Ver 1.16 初心者パーティを救え 2
初心者パーティのリーダーらしき男の子がドゥアルトの顔を見上げる
ドゥアルトはため息をついて説明しはじめた
「お前たち、ダンジョンは法が及ばないとこだってのは知ってるか?」
「え?はい…」
「ダンジョンの中で命を落とす者たちは必ずしも魔物にやられるやつらばかりじゃない。冒険者同士で戦う事も多いんだ」
「え…?」
「獲物の取り合いやら理由はいろいろあるが…今回の場合お前たちを殺して魔物の追跡速度を鈍らせようって考えるやつもいるんだよ」
「………」
「さすがにギルドではそんなの裁けない、お前を殺した奴らがいたとして。理由が無ければ当然評判も悪くなるがダンジョンの中の事だ、誰にも分らない。仮にバレたとしてもお前たちを殺した奴は正当防衛だ。巻き込まれたやつらも死ぬかもしれないんだからな」
「………はい…」
とんでもないなダンジョン
俺も気を付けないと……と思ったけど既に初心者狩りに会ってたわ
「ギルドがわざわざ冒険者にランク付けてる理由がわかったか?生き残ったなら次からうまくやるんだな」
「「「すみませんでした」」」
初心者のパーティはそれぞれが深く頭を下げ、イズルとリタにも謝罪した
それを見届けた後、ドゥアルトがイズルとリタを執務室に呼び、話しを聞くことになった
「さて、お前らに頼みたいことがある」
「え?依頼か??」
「まぁ、そうだな。報酬も払おう、ちと手伝ってくれ」
「なんだよ」
「今みたいなやつらは実は少なくないんだよ。自分たちの実力がわからず調子に乗ってるやつは多い、これからいろんなパーティに声をかけていくつもりだがお前たちもあー言うのを一度ダンジョンに連れてってもらえないか?経験がなきゃ何言っても無駄なんだよな、理解できない」
めんどくさいと思ったが俺がギルドで最初に絡まれたやつもそう思ったんだろうな
俺も軽々しくダンジョンに入ったし反論できない
「まぁいいけど…どういう内容だ?」
「ランクは11くらいのパーティを付ける、浮足立ってるやつらについてって危険だと判断したときに援護してくれればいい。人は学ぶにもタイミングが重要だ、失敗したと思わなきゃ浮足立ってるやつらは聞き入れられないからな。お前も心当たりがあるだろ?」
はい、あります
勝手にダンジョン行ってすいませんでした
「イズルは俺を降参させるくらいだし、ぶっちゃけランク50くらいの実力はあるんだが経験が足りてない。この先戦う事より環境や魔物たちの習性に対処する苦労を覚えていくだろう、冒険とはそういう事なんだが戦えれば何とかなると思ってるやつが多い、それを分からせてほしい」
とはいっても俺も経験は足りてないって言っただろ
「具体的にどうすればいい?」
「牙獣の巣へ行って戦わせればいいだけだ、お前たちが極力手をださずにな」
「まぁ…そういう事なら…」
「じゃ、頼んだぞ。リタがいれば牙獣の巣くらいならどうにかなるだろ」
イズルはリタを見た
「あたしはよく一人で行ってるからね、探索は結構自信あるよ」
一人?そういえばスキルのせいでモメてたんだっけな
ドゥアルトがイズルを諭すように腕を組んで話す
「リタはスキルが不遇なだけでパーティを組んで貰えないことが多かったんだが、こつこつと努力を重ねて一人で小鬼の巣窟、牙獣の巣を回るくらいだ。探索に関して言えば相当な実力者だぞ。イズルも見習え」
「そうなんだ…」
「じゃ、明日そのパーティを紹介するからまた明日の朝来てくれ」
「「はーい」」
その後ペトラに素材の鑑定を依頼し、冒険者ランクは二人とも40になった
◆ ◆ ◆
翌日
冒険者ギルドへ行くとペトラに問題のパーティを紹介された
このパーティも皆若く、17歳くらいの女の子たちのパーティだった
「初めまして、あたしはリンデ、剣士よ」
「私はケーテ、剣士」
「私はビーネ、剣士」
全員女の子か…しかも全員剣士、そして浮き足立っていると…
「イズルだ、魔道具を使って戦っている。たぶん魔導士だ」
「リタだよ。治療士だけど剣も使える」
女の子たちは目を輝かせながらリタに集まっていく
「リタさん初めまして。あたし達リタさんに憧れてるんです」
「はぁ~すごい美しいボディライン」
「うっとりするわ~」
俺は完全に蚊帳の外である
まぁいいけど、面倒だしリタに押し付けるか
「ちょ、ちょっとあたし達のパーティのリーダーはイズルだよ」
「え…?初耳だが」
女の子たちは一斉に俺を睨む
「え?男?」
「くさそう」
「ナメてんの?」
敵意むき出しすぎだろ小娘共が
驚くまでは許すがいきなり中傷はよくない
イズルはリタを見る
「リタ、俺いつリーダーになったんだ」
「え?だってあたし治療士だし、戦闘力はイズルの方が高いじゃん」
