Ver 2.09 魔物の大軍が攻めてきた 1

冒険者ギルドから各ギルドに対してクラン、ソロ問わず参加を求める依頼があると街の中で盛んに叫ばれている


イズルとリタはゴットゥムの食材調達のために冒険者ギルドに寄る途中

街の人たちが噂するところを聞いた


「リタ、この騒ぎは?」

「タイフーンだね、たぶん」

「タイフーン?」

「魔物の奔流とも言うんだけど、ダンジョンから溢れた魔物が集団で押し寄せてくる現象だよ。これでいろんな国や街が滅亡したんだ」


なるほど、この世界が滅亡しかけている原因のひとつか


「ギルドで説明されると思うから行ってみよ」

「わかった」


◆ ◆ ◆


冒険者ギルド


受付でペトラに事情を聞いたところ、やはりタイフーンだった


「イズルさん、リタさん。お久しぶりです、ちょうどいいところに」

「タイフーン?」

「はい、3日後に到着するようです。魔物の構成は地上を走る魔物が千匹前後、空を飛ぶ魔物が100匹ほど、中にはワイバーンも確認されています」


ワイバーン、竜種か

それはまた大変そうですね


「空の魔物ってどうするの?」

「ほとんどが魔導士頼みです、弓も届きませんし…」


なるほど、攻撃するまで降りてきてくれないやつか


「なので魔導士は貴重な戦力となります。ぜひイズルさんも参加お願いします」


いや俺魔導士じゃないんだが…魔力無いって知ってるでしょ

きっと前線はみんなが魔法使うから場の魔力も枯れるだろうし俺することないんじゃないかな?

リタがひたすら魔石割り続けるの?限度あるし


「うーん、参加したいけど俺が役に立つかどうか…」


ペトラは大げさに頭を下げながら声を張ってイズルに願い出る


「お願いします!!」


ペトラの大声で他の冒険者たちからも注目を浴び、断れる雰囲気ではなさそうだ


「う……わかったよ。一応参加するけど、期待するなよ」

「ありがとうございます!よろしくお願いいたします!」


うぅ…お腹痛い…

絶対役に立てないぞ


まぁでも何もしないわけにもいかない、あと3日もあるなら手を尽くしてみよう


◆ ◆ ◆


ケラウノス 執務室


リタ、クリス、ヨハナ、トールを呼んで作戦会議を始めた


「皆知っての通り3日後にタイフーンが訪れる、人手がとにかく必要らしいのでクランにいるメンバーは全員参加だ」


当然断る人間はいなかった


「で、対策したいんだけどいつもどうしてるの?偉そうに言ってみたけど俺初めてだしよくわかってない」


ヨハナが手を挙げた


「いつもは皆で並んで魔法から入る、そして近接職が抑える感じよ」


それだと結構死人出そうだな、しかも空の事について触れられてない


「空は?」

「魔導士が撃ち落として前線を上げて仕留める感じね、前線が上がるまでひたすら撃ち落とす事になるわ」


地獄だな

魔力尽きたらどうするんだ


「魔力尽きないのか?」

「当然尽きるわよ、3交代くらいで延々と撃ち続けるのよ。ポーション類も大量に持って」


魔導士の責任重大だろ…しかも前線が上がるまで突っ込むわけにもいかないし仕留めきれなかったらそいつの足止めずっとやんなきゃいけないのか


「死人は出る?」

「当然、参加人数次第だけど毎回1,000人以上死傷者が出るわね」

「最悪だな」


トールが頷いた


「はい、街は昔30万人を超える人口があったそうですが…食糧難とタイフーンにより徐々に数が減り、今は10万人前後となっております。一夫多妻制も採用され各々頑張ってはおりますが子を多く持つ家庭の金銭的負担も多く…あまりうまく行っているとは言えませんな」


