Ver 1.21 機嫌の悪い女神がチョロい 3

ルトラをビアスに紹介し、宿に戻ると夜だった


イズルは自室のテーブルに座るとため息をつく


「結構疲れたな。しかし女神の恋は実るのかね?絶望的な第一印象だったが」


魔力鞄から女神の鐘を取り出し、テーブルに置くと早速鐘が震え始めた

静かに、それでいて不快ではない高い音が響く


「ビアス様~♪早速参りましたわ」


声のする方に顔を向けると女神が抱き着いてくる

大きな胸をイズルの腕に押し当て、ヒラヒラの薄いベールに身を包み

布は透け、何も隠れていない


「もう私お会いしたくてたまりませんでし………」


イズルは女神の様子が面白くてたまらず

悪魔のような笑みを浮かべてルトラを見た


「ひぃぃぃぃっ」


ルトラは飛び退き、後ずさる


「誰…え…?は??なんであんたがいるのよ!ビアス様はどこ!?!?」


狼狽えるルトラを見て必死で笑いを堪えるイズル

ルトラは周りを見るとイズルの宿であることに気が付いた

急に自分の姿を恥じ、手で胸や股を隠す


「ちょ………どういうことよ!説明しなさい」

「職権乱用が過ぎる上に当日の夜に夜這いとは…結婚を焦る行き遅れの女みたいだぞ。悪いことは言わんからやめとけ?絶対モテない」


ルトラは目を見開き必死な形相で言い返す


「うるせぇぇぇぇ!女神ナメんじゃねーぞ!数百年干上がってんだよ!」

「正直すぎて草。引くわ」


ルトラは赤面し、ギリギリと歯を鳴らす


「ぐぅぅぅ……で、なんであんたがその鐘持ってるのよ……」


ルトラはベッドに向かい、シーツを剥がして体に巻くとテーブルに着いた


「ホントに遣わした人間以外の事はわからないんだな」

「そういう権能だからね……」

「そういえば会った時俺の記憶読んでただろ?読まないのか??」

「いやよ。ビアス様の知られざる一面を発見するのも恋の楽しみじゃない、何もかも今知ってしまうのは面白くないわ」


ルトラはつんと顔を背けた


あっそ、すごくどうでもいい理由だった


「じゃあ説明してやるよ。ビアスのスキルは精霊の主って言うらしい、常に四大精霊が周りにいるんだってさ。ルトラが近づくと精霊たちが委縮するのか反応なくなるらく、それが不安になるって言ってこれを俺に預けた。お前の匂いのするもの全部ダメじゃないの?たぶん」

「…………」

(精霊がいたのは見えていたわ、普段ずいぶんとお喋りな精霊なのね…あれだけ大きいと人にはリスクもあるかもしれないわ)


ルトラは呆然とテーブルを眺めている

数秒沈黙し、小さく頷くとイズルを見据えた


「あっそ、それならしょうがないわね」

「おや?もっとがっかりするかと思ってたけど」

「その程度で私たちの愛が揺らぐことなんてないわ。私が彼に安心を与えられる女になればいいんだもの」


イズルは女神の言葉に初めて感動を覚え、驚いた


「おぉ…ご立派。初めて女神らしいと思った」

「当然でしょ。応援してもいいのよ?そしたら美しい私があなたにほんの少しだけ優しさと私たちの幸せを分けてあげてもいいわ」


ルトラは斜め上からイズルを見下し、勝ち誇った笑みを浮かべる


こいつ…俺の能力を最低にしておいて図々しい


「ふざけんな、地獄に落ちろ」

「ふっ…嫉妬する男は見苦しいわ。モテないわよ?」


イズルはルトラを睨み、ルトラもこれ見よがしにイズルを見下した


「こんの堕天使が…」

「ふふ…あんたは地べたで這いつくばってなさい」

「腹立つ女だな」

「ふん、童貞が偉そうにしない事ね」

「は?……あ、そうかこの世界じゃ俺童貞か」

「そういう事よ。女を知りなさい変態」

「………って事はお前女神のくせに穢れてんのか?」

「なっ!言うに事欠いて…私のは純愛だって言ってるでしょ!」

「アバズレポンコツ女神か」

「くっそ………あんた絶対地獄に送ってやるわ」


ルトラとイズルは顔を近づけ、睨み合う


コンコン


「イズルー。誰かいるの?」


ルトラは扉を睨み、イズルを見た


「ちっ…次も必ずセッティングしなさいよ!いいわね!」


ルトラは立ち上がり、薄くなっていく


リタがゆっくりと扉を開け、顔を出した


「あれ?誰かと話してなかった?」

「ん?独り言が過ぎたかな…新しい術式について考えてたんだ」

「……ふーん。ねぇ、紅茶飲んでいい?」

「どうぞ、好きなだけ飲んで」

「やった!お邪魔しまーす」


リタが紅茶を淹れ、相変わらず一人分だけ用意しテーブルに着く


「ねぇねぇ」

「なんだ?」

「誰と喧嘩してたの?」


くっ……聞いてたならそう言ってくれ


「も…もう一人の俺というか…」


苦しい言い訳になった…自分で中二病を告白する事になるとは


リタは紅茶を両手で持ち、一口啜る


「ふーん、女の人の声で?」


ちょっと全部聞いてたならそう言ってよ…


「意地が悪いな…どこから聞いてたの」

「さぁ…なんで隠すの?」


あーこれご機嫌ナナメなやつだ

アバズレポンコツ女神め…本当に余計な事ばかり…

どうしよう、もう言っちゃったほうがいいのかな


「うーん…信じてもらえないかもしれないと思って…」

「………」


リタはじっとイズルを見つめ続ける


「はい、ごめんなさい。ちゃんと話します」

「はい」


イズルは転生の話と女神の話をし、女神の恋路に巻き込まれていることを包み隠さず話した


「これは秘密にしといてくれよ。俺が神の使いだって噂になったら魔力無しスキル無しなのに?って絶対からかわれる。神に見放されてる癖に~なんて面倒ごとに巻き込まれたくない」


リタはじっと紅茶を見つめながら聞いていた


「ねぇ…嘘つくならもうちょっと…あるじゃん?あたしちょっと悲しい」


オイー!

正直に話したんですけどォォォォォ


「相手は誰なの?神託の女?勝手に入ってくるって言ってたっけ…」


え?出て行っちゃうのかと思った


「ねぇ、困ってるなら言ってよ。あたしも力になるから」


お?うん?なにこの流れ


「まぁ…困りはしてる」

「わかった。あたしはイズルのパーティメンバーなんだからね!一人で抱え込んじゃだめだよ!その女が現れたら呼んで!呼ばなくても気配がしたら今後飛び込んでくるからね!」

「お、おう。お願いします…」

「よし、わかった。あたしいつも隣にいるんだからね!でも…今日は…一緒に…寝てあげる…」


棚ぼたで草

めっちゃハラハラしたわ

今日で童貞卒業しちゃいまーす!女神お先ー!ハッハー

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