いやいや経験はリタの方が豊富なんだからリーダーはリタでいいだろ
強さで決めるあたり脳筋らしくてリタだなって感じだ
「なんでこいつがリーダーなの?」
「顔が嫌」
「キモい」
「とりあえず中傷をやめろクソガキども」
「まぁまぁ、ドゥアルトにも勝てる実力の持ち主がそんな事いわないの」
女の子たちはイズルを見る目が変わり、表情が一気に明るくなった
「え?ギルドマスターに勝った魔力無しってあなたなの?」
「ほんとに?どうやって戦うの?」
「全然体細いのに、どうして?」
ふっ…俺くらいになればこれくらいモテてもいいよな
やっと俺にも春が来た、脳筋とホモに囲まれる生活から一転
ようやく異世界らしくなってきた
「ま、まぁな…努力したんだ。俺の武器を見てみるか?」
「やっぱキモイ」
「目がエロイ」
「鼻が膨らんでるわよクソジジイ」
くっそ…かわいくない
上げて落とすな
「はいはい、もういいよ。牙獣の巣に行くか」
イズルが呆れて背を向けるとリタは思い出したように女の子たちに質問する
「そういえばあなたたち、ランクはいくつ?」
「みんな11です」
ドゥアルトの言ってた通りだな
小鬼の巣窟くらいは行ってきたんだろう
◆ ◆ ◆
牙獣の巣
「着いたな、昨日ぶりだ」
「そうだねーもう引き連れてるやついないといいけど」
「女の子たちはみんなここは初めてか?」
「そうです、今日はよろしくお願いします」
お、ちゃんとしてるじゃないか
リーダーはリンデかな?慎重そうな表情だが少し緊張もしているようだ
あんまり心配する事もないんじゃなかろうか
「じゃあ行こう、俺たちは君たちの後ろに着くよ」
「「「はい」」」
3人とも剣士だがよく連携が取れており、ポーションを使って回復しながら奥へ進んでいく
「結構余裕だね」
「犬ばっかりだね」
「飽きてきちゃった」
早速フラグ立ててきたな
更に奥へ進むがみるみる集中力を欠いていく
余裕の表れではある
実際洞窟狼では相手にならないほど彼女たちは強く、連携がうまかった
そんな彼女たちの前に今までとは違い、一回り大きな狼が立ちふさがる
「ちょっと大きいわね」
「でも1匹しかいないよ」
「余裕でしょ」
リタは3人に忠告する
「洞窟戦狼だよ。知ってる?」
「洞窟狼の変異種でしょ?わかってますー」
「ほんとかなぁ…」
洞窟戦狼は威嚇しながら距離を保ち、女の子たちは囲むように周りに広がっていく
「ケーデとビーネが先にけん制して、いつも通りやるよ」
「「うん」」
女の子たちはうまく狼の退路を塞ぐように攻撃をしかける
洞窟戦狼は女の子たちの実力を確かめるようにひらりひらりと躱し、また距離を取る
”ウオォォーーーーーン”
洞窟戦狼が遠吠えを上げた
すると前後から10数匹の洞窟狼たちがわらわらと集まってくる
「え?ちょっと…」
「いつの間に??」
「ピンチじゃないこれ…」
リタは頭を抱えて3人に話した
「洞窟戦狼は群れのボスだよ、1匹で行動してるわけがないの。君たちが倒せる相手かどうか確かめてから仲間を呼んだんだね、知ってたんじゃないの?」
女の子たちは焦りながらイズルとリタを中心に円陣を組み始めた
「変異種ってその辺の雑魚よりちょっと強い程度でしょ…」
「群れるって言ってもゴブリンと一緒でしょ?大したことないよ」
「いつも通りでやれるもん」
リタはため息をついた
「じゃあやってごらん、あたし達は手を出さないよ」
「やってやるんだから!」
女の子たちは気合を入れて前後を警戒する
リタは小声でイズルに話しかけた
(たぶんこの子たち勝てない。援護する準備してて)
イズルは小さく頷き、そっと両手を合わせる
囲まれ、近づいては空振りを誘いいつまでも狼たちは攻めてこない
30分も続くと緊張と空振りで明らかに女の子たちの疲労がたまっていく
「はぁ…はぁ…いつまでこうしてるのかしら」
「動こうとすると動いてくる…やりにくい」
「どうしよう…一点突破する?」
「そうね、埒が明かない…イズルさん、リタさん。ついてきてください」
リンデの掛け声と共に女の子たちは来た道を戻るように一斉に走り出した
狼たちは”道を開け”、女の子たちは中央を走っていく
”ウオォォーーーーーォォォオオオオオオ”
洞窟戦狼がまた遠吠えをしたかと思えば様子が違う
上ではなく正面を向き、大きな口を開けている
空気が揺れ、ビリビリと鳴る
次第に押されるような圧を感じ始めた
「リタ、これはまずいぞ」
「避けるよ」
リタとイズルが狼たちがあえて開けた道を逸れ、横に飛ぶ
巨大な衝撃波が地面を抉りながら走り去る女の子たちをめがけて迫っていく
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