一夫多妻制なの初めて知った

まぁでもそうでもしなきゃ増えないだろうな


とりあえず現状は対策と言っても気合と根性でなんとかしているって事か

空の魔物に限らず広範囲を攻撃するなら魔法は必須


「うーん、被害を押さえるとなると魔力効率のいい兵器がいるな」

「兵器?グングニルが所有する攻城塔のようなものですか?」

「攻城塔?そんなのあるんだな。攻めるとこ無いのに」

「はい、階段上になっており、飛び道具を持つ者たちの射線を確保するためのものとして運用されております。本来の機能は果たしておりません」


なるほどね、一応兵器はあるんだな

そういうのではなくて、もっとこう…元の世界にあるような兵器が欲しい


「俺の元の世界にあった兵器で使えそうなものは対空砲と迫撃砲くらいかな…」


ヨハナが興味を示した


「なぁに?どんなもの?」

「元の世界では魔力がない代わりに火薬と鉄、電気を利用したものが発展してたんだ、対空砲は鉄の弾を上空数キロ先の敵を撃ち落とすための使われてた。迫撃砲は上に打ち上げた鉄の弾が前線を超えて敵の集団に着弾すると爆発して攻撃を加えるモノだな」

「面白そうじゃない、作ってみましょう?」

「うーん…でもあと3日だぞ?」

「似たような機能を持つものがあるわよ。バリスタって言って槍のような矢を飛ばす兵器なんだけど、それを流用すればいいんじゃない?」


バリスタか、巨大な弩だな

この世界にもあったのか


「ほー、バリスタがあるのか。トール、それはどれくらい仕入れられる?」

「仕組みは簡単ですので3日もあれば20台は用意できるでしょうな」


それだけあれば十分やれそうだな

あとは弾と飛距離か


「バリスタってどれくらい飛ぶんだ?」

「物によりますが300メートルくらいですな、矢羽根が付けられないため精度もあまりよくありません」


思ったより短いな

弾頭に爆破の術式を、矢羽根を本来つける位置に反発の術式も入れて飛距離がどれくらい伸ばせるだろうか、実験する必要があるな


「わかった。急いで一台用意してほしい」

「承知しました」


あとは場の魔力が枯渇するだろうし、魔石の魔力を使うタイプにするか

1発の威力と飛距離次第ではそこそこの大きさが必要になりそうだ


「魔石も数必要になるな、倉庫にあるものも全部引っ張り出してくれ」

「承知しました」


矢が飛び出すところに術式を展開するようにして、矢が通る時に時限式の爆破術式を付与すればいいかな?

弾は普通に製造したものが使えるはずだ

早速試してみよう


◆ ◆ ◆


魔物の奔流到着予定日


街の南、数キロ先に奔流が確認されたと情報が入った

冒険者達は慌てて準備を整え、配置についていく


バリスタは諸々調整して数は10台、飛距離は1キロメートルとなった

割と大きくなってしまった

人一人で運ぶのは不可能な重量だ、50キロほどで

弓の長さも2メートルはある、まぁ重いのはほとんど土台だが


必要な魔石のサイズはゴブリン達のもので1発分の魔力

矢が飛ぶと術式を通って加速し、10秒後に爆裂する

空の魔物でも小さいものなら衝撃波で翼くらい折れるだろう、ワイバーンは知らんが


バリスタの準備をしているとトールと共にバンダナを巻いたムキムキのお兄さんがやってきた


「あんたがイズルか?」


誰だ?知らない人だが


「バリスタの製作をやってたバルナントだ。もしもの時の整備の為に来た」


なるほど、確かに

発射自体は普通のバリスタだから壊れる可能性も十分にある


「来てくれてありがとう。助かるよ」

「おう、その辺で見てるから何かあったら声かけてくれ」

「わかった」


準備を整え、魔石をバリスタに装填してしばらく待つと報告のあった方向から大きな土煙があがり、ワイバーンを含む空の魔物たちが目に入る


「来たな、射撃用意!」


クランメンバーが全員バリスタに着き、合図を待つ

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