Ver 1.14 怪しい訪問者

「イズルというはぐれがいたでしょ。どこにいるの?」

「知らないわよ。自分で探したらいいじゃない」


リタとクリスの魔道具屋の扉をくぐると、カウンターでクリスと客が言い合いをしていた


「どうしても教えてくれないの?」

「アタシが知るわけないでしょ!」

「アナタが知らないわけないでしょ、言いなさいな」


クリスが俺たちに気づくと客の目を盗んであからさまな目くばせをする


(あんた達を探しに来たドリアルトの魔導士よ!今は帰ってちょうだい!)


バッチンバッチンと大きな目を片方何度も閉じたり開いたりするクリス

イズルにもリタにも残念ながら意図は伝わらなかった


「クリスー!イズル冒険者ギルドの試験に受かったんだよー」

「あぁあぁぁぁぁぁぁああ!!」


クリスの大声に一同が驚き、顔を見る


「う”ん”ん、ウン。ちょっと今日は喉が荒れるわね」

「ちゃんと聞こえてるからごまかさなくてもいいわよ」

「………リタちゃんのお馬鹿さん」


クリスと言い合いをしていた魔導士はイズル達に顔を向ける

年齢は30代くらいだろうか、大きな胸を強調するように胸元のあいたローブを身にまとった魔導士だ


「あなたがイズル?探してたのよ」

「誰だ?」

「ドリアルト商会の雇われ魔導士よ。昨日の攻撃はアナタでしょ?」

「何の話だ?」


本当に優秀なんだな、バレてないと思っていたが


「うふふ、術式を重ねて使うのはアナタくらいしか噂を聞かないわ。私は攻撃の瞬間を見てたの、それに敵対しにきたわけじゃないのよ」


リタとクリス、イズルがそれぞれ顔を合わせ、きょとんとしていると魔導士は話しを続けていく


「私はヨハナ。見ての通り魔導士よ、私もドリアルトが嫌いなの。金払いはいいけど事あるごとに身体を触るわ求めてくるわなんでも金で片付くと思ってる最低のジジイよ」


表情からは嘘か本当か読み取れない

だがまぁ…そんなことされてれば誰だって不快だろうな


「なんで俺を探してるんだ?」

「魔導士としての興味よ。アナタの開発したっていう空調の話しを昨日聞いたの、ねぇ、アナタの術式の知識を教えてくださらない?私からは魔導士としての知識を教えて差し上げられるわ」


俺の吸魔術式が目当てか、自身の魔力を消費しない術式に気づいているんだな


「なぜだ?魔道具くらい作れる奴は腐るほどいるだろ」

「アナタにしか作れない術式があるでしょ?そうでなきゃ魔力無しが魔法を使えるわけないじゃない」


やっぱり気づいてるな


「知識の交換ができるなら私はアナタたちを懲らしめた事にして、追手が今後向かわないようにできるわよ。ドリアルトを懲らしめたいなら事前に言ってくれれば手伝うわ」

「破格の条件だな、なんでそんなに知りたいんだ?」

「知らない魔法なら興味湧くのは当然よ。それに私は魔法陣を使った防衛魔法が得意なの、魔力を消費しない術式があるんなら当然興味湧くじゃない」


なるほどな、けど俺の吸魔術式は空気中の魔力を吸うだけで消費しないわけじゃない

求めているものと違うかもしれないが追手がかからなくなるのは魅力的だ

攻撃したのがバレてしまっている以上クリスが巻き込まれるのは避けたい


イズルは頭をかきながらため息をついた


「たぶん思ってるのとは違うぞ」

「いいわよ、使い道は使う側が決めるものだもの」

「約束は守れよ」

「もちろん。任せて」


◆ ◆ ◆


クリスの魔道具屋工場を借り、数時間かけて講釈を行った


クリスは終始険しい顔をしている

リタは最初の30分で寝た

ヨハナは理解しているようで目を輝かせて話を聞いていた


「すごいわ、術式を分解して組み合わせて使うなんて発想なかった」

「俺以外が使えないようにする工夫の一環で思いついたんだ。吸魔の術式を書いてその他の術式を内側に書く、すると吸魔が内側の術式に魔力を供給する、起動用の術式以外は魔力を含ませていないただの文字を映し出すだけだからそれらを単体で起動させても動かないようになっている」

「なるほどなるほど」

「ただ術式魔法にも当然欠点がある、吸魔は空気中の魔力を使う。場の魔力量に左右されるし、術式全般あらかじめ記載した規模の魔法しか発動しない。だから俺は術式を重ねて魔法を束ねてる」

「うんうん」

「結界みたいな場を覆う術式の場合は吸魔術式は不向きだ、空気中の魔力を吸い続けるから場の魔力供給量を上回れば当然枯渇する」

「それ、解決できるわよ」

「ん?」

「発動したら吸収を止められるようにするの、そして壊れたらまた吸収すればいいと思わない?」


なるほど、それなら障壁類も張りっぱなしにできる


「どうやったらできるんだ?」

「ふふ、ちょっと書き足してみていいかしら」


術式は魔法陣を分解したものだ、ヨハナの知識は術式にも応用できた

魔法陣には発動するタイミングを決められる方法があるらしい

代表的なものだと罠魔法陣などがそれで人が乗ると発動する、という具合だ


「ダンジョンによくある罠魔法陣はダンジョンが魔力を供給しているけれど、常に魔力を使っているわけではないのよ。条件を満たすと発動し、それ以外は休止しているわ。今回はそれの応用ね」

「ほー、面白いな」

「そうでしょ、今日は楽しかったわ。またお話しましょ、ドリアルトは任せておいて」

「わかった。思っていた以上に有益だったよ、また話せると嬉しい」

「うふふ、今度はお茶しながら話しましょ。またね」


ヨハナが席を立ち、帰っていくとクリスが鬼のような形相でイズルを見る


「………浮気者」


いやいや健全な意見交換だったでしょ


「ふぁっ…浮気!?」


リタが飛び起きた


「イズル?浮気したの!?」

「誰とだよ…」


リタは寝ぼけた顔で周りを見る


「クリス…?」


それはないな

なぜお前は俺をホモの餌にしたがるんだ


「はいはい、寝ぼけてないで帰りますよ」


クリスが爪を噛み、更に険しい顔になっていく


「それじゃ…リタちゃんとイズルちゃんが付き合ってるみたいじゃない…いつの間に?」

「話しがどんどんややこしくなるな」


イズルが呆れているとリタが顔を赤らめ恥ずかしそうに話し出す


「え?えへへ…イズルって太ももすきなんだって」

「は?」


クリスが親の仇を見るようなめで俺を見つめ始めた


「イズルちゃん…どういうこと?」


めちゃくちゃめんどくさいことになった

帰りたい


「回復するときに寝かせられたんだよ…」

「寝……もう寝たの??いつよ…アタシそんなの知らないわよ!!??」


どう言えばよかったんだよ

助けてくれ


クリスは立ち上がり、中腰でイズルの方を向くと両手を前に上げ全身を左右に揺らし始める


「イズルちゃぁぁぁぁぁああん」

「うわぁぁぁぁ」


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