論理的にお願いします」

「えっと…ヤバそうだなって…」


リタが見かねて話を遮る


「イズルは魔法の知識があるから、予兆で分かったんだよ。あなたたちは剣士だから気づけなかったの。魔法の事も少しは覚えておくといいよ、使えなくても知ってると知らないじゃ天と地ほどの差がある」


そうなんだ…魔法の反応を知らなきゃ確かに貰ってたかもしれないな…


「「「はい…」」」


女の子たちはお互いの顔を見合わせ、うつむいたままギルドを出ていった


「ちょっと可哀想だな…」

「イズルは優しいねー、あれくらいへこまなきゃまた繰り返すよ」

「そうか」


ドゥアルトもリタに同調する


「そうだな、仲間が死んで後悔するよりずっといいだろ。あれでも心配なくらいだ」

「まぁ…たしかにな。俺たちがいなきゃ全滅もあり得た」

「次は学んでギルドに貢献してくれるだろうよ。ペトラから報酬を受け取ってくれ」


ペトラを見ると既に受付で待っており、手を振っている


「わかった」


ペトラのところへ行くと、またランクが上がるようだ


「お疲れ様でした、冒険者ランクは41となります。洞窟戦狼は牙獣の巣で一番厄介な魔物ですよ。お手柄です」

「え?そんなに?」

「はい、手下と共に高度な連携を仕掛けじわじわと疲れを誘い、小鬼のダンジョンを出たばかりの冒険者達がたまに犠牲になるんです。行動範囲も広く最奥からかなり離れたところまで移動するため運悪く浅いところで会ってしまうと実力が足りない冒険者は苦戦を強いられ、命を落とす事もあり得ます」


リタが疲れたような表情で同調する


「あたしも一人で会った時はほんと死ぬかと思った。なんとか手下を半分倒して逃げてくれたから助かったんだ」


よくそこまで一人で戦えたな

リタって実はものすごく強い

スキルに頼らずそこまでできるってのはよほど努力してきたんだろう


「リタすごいな」

「まぁね!伊達に一人で回ってないよっ」

「リタさんは15歳くらいの頃からよく一人で出かけれられてましたからね。実はギルドでも既に中堅レベルの冒険者です」

「えー!そうなんだ。意外というかなるほどというか…」

「まぁ、一人でやることが多いからランクもあんまりあがってないんだけどね…イズルのお陰で助かってるよ」

「それは…お互い様だしな。これからもよろしく」

「うん…うん!」


イズルがリタを微笑むように眺め、リタも満面の笑みで応える

ペトラが手で顔を扇ぎ、片手で報酬をカウンターに並べた


「お熱いですね、報酬はこちらでーす」


急に雑になったな


「いいですねぇ…受付はいろんな方とお話できますがよい殿方はあまりいませんし…」


ペトラは見た目だけ見ても美しい部類だし仕事ぶりを見る限り丁寧な女性だ

モテるだろうと思うんだが…


「ペトラは昔の男と比べる癖がなければうまく行くでしょ、ちゃんとその人を見てあげな」


おっと恋愛失敗談のTOP案件ではなかろうか

長くなりそうだし先に帰ろ


「リタ、俺は先に宿戻ってるね」

「あ、はーい」

「お疲れ様でした」

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